2020-04
文責:玉木英明
2020年 4月号 イスラエルの水が、水不足に苦しむ砂漠の国をかえる
ミーア・キャットが集まって
ミー男: おい、メチャ暑いなぁ。
キャッ斗: そやなぁ、のど、かわいたなぁ。
ミー男: 水、あらへんなぁ。
キャッ斗: あのな、ここは砂漠や。水があるわけないで。
ミー男: 「さばく」は「やばく」ないか?
キャッ斗: うまいこと、いうやないか。
ミー男: 何で、ぼくらはネコなのに立ってるのや?
キャッ斗: 遠くを見渡して、水と食べ物を見つけようとしてるのや。
ミー男: できるだけ遠くを「見ーや」キャットなわけやね。
キャッ斗: あのな、よけいなこと言うてると乾燥するでぇ。
ミー男: ああ、のどかわいた、何でもええから飲むものないか?
キャッ斗: ぼくの小水(しょうすい)なら、あるで。
ミー男: …それって、おしっこやろ?そんなもの飲んだら、憔悴(しょうすい)するわ。
キャッ斗: 渇いてるくせに、余裕あるなぁ。
マイム・マイムのイスラエルで
ミー男: なあ、水をごくごく飲める砂漠はないやろか?
キャッ斗: そんなもの、あるわけないやないか。
ミー男: イスラエルでは、砂漠で水をごくごく飲めるらしいよ。
キャッ斗: まさか。イスラエルはエジプトのそばや。水がたくさんあるわけないよ。
ミー男: でも、あそこのコブラは、みんなで「マイム・マイム」を踊ってるらしいよ。
キャッ斗: あの、水を見つけたときの喜びの踊りか?
ミー男: そうや。楽しいフォークダンスや。
キャッ斗: コブラができるダンスは、コブラツイストだけやろ?
ミー男: あのなぁ、そんな古いプロレスの技、タマキタイムズの読者でも知らんよ。
キャッ斗: イスラエルいうたら、国土の60パーセントは荒野や。ガリラヤ湖から流れ出る
ヨルダン川しかない。しかも、雨は11月から4月しか降らないし、
日本の平均的な降水量の30分の1の国やろ。
ミー男: よう知ってるやないか。
キャッ斗: ほんで、排水の悪い粘土質の土壌は沼になるだけで、ほとんど使い物にならへんらしいで!
ミー男: 大きな声を出したらあかん。のどが渇くやろ?
使用済みの水をもう一度きれいに
キャッ斗: 雨が降らないのに、どうやってイスラエルでは水を手に入れてるのや?
ミー男: あの国の研究してる「水再生技術」は、すごいらしい。
キャッ斗: な、なんや?その「水再生技術」いうのは?
ミー男: 人間が生活に使った後の水を、きれいする技術や。
キャッ斗: …ちょっと、まて。「人間が生活に使った後の水」て、下水のことか?
ミー男: そうや。
キャッ斗: ということは、排泄物かて混ざってる水やろ?
ミー男: そうや。
キャッ斗: …そんな水、飲むのはちょっと抵抗ないか?…
ミー男: 下水の再生水は、おもに農作物用の水にするのや。
キャッ斗: ちょ…ちょっと聞いてもええか?下水の水の、どれくらいの割合を再生するのや?
ミー男: 83%もリサイクルするらしい。ダントツで世界一の再生率や。
キャッ斗: ダントツで…?
ミー男: そう、世界2位のスペインでも12%、日本は2%にもならん。
キャッ斗: ぼくらが話題にすることではないかも知れんけど、日本は何でそんなに少ないのや?
ミー男: 日本は雨がじゃぶじゃぶ降ってくれる。惜しんで水を再生する必要がないのや。
キャッ斗: でも、日本は離島が多いし災害も多い。真水を安定して作り出せる装置は、
価値があるのとちがうか?
ミー男: そのとおりや。
点滴灌漑(てんてきかんがい)・スポットで水を
キャッ斗: あのな、カラカラに乾いてる地面の上に、少しだけ水をまくと、地中に含まれる
塩が地表にうかび出てきて「塩害」が生じて、作物を育てられない土地になるって
聞いたことあるで。
ミー男: イスラエルは「点滴灌漑(てんてきかんがい)」いうのをしてるのや。
キャッ斗: なんや?点滴やて?
ミー男: そうや。病気の人に長い時間をかけて、うすい薬を注射する「点滴」は知ってるやろ?
キャッ斗: ああ、知ってる。
ミー男: それと同じ様に、プラスチックのパイプに水を通して、作物を育てるのに必要な
場所だけに、水を届けるのや。
キャッ斗: なるほど。作物の根の周りだけ、水が「充分足りている」状態を作るわけやね。
ミー男: そうや。水の蒸発を最小限にとどめて、利用効率を 飛躍的に上げようというのや。
キャッ斗: 肥料はどうするのや?
