2013-08
文:玉木英明
2013年 8月号 河童(カッパ)。彼らは妖怪?マスコット?
キュウリは「カッパ」?
キュウリ:ちょっと!あなたが「カッパ」ね!?
カッパ : はいはい、私はカッパ。あんたはどなた?
キュウリ:私はキュウリよ。今日は、あなたに文句があってやってきたわ!
カッパ :えらい鼻息の荒いおねえちゃんやね。つばが飛んでまっせ。どない
しましたんや?
キュウリ:私が寿司屋で「かっぱ」って呼ばれているのは、どういうことよ!
カッパ :カッパと呼ばれたら、何か悪いことでもありまんのか?
キュウリ:あのね、英語で私たちキュウリを、キューカンバーと呼べば、もの
静かで、キュートな乙女たちに大人気のカロリーゼロの食べ物を
さすわ。ピクルスの素材としても有名だし、トルコ料理のシャジュク
スペイン料理のガスパチョとか、スープにしても最高よ。なのに
「カッパ」とは、どういうことよ!
カッパ :いっぱいしゃべる人、いや野菜やなぁ。それに、つばが飛んで
まっせ。「ピクルス」って、日本語でいうたら漬物でっしゃろ?
きゅうりのQちゃんいうたら、ぼくも大好きでっせ。
キュウリ:シャラ~ップ!ピクルスは西洋料理に添えられてるお洒落なもの、
「つけもの」いうたら、酒飲みがつまみに食べるものになっちゃう
でしょ!
カッパ :ええと、あんたは何を怒ってるのやったっけ?
キュウリ:そう、そうよ。なにも、漬物とピクルスの話をしてるのじゃないの
よ!かっぱよ!かっぱなんて呼び方されて、私は怒っているのよ!
カッパ :そんなに、頭をカッパ、いやカッカさせないで。
キュウリ:…おもしろくないんだから…そんなシャレ言ったって、誰も
ふきださないわよ。
カッパ :カッパ、カッパ、カッパ。
キュウリ:…なによ…その「カッパ、カッパ」いうのは?
カッパ :いや、笑うてますんや。
キュウリ:あのねぇ、私が怒ってるのに、ギャグかましてどないしますのや?
あの沼で泳ぐと足を引っぱられるぞ
カッパ :おっと!あんたも、関西の出身やったのやね!
キュウリ:いや、あんたがうつったのよ!だいたいね、「カッパ」といえば、
川か沼に住んでる妖怪でしょ?体中ウロコでくちばしがあって、
背中に甲羅(こうら)を背負ってる爬虫類(はちゅうるい)で、
川に遊びに来た人の足を水の中に引っ張り込んで尻子玉(しりこ
だま)をぬいて、腑抜け(ふぬけ)にさせて溺れさせるので有名よ!
相撲が大好きで、頭の上のお皿が乾いたり割れたりすると、力が
なくなるなんて、変にきまってるじゃないの!雨の日に自転車に
乗るのに着るあのダサいビニールのびしょびしょ雨具も「カッパ」
でしょ!
カッパ :ほんとに、ようしゃべるなぁ。
キュウリ:「ぱ」で終わる動物なんて、カッコ悪いに決まってるじゃないの!
やーい、カッパ、ラッパ、出っ歯、こっぱ、したっぱ!
カッパ :…う…うっ…ううう…。
キュウリ:…あら…泣いてるの?
カッパ :…ううう…むちゃくちゃ言われた…。
キュウリ:…ちょ…ちょっと、言いすぎたわ。…悪かったわ。
カッパ :僕かて、好きで川や沼で人の足ばっかり引っ張ってるのとちゃう
のや。そやのに…。
キュウリ:悪かったって、言ってるでしょ?ねっ!機嫌をなおして!あなた、
その「水かき」素敵よ。きっと泳ぎが上手なのね。
カッパ :この水かきのおかげで、あんまり指先が器用とはちがうのや。
キュウリ:ウロコも龍(リュウ)のようでかっこいいわ。
カッパ :あのなあ、ウロコがあるのは、日本の能や歌舞伎では、鬼女や蛇の
化身や。どう考えても「かっこいい」ものではないと思うけど。
キュウリ:甲羅(こうら)を背負った姿は凛々(りり)しいわよ!
