2017-01
文責:玉木英明
2017年 1月号 やっかいな方法こそ、健康を保つための秘訣。体と頭。
薪(たきぎ)を背負った少年が
少年: すみません、ちょっとお借りしたいものがあるのですが…。
住民: おやおや、ずいぶん古風な服装の子やね。歩きながら本を読んでるの?
少年: 本を読む時間があったら、働けといわれました。それで、薪を運びながら、
本を読んでいるのです。
住民: えらい子やなぁ。君をどこかの小学校の校庭でみたことがあるような気がする
けど…。名前は何ていうの?
少年: はい、「そんとく」と申します。
住民: 損得(そんとく)?おもしろい名前の子やなぁ。まあええわ、どうしたの?
少年: 意味のわからない言葉があるのです。辞書をお持ちではないですか?
住民: 辞書はないけど、これがあるよ。ちょっと待ちなよ、調べてあげるから…。
テレビと前頭葉。
少年: おお、それは、スマートフォンですね。
住民: そうや。「スマホ」くらい、今、小学生でも持ってるで。
少年: あなたのお子さんも持っていらっしゃるのですか?
住民: ああ、もちろんや。子には最新鋭の機器を与えるのが、私の方針や。
少年: タブレットやスマホが、子供の脳を悪くすること、知ってますか?
住民: いや…知らん…ほんまかぁ?
少年: ほんまです。東北大学の加齢医学研究所の川島隆太教授らが、研究しています。
住民: ほう、東北大学の研究?
少年: はい、実は川島教授たちは、最初は、テレビが脳へどんな影響を与えるかを
調べていました。
住民: なるほど、テレビね。
少年: そうです。テレビを見てる時は、脳の前頭葉の働きが下がるということが分かった
のです。
住民: 前頭葉いうたら、人間だけが発達してる、モノを考える部分やないか?
少年: そうです。ですから、テレビを見れば見るほど「考える能力」のない脳が育つの
です。
スマートフォンを使う子供。
住民: タブレットやスマートフォンが、テレビと同じとは限らんやろ?
少年: 先ほどの川島教授たちが、仙台市に住む小・中・高校生について調査をしました。
住民: え?情報機器と成績との関係をかい?
少年: はい。その結果、ショッキングなことが分かってきました。
住民: え?ど、ど、どんなこと?
少年: タブレットやらスマホに長時間ふれている子供ほど成績が悪いということです。
住民: …ほ、ほんまか?
少年: はい、学生を対象にしたデータは、得やすいそうです。
住民: なるほど。ということは…
少年: そうです。子供の脳発達に、情報機器が悪影響を与えているのです。
住民: そ、そやけどやな、パソコン使ってるときは、画面を見て難しい作業をしているや
ないか!しっかりと考えているようにみえるし、手も目も動かしているでぇ!
脳も働いてるはずやないか!
少年: 大きな声を出さないでください。それに、たくさん、つばがとんでいます。
タブレットを使っている人の脳計測をしたら、脳に抑制がかかっていることが
分かったのです。
住民: な、なんでや?!
少年: 大きな声で叫ばないでください。つばも、とんでいます。
住民: 実は、うちの子は、ずっとスマホばっかりさわってるのや!
少年: パソコンとかスマホのような情報処理機は、仕事を便利にするためにあります。
どうして便利なのか、おわかりですか?
住民: たくさんの情報を、機械が処理して整理してくれて、楽やから…やろ?
少年: そうです。楽であるということは、自分の頭や体は使いません。
住民: …ということは、頭を鍛えることにならんわけか…。
少年: そうです。子供は、学校、家庭、遊び、すべての場所で、頭も体もたくさん
使って、できるだけ大きく発達しなければなりません。そんな大切な時期に、
楽で便利なIT機器を使えば、脳が発達しないのはあたりまえです。
住民: 「楽」がだめにするのか…。
少年: 「外で遊んできなさい」と親に言われたでしょう?それと同じように「脳も、
使ってきなさい。働かせてきなさい」ということなのです。
住民: そやけど、疲れるのは、いやや。
少年: だれでもいやです。何かしなければならない時は、より厄介で、体を動かさな
ければならない方法、頭を使わなければならない方法をつかうほうが、体も頭も
健康になるということなのです。
辞書をひくのは…
住民: 電子辞書もあかんのですか?
少年: 例えば、子供が言葉を調べるとします。パソコンや電子辞書なら、キーをいくつか
たたくだけです。
住民: うちの子供は、スマホにしゃべりかけるだけで意味を調べてるでぇ。
少年: 紙で調べようとすると、ものすごく脳が働きます。まず、手を動かさなければ
ならない。そして、どこにどういう言葉があるかを頭の中で考えながら、記憶の
中に情報をある程度引き出しながら検索していかないと、その言葉にたどりつき
ません。
住民: スマホを使ってるときは、そんなこと、考えたことなかったなぁ。
少年: たとえば、辟易(へきえき)ということばを調べるとしましょう。「へ行」は
どこだ。つぎの「き」はどこだ。50音の並びを確認しながら、一生懸命にさがし、
かつ自分で能動的に読む、能動的に情報を取り込むことが必要になってきます。
住民: しんどい作業や。
少年: そうです。時として、部首とか画数で調べる必要も出てきます。
どんどん退化?ヒトの頭。
住民: 私たちの脳は、どんどんダメになっているのやろか?
少年: 特に21世紀になってから、私たち人間がやるべきことを、みんな機械がかたがわり
してくれています。体力だけでなく脳も、退化しているといえます。
住民: た、た、退化してる…?脳が…?
少年: 泣かないでください。楽で便利な方法を知ってしまった人たちに、あえて面倒な
方法をつかえといっても、それは難しいことです。
住民: 何か、何か方法は…ありまへんのか?
少年: ないわけでは、ありません。
住民: な!なんや!それは、何や!
少年: 自動車などで、今は楽に便利に移動ができるようになりました。肉体的には、
動かなくなりました。何キロも走れる人はもういません。肉体的には退化です。
このままでは、ヒョロヒョロで青白い人間ばかりになってしまいます。
住民: そや、そや、あかん、あきまへんがな!
少年: しかし、頭のいい人たちは「週に1回か2回、動かなければならない」という知識を
えて、これを実践して体力を温存しています。
住民: そうか。じゃあ、脳を退化させないためには…
少年: そうです。使わなくても生活できるようになってしまった脳を、週に1回か2回は
一生懸命に使いなさい、ということなのです。
貧となり富となるのは…
住民: きみは、頭のいい子だね。
少年: ありがとうございます。薪をはこびながら、毎日勉強しました。
住民: 君の話はすごく説得力があるなぁ。私の家族達にも聞かしてやりたいわ。よし、
このスマホで君の声を録音するから、ちょっと、しゃべってくれるかい?
少年: おやすいご用です。よろしいですか?
住民: …はい、どうぞ。
少年: 貧となり富となるのは偶然ではない。富もよってきたる原因があり、貧もそうで
ある。人はみな、財貸は富者のところに集まると思っているが、そうではない。
節倹なところと、勉励するところに集まるのだ。二宮尊徳。
住民: えっ…きみ…二宮…尊徳…!