ミー男: その水に成分として混ぜるのや。さらに、もっとごついこともあるで。
キャッ斗: な、な、なんや?そのごついこというのは?
ミー男: IT(人工知能) とクラウドを使うのや。インターネットを通じて、あらゆる場所から
農地の管理をするのや。どこの木の根元に水が必要か、瞬時にわかるらしい。
海水を真水に
キャッ斗: 理科の授業で習ったで。水溶液から水だけを得るには「蒸留」するのやろ?
水をいったん沸騰させて冷やすわけやから、莫大なエネルギーが必要や。
ミー男: 海水を真水に変えることを「淡水化」いうのやけれど、イスラエルの淡水化技術は
「エネルギーを使わない」のや。
キャッ斗: あほなこと、いいないな。水を沸騰させるには、火をたいて、蒸留して…
ミー男: あのなぁ、玉木先生の浸透圧の授業聞いたことあるか?
キャッ斗: そら、あるでぇ…どんな内容やったかな?
ミー男: なんや、覚えてないのか。真水と食塩水を「半透膜」で接しておくとどうなる?
キャッ斗: 「半透膜」って、あの「溶媒は通すが溶質は通さない膜」か?
ミー男: そうや。よう覚えとるやないか。
キャッ斗: えへん、ぼくはあの授業は好きやった。
ミー男: ただ、よう考えてみなよ。半透膜を通して移動する水は、どっちからどっちや?
キャッ斗: 濃い塩水を薄める方向やから…あかんがな。真水がどんどん少なくなっていく。
ミー男: そうや。それを、逆に圧力をかけて、真水を増やすのや。「逆浸透膜」いうのや。
キャッ斗: 東レとか、日東電工やらが研究してるいうやつやな?
ミー男: そうや。だた、イスラエルはここからが、さらにすごい。
キャッ斗: なんや?
ミー男: その膜は、水は通しても塩は通さないという、めちゃくちゃ小さい穴(孔)のある膜や。
キャッ斗: そんなん、詰まってしまわへんか?
ミー男: そうや。ヒトの毛髪の100分の1より、さらに小さい。そんな薄膜を5万枚セットして、
70気圧の海水がシリンダー内に圧入される。すると、海水中の微生物ですぐに詰まって
しまうのや。
キャッ斗: そうじが必要やな?
ミー男: そう、定期的に薬品を使って、集中クリーニングをせなあかん。
キャッ斗: お金がかかるやないか。
ミー男: イスラエルは、その微生物が、薄膜に到達する前につかまえる技術を開発した。
キャッ斗: イスラエルの水って、1立方メートルあたり、いくらくらい?
ミー男: 70円や。日本が200円ほどやから、日本の3分の1やで。
キャッ斗: ごつい!
中東の悲劇は
ミー男: 今、イスラエルは国内の水の55%、半分以上をこの「海水淡水化」で得てるのや。
世界中、特に中国やアメリカで、このイスラエルの方法がどんどん進められてる。
キャッ斗: おどろいたなぁ。イスラエルは政治的に不安な地域にある、危険な国だと思ってた。
ミー男: 2008年、わずか10年前までは、その通りやった。10年にわたる干ばつが
ガリラヤ湖の水を減らし、あと数センチ水が減れば塩分の浸透で、永久に湖が
ダメになるところまで干上がってたのや。
キャッ斗: 聞いてるで。隣国のシリアでは、農夫たちが100m、200m、500mいう深い井戸の
堀り合い競争をして、結局全部の井戸が枯れて、農地が全部砂漠になったいう話や
ないか。
ミー男: そうや。中東のどの地域でもそうなんやけど、干ばつと農業の崩壊で、将来への絶望が
争いの原因になってる。イラン、イラク、ヨルダンもみな、水の大惨事寸前や。
水が平和をもたらす可能性
キャッ斗: 干上がる寸前だったガリラヤ湖、今はどうなってるの?
ミー男: 潤沢に水をたたえてる。イスラエルの農場は栄えてる。
キャッ斗: なあ、この淡水化設備を、中東じゅうにつくったら…
ミー男: そう、確実に中東は繁栄する。イスラエルとヨルダンの共同事業にパレスチナが
加わって、紅海に大きな海水淡水化プラントを建設しようという計画も始まった。
キャッ斗: ええ話や…ええ話やないか…
ミー男: 泣きないな。水を仲立ちにして、国と国とのいい関係をつくるのや。2018年9月、
東京ビッグサイトで、国際水協会(IWA)の会議が開かれた。98か国から10,000人が
参加した。
キャッ斗: もしかしたら、中東の争いがなくなるかも知れんなぁ。
ミー男: そう、イスラエルはぼくらと同じや。
キャッ斗: なんでや?
ミー男: 立ち上がって、遠くを見つめてる。