2012-12
文:玉木英明
2012年12月号 和の文化「たたみ」が生き残りをかけて
「襖」、「畳」。漢字読める?
襖:失礼しちゃうわ!
畳:あれあれ、今日は襖のおねえちゃん、ずいぶんご機嫌ななめやね?
どないしましたんや?
襖:わたしの名前を漢字で書いたら、小学生達が読めないのよ!
畳:…「ふすま」でっしゃろ?
襖:それでも、あえてニコニコしながら、「ふすま・障子です」って書いたら
「ふすま・しょうこ」なんて読んで大騒ぎよ!「ふすま」や「しょうじ」
くらい小学校で教えるべきでしょ?!
畳:まあまあ、そんなに怒らんと。つばが飛んでまっせ!
襖:小さな頃から、親に「ふすまは、きちんと閉めなさい」と叱られたこと
ないのかしら!
畳:えらい、つばが飛んでますで。最近の新築住宅には、引き戸はあっても
「ふすま」はないかもしれまへんなぁ。
襖:先日同窓会があって、日本酒君も、和紙ちゃんも、着物ちゃんとはかま君
も、日本の伝統的なものは、みんな出番が少なくなってきたって、嘆いて
たわ!そりゃ「ちょうちん君」や「わらじさん」は、古すぎると思うわ。
でもね、「ふすま」くらい知ってて当然でしょ?!
畳:怒ると、血圧あがりまっせ。それに、あんたの「つば」すごいでっせ。
襖:まったく、最近の若者たちの無知には、驚いてしまうわ。
畳:いや、無知というよりも、日本人の生活様式の大きな変化で、古くから
ある「和の文化」が知らないうちに少なくなってしまったのやろね。
和の製品
襖:わたしたちのような日本的なもの、「和の製品」は、消えゆく運命なの
かしら?
畳:爆発的に売れ続ける、というものとはちがうやろなぁ。
襖:あかん…やっぱり…ダメなのね…うっうっ…。
畳:泣いたらあかんがな。怒ったり泣いたり、いそがしい人、いや扉やなぁ。
襖:だって、日本人が長年かけて築き上げた伝統は、どれもこれも、21世紀
では通用しないんでしょ?
畳:いや、そうでもないのや。
襖:ちょ、ちょっと!何でそれを、はよ言わんの!なぁ!おしえてぇなぁ!
畳:いたい、いたい。引っ張らんといてぇな!ほんで、あんたも関西の出身
やったのやね?
襖:ばれたら、しゃあないわ。とにかく、「和の文化」も発展しますのやな?!
畳:発展させよう、再生しようと、一所懸命に頑張っている人たちがおります
のや。
畳屋道場
襖:だれですのや?その「和の文化」を守ろういうて頑張ってるのは?
畳:ぼくら「たたみ」の表面には、何が使ってあるか知ってますか?
襖:「い草」でしょ?そんなこと、知ってるわ。
畳:その「い草」を作る農家が、30年前には日本に6000軒もあったのに、
今では600軒ほどに減ってしもた。
襖:そりゃムチャクチャやなぁ。10分の1や。何でそんなに少なくなって
しまいましたんや?
畳:畳自体の使用量がへったこともあるのやけれど、値段の安い中国製が
主流になってしまいましたんや。
襖:そうすると、日本の畳のほとんどが、中国産の「い草」でつくられてる、
いうことですのか?
畳:そうや。8割以上が中国産や。日本の「い草」がなくなる、何とか
しようと、山形県の鏡さんいう人が「畳屋道場」いうのを始めたのや。
襖:なんですのや?それは?
畳:いままで、畳は知ってても原料の「い草」のことなんて何にも知らな
かった畳屋さんが、熊本県にある「い草農家」に行って、植え付けやら
刈り取りやらを体験研修するのや。そこで、畳屋さんが、いかに自分達
が「い草」のことについて何も知らなかったかを実感しますんや。
襖:そんなに「い草」の栽培は大変ですのか?
