2015-05
文:玉木英明
2015年5月号 観光地にあふれる中国人旅行者。大人気、日本への旅行。
中国からの観光客
パンダ:チントゥイプーチー(真对不起)。
スズメ:うわっ!びっくりするでしょ!
大きなのが、いきなり目の前に顔を出さないでよ!
パンダ:ポオゥチー、ウォースン・トゥンクーライ(抱歉、我从中国来)。
スズメ:あら、中国の方?…しょうがないわね。タマキタイムズでいつも登場する翻訳機
を使おうかしら。
パンダ:ウォーシー・チーシンマゥ(我是一隻熊猫)…おじゃましまんにゃ~わ。
スズメ:この翻訳機、関西弁でしかも吉本新喜劇の井上竜夫のギャグに翻訳するのね。
あなた、だれ?
パンダ:ぼくは、パンダ。朝食に食べるのはご飯でも、パンダ。
スズメ:…おもしろい自己紹介をするわね。どうして中国のパンダが、こんなところを
ウロウロしてるのよ?
パンダ:このあたりに、ヤマダ電機かビッグカメラはありませんか?
スズメ:何を買うつもりですのや?
パンダ:炊飯器です。12個ほしいのです。
スズメ:…えらい数やなぁ。そんなにぎょうさん買うて、どうしますのや?
パンダ:「日本に旅行に行く」と言ったら、ご近所のみんなに「買ってきて」と
たのまれたのです。
スズメ:中国製かてありますやろ?
パンダ:日本製の炊飯器のよさは、使ってみたらすぐわかります。ほんとに、調子が
いいのです。おいしいご飯を、実に上手に簡単に炊いてくれます。しかも、
壊れません。
スズメ:2年前に尖閣諸島のことで、もめたとき、中国人は日本に来なくなったじゃ
ないの?ザ・タマキタイムズ2014年2月号を見てみなさいよ!
パンダ:2014年の中国人旅行者は240万人、今年も1月だけで22万人、去年の1.5倍の
ペースです。過去最高の人数です。
スズメ:それで、最近どこに行っても中国人旅行者がいっぱいなのね!もう、
うんざりよ!
パンダ:そんなこと言わないでください。ねっ?この南京豆あげるから。
スズメ:…あら、それって落花生…ピーナッツね。あなたって、すごくいい奴ね。
パンダ:コロッと態度がかわりましたね。
背景に中国の経済力
スズメ:なんで、こんなに中国からの旅行者がいっぺんに増えましたんや?
パンダ:やっぱり、増えてますか?
スズメ:増えたもなにも、パンダのあんたまでが旅行に来てるわけでしょ?
パンダ:中国人の経済力が上がったことが、理由の一つです。
スズメ:あのねぇ、日本のほうが、経済大国で…
パンダ:ご存知でないのですね?GDP(国民総生産)は、中国が日本を追い抜いて、
世界第二位になったのですよ。
スズメ:…なによ…。国民一人一人におしなべて考えたら、絶対に日本の方が…
パンダ:一人あたりのGDPも、香港は日本を追い抜きましたんや。中国の国民の、上位
1割の年収が、2014年には500万円を越しました。
スズメ:たった1割の人でしょ?
パンダ:中国人の1割は、日本の総人口より多い1億3000万人ですよ。その人たちの年収が
500万円以上になったのですよ!
スズメ:…つばが飛んでまっせ。それに、おしゃべりなパンダ、私はきらいや。
パンダ:日本の人口は1億2000万ちょっとで、その半分しか労働人口はいません。国民
全体で平均すると、2014年の日本の一人あたりのGDPは、385万円しかあり
ません。
スズメ:…あかんやないの…
パンダ:そう、あきまへん。
スズメ:まねせんといてんか。
パンダ:すんまへん。
強い人民元、安くなった日本円
スズメ:あのなぁ、日本円を「なめたらいかんぜよ!」。
パンダ:おっ、「鬼龍院花子の生涯」の名文句ですね。1985年の流行語です。ということ
は、あなたの年齢は、50代ですね?
スズメ:ほっといてんか!あのな、2009年に1ドル78円やったものが、いまや120円や!
ふっふっふ。やっぱり、日本の通貨は強いでぇ!
パンダ:…あのね、同じ1ドルのものを買うのに、5年前は78円で買えたのに、
今は120円払わなければなりません。日本円は、安く、弱くなったのですよ。
スズメ:…ほんまか?…なんで…なんで、こんなことになったんや?
