2010-08

  文:玉木英明

2010年 8月号 朝夕にぎやかな蝉の声。夏の風物詩かまきりとの出会い。

 

日本の夏。セミの声。

セミ : ミーン、ミーン、ミィィィン!

カマキリ: 暑いわ。暑いときに、その鳴き声は、 よけいに暑く感じるわ。

セミ : ジィージィージィー、ジィィィィ~!

カマキリ: ちょっと!やかましいっていってるの、聞こえないの?

セミ : ツクツクボゥーシ、ツクツクボゥーシ、ウイョース、ジィィィィ~!

カマキリ: そこの昆虫!いいかげんにしないと、 ほんとうに怒るわよ!

セミ : ぼくのことかいな?ぼくは「せみ」やよ。みんな「せみくん」って

呼んでるで。

カマキリ: まっ!自分の呼び名に「くん」をつけるなんて、生意気よ!

セミ : そういうあんさんは誰かいな?

カマキリ: このスラリとした姿が目に 入らないの?私は、プレイング・

マンティス(praying mantis)よ。

セミ : ボクには、ただの「かまきり」にしか見えへんけどなぁ。

カマキリ: 日本語ではそうもいうわ。

セミ : ほな、あんたかて「昆虫」やんか。

カマキリ: うっ…ちがいないわ。でも、 私にはこのキラリと光る武器が

あるわ。この武器こそ私の象徴、アドバンテージね。

セミ : そのカマを持ち上げた姿がおがんでる姿に似てるから、ぼくのおじい

ちゃんらは、カマキリのことを「おがみむし」呼んでたでぇ。

カマキリ: やめて、やめてんか!うちは、「プレイング・マンティス」や!

「おがみむし」やないわ!

セミ : なんや、あんたかて関西人、いや関西虫やったんか。

カマキリ: ばれてしもたら、しゃあない。私は大阪の出身や。近鉄急行に

乗って鈴鹿に来たんや。

セミ : なんやら、ローカルやなぁ。タマキタイムズに出てくる出演者は、

みんな関西弁や。

カマキリ: ええやないの、ほっといてんか。それより、あんたら「せみ」は

英語でcicada 「死刑だ」って呼ばれてるように聞こえるわよ。

セミ : それは、あまりに「失敬だ」。

カマキリ: あっはっは、うまい、うまい。ざぶとん2枚あげて。

セミ : 実はヨーロッパの国々は、日本よりも緯度が高いものやから、せみも

あんまりいなくて、おっても小型で声の小さい種類しかおらへんの

や。そやから、日本のせみの声は、ヨーロッパの人ら、特にイギリ

スやドイツの人らにとっては、めずらしいものなんやで。

カマキリ: あほな!夏にあんたら「せみ」はやかましい、いうことぐらい誰

でも知ってまっせ。

セミ : いや、日本のドラマを欧米で放映するとき、セミの声は、日本ではい

かにも暑い夏の場面を感じさせるBGM(後ろでなっている音)

なんやけれど、欧米では妙なノイズ(雑音)が入っていると勘違い

されるんや。そやから、夏の場面ではせみの声を消して輸出するん

やで。

セミは地味?

カマキリ: いずれにしたって、あんたら「せみ」は、地味な役柄や。主人公

にはなれへん。イメージが暗い。

セミ : イソップの書いた童話で、「アリとキリギリス」って知ってるやろ?

カマキリ: 知ってるわよ。夏の間にアリがせっせと働いて食べ物をためてい

た時に、キリギリスが歌をうたって過ごしていて、冬になって食べ

物がなくなってからアリにもらおうとしたけれど、断られたってい

う、あの話でしょ? それがどうかしたの?

セミ : イソップいう人は、地中海にあるギリシャ人やったから、彼の作った

もともとの話は「アリとセミ」やったんや。ただ、北欧に伝えられ

る時に、あんまりヨーロッパでおなじみでない「セミ」から「キリ

ギリス」にかわってしまって、それが日本に伝えられたから、日本

人は「アリとキリギリス」としてイソップの話を知ることになった

んや。

カマキリ: ほんまかー?「アリとキリギリス」のほんまの主人公は、セミや

ったなんて…。

セミ : 俳句や短歌の題材としても、ぼくらセミは日本の夏を端正にあらわす

物としてよう出てくるで。日本松尾芭蕉の

「閑さや 岩にしみ入る蝉の声」

という俳句は知ってるやろ? ぼくら「せみ」のイメージは、決して

悪くないよ。正岡子規の「一筋の夕日に蝉の飛んで行」やら、寺田

寅彦の…

カマキリ: わかった、わかった、わかりましたがな。あんたもの知りやなぁ。

セミ : それに比べて、あんたら「カマキリ」は、俳句に登場することなんか

あらへん。「夏草やカマキリどもが夢のあと」なんて芭蕉がよんだ

ら、笑えてくるでぇ。

7日で死んじゃう、はかない命?

カマキリ: そやけどな、あんたら「せみ」は、成虫になって地上に出ると短

時間で死んでしまうのやろ?私、知ってまっせ。なんやら、はかな

い、あわれな昆虫やがな。

セミ : いや、それは実は間違うてるんや。人間がぼくら「せみ」の成虫を飼

育しようと思うてかごに入れると、すごく困難で1週間ほどで死ん

でしまうから、せみははかない、日本的な「もののあはれ」を感じ

させるものとして考えられてきたんや。ただ、成虫のせみは屋外な

ら1ヶ月ほどは生きてることが確認されてる。それに、ぼくらせみ

は幼虫として地下生活をする時間は3年から17年、あぶらぜみで

も幼虫の期間は6年もあるんや。短命どころか、昆虫の中では上位

の部類に入る長寿生物なんや。

カマキリ: ほ、ほんまか?なんやら、こっすいなぁ。セミは俳句によまれて

日本の「もののあはれ」で、アリとキリギリスは実はアリとセミで

ほんでセミは実は長生きで、ほんで主人公で…うっうっうっ…。

セミ : 泣かんでもよろしいがな。泣いてるカマキリさん、かわいいで。

カマキリ: うそや。私の顔が「宇宙人」みたいやとか、仮面ライダーみたい

やとか、みんないうてる。

セミ : そんなこと、ないやんか。

カマキリ: うちが肉食で、他の虫をこのカマで捕らえて捕食するから、残酷

な昆虫や言われてるの、知ってまっせ!

セミ : そんなこと、ないって。

カマキリ: メスの私がオスより体が大きくて、オスを食べてしまうから、

妙なイメージで語られることばかりよっ!

セミ : 怒らんでもええがな。泣いたり怒ったり、いそがしなぁ。日本の夏休

みに、何を宿題研究にしたらええのか悩んでる小中学生の生徒たち

がおるやろ?その子供たちが、セミやらカマキリやらを題材に選ん

だらおもしろい、いうことが今日はわかったわけやから、よかった

やんか。

カマキリ: セミさん、あんた、ようできた人、いや、虫でんなぁ…。なんや

うち、あんさんのことが好きになってきましたわ。

セミ : ぼくの、どんなところに魅力を感じますのや?

カマキリ: 全部や。何か、あんたの全てが、愛おしくなってきましたでぇ。

セミ : うれしいような…こわいような…。

カマキリ: おなかがすいてきましたでぇ。お願いや。ちょっと…ちょっとで

ええから…あんたを…かじらせて!

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