畳:「い草」を「いくさ」にかけて、生きるか死ぬか、いうて言うくらい
「い草」の栽培は大変や。例えば「い草」の刈り取りは、午前3時頃から
作業が始まって、夜中なのに30℃くらいの温度と90%の湿度の中、
すごく過酷な作業が続くのや。
襖:そうか。畳屋さんの意識がその過酷な作業を体験する事で、変わって
いくのね。
畳:そうや。今まで畳屋さんは、価格が安い中国産の「い草」なら、日本産
の半額で作れるからいうことで安易に安い畳を消費者に売ってた。それ
が、こんなに苦労して日本の農家の人たちが「い草」を作ってるという
ことを知る。そして、こんなにいいものを、なくしてしまっていいのか、
日本のい草農家が絶えてしまっていいのか、という気持ちになるのや。
襖:ええことやなぁ。畳屋さんが生産者の気持ちをほんとに理解し始めるの
やね?
畳:それだけやない。畳屋さんがそういう体験をすることで、目利きをする
ことができるようになる。
襖:「めきき」てなんや?
畳:優れた日本産の「い草」の見分けができるようになるのや。
襖:日本産は何がすぐれてるの?
畳:畳表は、湿度が高ければ空気中の水分を吸収して、乾燥すると水分を
発散する。言い方をかえると、畳は呼吸しているのや。い草の芯の部分
には、有害な物質を吸着して空気も浄化する。香りが良くて、アロマテラ
ピー効果ももっている。日本製の「い草」は、品質、管理、すべての点に
おいて、中国産より優れてるのや。
襖:ようけ、しゃべりましたな。だんだん言葉に熱がこもってきましたな。
畳:日本産か中国産か、「い草」の見分けができる畳屋さんは、最初は全体の
1割程度しかいなかった。ということは、畳屋さん自身が、消費者に国産の
よさをつたえられない。どうしても、価格の安い中国製の方が、売りやす
かった。
襖:そうか。ということは、その「畳屋道場」にいって研修を重ねると、
製品の目利き、見極めができるようになってくるわけやね。
畳:そうや。その通りや。日本製の「モノ」のよさを、きっちりと見極め
られる売り手を増やしていくこと、これが和のビジネスの復活の第1歩
なんやね。
成果あり
襖:それで、成果は、出はじめましたんか?
畳:いままで中国産ばかり売ってた畳屋業界で、「日本産・い草の畳しか
売りません」という畳屋さんが、できはじめた。
襖:そやけど、高いんでっしゃろ?売れまへんやろ?
畳:最初は売り上げが下がるだろうと、みんな考えていた。ところが、
おおかたの予想に反して、売り上げがあがってきた。日本製のよさを
体感しているんや。
襖:うれし…やないか…よかった…。
畳:「畳屋道場」出身の畳屋さんは、消費者に日本製の製品を売るときの
迫力がちがうのや。それに、高いものでも売れる理由がもうひとつある。
襖:なんや?なんですのや?
畳:いま、日本の家庭は畳の部屋、和室が少ない。
襖:そのとおりやね。
畳:ということは、新築したり、畳を入れ替えたりするとき、何十枚もの畳を
買うわけとちがう。ほんとにいいものだということをきちんと説明でき
れば、高くてもいい畳を日本人は買うものなんや。
襖:そうか…。ほんとうにいい「モノ」は、みんなが気づくものなんやな。
畳:この畳屋さんらは、みんなi-Pad をもって畳を売りにいく。そして、
中国産か日本産かをお客さんに伝えるときに、「い草農家」の映像を
見せるのや。
「い草」の応用も
襖:そんなに優れた素材なら、畳だけでなくて、何か他のものに応用できま
せんのか?
畳:畳に使えないような丈の短いい草で、敷物やベッド、家具まで作り始め
たんや。ほら、素敵やろ!
襖:なんやら、嬉しくなってきましたで。なぁ、畳さん、日本の伝統産業を
立て直しましょやないか!
畳:ようし、いっちょう、やってみるか!
襖:私らみんなで、力合わせて、いこうやありませんか。
畳:これぞ、「和」のちからやな。