パンダ:中国では、強力な景気刺激策のおかげで人民元の価値が上がり、逆に日本は
アベノミクスで、極端な円安になりました。簡単にいうと、日本円は中国
人民元に対して2年間で3分の2の価値に下がったのです。
スズメ:…中国の安い物価と、日本の高い物価の差が縮まって、ちょうどええわ。
パンダ:一部では逆転してしまいました。
スズメ:え?日本のほうが「物価が安くなった」ということ?
パンダ:そうです。特に北京や上海などから来た人にとっては、交通料金を除いて、
食品、衣服、雑貨、さらには不動産まで日本のほうが安くなってしまったのです。
スズメ:それで、大型観光バスで乗り付けた中国人が、大量に電化製品やブランド品を
買っていく姿をよく見かけるようになったのね?
パンダ:そうや、そうや、宗谷岬や。
スズメ:…オール阪神・巨人のギャグやね?
パンダ:ちがいます。中田ダイマル・ラケットのギャグです。
スズメ:あなた、日本通ね。まあいいわ。中国のお金持ちが日本に来てくれるのは
大歓迎よ。
パンダ:大型バスで量販店に押し寄せているのは、中国の「庶民」です。
庶民ビザと富裕層ビザ
スズメ:どういうこと?
パンダ:中国人に発給されるビザは「団体旅行・庶民ビザ」と「個人旅行・金持ちビザ」
の2つがあって、大勢で日本にやって来て、大量に買い物をしていく中国人たち
の持っているのは、1回限り発行される庶民ビザなのです。
スズメ:…じゃあ中国の「お金持ち」は…?
パンダ:家族など少人数で、貸切の車で旅行をしています。「自由行動」であるのは
もちろん、高級旅館に泊まって、高級ブランド店をまわるのです。
スズメ:個人旅行の金持ちビザ?
パンダ:そうです。期限5年間で、その間何回でも日本に来れるのです。
スズメ:「団体旅行ビザ」と「個人旅行ビザ」、発給される時の基準は何なの?
パンダ:ズバリ、その人の年収によります。年収が多い人は「個人旅行ビザ」が発行して
もらえるのです。
スズメ:ダイレクトな制度やね。それで、人気の観光スポットはどこですのや?
パンダ:ディズニーランド、富士山、京都が定番でした。ただ、大震災以降、東北など
にも中国の人たちが大勢来てくれるように制度を変えました。何回でも日本へ
旅行をできる個人ビザがたくさん発給されるようになったから、日本中いろんな
ところに、中国人が訪問するようになったのです。
旅行中にいなくなったら…
スズメ:日本の観光をしている途中でいなくなって、ないしょで日本に住み着こうという
中国人かて、いてるでしょ?
パンダ:ええ、ゼロではありません。ただ、中国人向けのビザ発行は、旅行社が保証人に
なる仕組みになっています。
スズメ:旅行社が保証人?
パンダ:そう、途中で旅行者がいなくなったら、次回からその旅行社にはビザが出にくく
なります。だから、旅行社も参加者から保証金をとって、日本に不法滞在しない
ようにしているのです。
中国の人たち、何回も来てくれれば
スズメ:外貨をかせぐのに、旅行者を増やす必要なんか、あらへん、あらへん!日本は
優秀な製品をつくって売ってればええのや。
パンダ:日本経済は、輸出でそれほど稼げなくなってて、貿易赤字がふえています。
スズメ:ほんまでっか?
パンダ:ほんまです。ただ、ここへきて日本人が海外旅行で使うお金と、外国人が日本で
の旅行で使うお金の収支差、「旅行収支」が、2000年頃は、年間3兆円の赤字
でしたが、外国人観光客の増加で、プラスマイナス・ゼロにまで近づいています。
スズメ:そうでっか…日本経済にとって、中国人観光客は、おおいに役立っているわけ
やね。
パンダ:その通りです。それに、いいことは、お金の話ばかりとちがいます。
スズメ:どういうこと?
パンダ:中国人は、今まで現実の日本を知る機会がほとんどありませんでした。学校でも
メディア報道でも日本に対してマイナスのイメージを植えつけられることが
多かったのです。
スズメ:ようわかる気がしまっせ。
パンダ:そんな中国人が日本に来て、想像していたよりずっとよかった印象をもって
帰国することが多くなりました。
スズメ:ということは、日中関係は…。
パンダ:そう、良くなっていきます。小さな心のつながりが、国と国との相互理解に
発展するのです。
スズメ:あんた、ものしりやね。なんやら、あんたのことが好きになってきました。
わたしと付き合ってくださいな。次回はいつ日本に来ますのや?
パンダ:残念。僕の持ってるビザは、1回きりしか来られない「庶民」ビザなのです。