カッパ :「こうら」いうものを背負ってるのは、蜘蛛(クモ)、亀(カメ)、
蝦(えび)、蟹(かに)やがな。どこが凛々しいのや?
キュウリ:仮面ライダーアマゾンに似てるなんて、私は決して思わないわ。
カッパ :ということは、みんなが似てると言うてるわけ?
キュウリ:「カッパの川流れ」ということわざ、泳ぎが上手なことの証拠よね!
カッパ :上手な人でも、誤りとか間違いは、あるものだというたとえやがな。
キュウリ:芥川龍之介も、作品に使うほどの逸材(いつざい)よ!
カッパ :精神病患者がカッパの国に迷い込む話でっしゃろ? あの作品の
あとの芥川龍之介のことを考えると、ほめられてるのと違う感じが
するのやけれど…
キュウリ:まあ、いいじゃないの!私が言いたいのは、なんで私みたいな
キュートなキュウリが、「カッパ」と呼ばれるようになったのか、
ちょっと知りたいだけなのよ。
カッパ :ギリシャ文字でカッパーといえば、アルファ、ベータで始まる文字
の10番目や。数学でもよく未知数として使うし、イタリア語では
今でもKをカッパと呼ぶし、あの国の有名なスポーツ用品のブランド
名は「カッパ」言いまんのやで。
キュウリ:雨降りの時に着る雨具を、どうしてカッパと呼ぶの?
カッパ :あれかて、英語で肩にかけるマントのことをケイプ(cape)いう
やろ?16世紀に日本にやって来たポルトガルの宣教師が着ていた
外套をcapaいうてそのまま「カッパ」いうて読んだのや。だから、
かっぱは「合羽」という書き方のほかに、南蛮簑(なんばんみの)
とも呼ばれてるよ。
カッパは妖怪?
キュウリ:だいたい、どうして「カッパ」なんて生物がいるのよ?
カッパ :子供たちが、危ない川や沼に近づかないように「カッパ」が出る、
足を水の中に引っ張り込むという言い伝えができたという説があり
まっせ。水の神の化身であるという話もありまっせ。逆に、川とか
沼とかに上がった人間の水死体のことを「カッパだ」やと呼んだ説
もありまっせ。
キュウリ:カッパのミイラとか骨とかが、いろんな所にあるようだけれど…。
カッパ :カッパ:あれは、江戸時代にミイラ造形師いうのがおって、他の
動物の骨を合わせて、作ったものが日本各地にあるのや。
キュウリ:どんな動物の骨をつかうの?
カッパ :エイとサル、フクロウの頭もよく使ったらしい。
キュウリ:やっぱり、カッパは妖怪なの?
カッパ :「妖怪」というのは、「妖しい」「怪しい」生物のことやろ?
外国の人たちに説明するのに、そのままmonster(モンスター)
とかspecter(スペクター)なんて表現すると、誤解をされると
思う。
キュウリ:どういうこと?
カッパ :僕たちカッパは、義理がたくて、助けてもらったお礼に魚を持って
きたり、薬の作り方を教えたり、日本各地に伝わる民話では、
もっと人間と情のある付き合い方をしてる場合が多い。
キュウリ:それじゃぁ、カッパのイメージは、もっといいものだというの?
カッパ :そう。例えば、蚊取り用の金鳥リキッドのコマーシャルでは、
山瀬まみの可愛いかっぱが登場したし、お酒の黄桜のコマーシャル
には色っぽい女性のカッパが出てくる。いずれも、「妖怪」というの
とちがう。日本水泳連盟のマスコットキャラクターかて、かっぱや。
キュウリ:そういえば、美空ひばりのデビュー曲かて、河童ブギウギだったわ。
カッパ :あんた、何歳?そんな歌を知ってるのは、50代後半の人や。
キュウリ:ほっといてんか!とにかく、あなたは、いろんな所に登場するのね。
カッパ :そうや。いろんな意味で、日本の文化になくてはならない人気者
なんやでぇ。
キュウリ:何か、あんたのことが、好きになってきましたわ。なぁ、私と結婚
してえな。
カッパ :あかん、あかん、カッパとキュウリが結婚する話なんて、聞いた
ことないがな。
キュウリ:どうしてもダメ?
カッパ :キュウリは、カッパの「好物」なんや。結婚相手とはちょっとちがう。
歴史も世間も許してくれへんよ。
キュウリ:そんな世間の風評なんか、へのかっぱよ。