2015-04
文:玉木英明
2015年4月号 潮流発電。未来のエネルギー開発は、水面下?
ここは海中。くるくる回る…。
海賊: おい、そこのふわふわ、どけ、目が、目がまわるぞ!
クラゲ: ♪私のこころを、くるくる ま・わ・す~♪
海賊: いったい、どうしたというのだ?
クラゲ: 私はくらげ。どんなに明るくふるまっても、くらげ。
海賊: おちゃめな自己紹介は、そのくらいでいい。それは何かと尋ねているのだ。
クラゲ: うふ、この歌に気づいてくれるなんて!…あなたもマニアね。
海賊: くるくる回っているのは…
クラゲ: あら、やだ。柏原よしえの、「ハロー・グッバイ」じゃないの。もともとは、
アグネス・チャンがレコードのB面曲として歌ってた曲なのだけれど、1981年、
大ブレイクした曲よ!
海賊: よくしゃべるヤツだ。私は、そんな古い歌のことはきいてない。その海の中で
くるくる回っている、扇風機みたいなヤツは、いったい何だと聞いているのだ。
クラゲ: なぁんだ、これ?…知らないの?これはタービンよ。
海賊: …インド人が、頭にまくやつか?
クラゲ: あんた、それは「ターバン」やがな。
海賊: おぬし、関西の出身だな。ボケにつっこむのが上手だ。
クラゲ: ばれてしまいましたな。
海賊: 私は、世界中を何百年も、海賊船で航海しているが、こんなもの見かけたのは
初めてだぞ!
クラゲ: これは潮力を使う発電装置でっせ。
風力発電よりも、高効率
海賊: 三重県の青山高原で、3枚羽根のデカい風車が悠々と回ってる姿は、よく
知ってるけれど、こんな海中にタービンがあるとは驚きだ。
クラゲ: 潮の流れがはやい海峡は、特に発電にぴったりの場所でっせ。空気で風車を
回すよりも、液体の海水でタービンを回すほうが、うんと効率がよろしおます
のや。
海賊: だいたい、海の水は流れるのか?
クラゲ: 地球にあたる太陽の熱や偏西風、地球の自転の影響で、海の水は大きくほぼ
一定に流れてますのや。
海賊: どのくらいの規模で流れておるのだ?
クラゲ: 幅は何と100km、深さも数百メートルの規模でっせ。
海賊: …ごついやないか!
クラゲ: まねせんといて。
海賊: すんまへん。
船の底につっかえない?
海賊: 海の中でプロペラが回るのだろ?ということは、船が通ったら、プロペラに
つっかえないか?
クラゲ: でかい船が十分に航行できるだけの深さを確保して設置するから、問題ありま
へんで。
海賊: プロペラの設置も、修理も、海中だと大変じゃろ?
クラゲ: 現代の技術なら、海底ケーブルとか海底油田とかで経験済みや。海の中やから
といって、作業がしにくいことは特にありまへんで。
海賊: きれいな海の中に、無粋(ぶすい)なタービンがたくさん並んでる景色は、
海を愛する人にとっては、たえられないものにならぬか?
クラゲ: 風力タービンが、野山の自然の景観を損なってるほうが問題やがな。
海賊:台風がきたら、おそろしいのじゃないか?青山高原の風力タービンは、首が
折れたぞ。
クラゲ: 海の中は天候にはほとんど関係がありまへんのや。海の中は台風がきたからと
いうて、むちゃくちゃ流れるいうことがありまへんのや。
海賊: それで難破船は何十年たってもくずれないのだな?
クラゲ: そのとおりでっせ。潮の干満はすごく規則的で、100年先まですごく正確に
予測できますのや。
永久に回り続ける発電機
海賊: 風力タービンには、鳥やらコウモリやらが巻き込まれて、たくさん死んで
しまうというではないか。潮力タービンは、魚が巻き込まれていっぱい死んで
しまうのではないか?
クラゲ: 潮力タービンは、回転スピードがゆっくりやから、海洋生物は羽根を避けたり
くぐりぬけたりすることができますのや。
海賊: もうひとつ、風力タービンは低周波の振動を発して、周囲に住む人たちの健康
に害を与えるという話だぞ。潮力タービンは大丈夫なのか?
クラゲ: 海の中でゆっくりと回転する潮力タービンは、海水という密度の高い液体の
中につけられた状態の羽根やから、音は出ません。しかも海の中やから、風力
発電のようにプロペラめがけて雷がおちることもありまへん。
海賊: 風力発電機には、雷が頻繁におちるのか?
クラゲ: そう、わりと落ちますのや。火事になることもある。ほんで、高いところや
から、なかなか消せない。
海賊: 潮流発電いうのは、永久に利用できるエネルギーなのだな?
クラゲ: その通りでっせ。化石燃料を燃やすわけとちがうから二酸化炭素も出まへん。
クリーンで将来有望なエネルギーや。
海賊: …うれしい…うれしいやないか…。
クラゲ: あんた、泣いてますのか?その姿で泣くのは変でっせ。
海賊: 日本も…日本の政府も…ようがんばるやないか。
クラゲ: 残念。これはスコットランドの話でっせ。アトランティス・リソーシズいう
ところが、イギリス北東の沖合いにつくったものなんや。
世界に先駆けるところは
海賊: なんだと!日本の話とちがうのか!
クラゲ: こんどは大きな声で、おこりなさんな。泣いたり怒ったりいそがしい人、いや
あんたは…
海賊: 「タコ」だ。
クラゲ: まあ、なんでもよろしいわ。
海賊: それより、日本は、技術大国、日本は何をしているのだ?
クラゲ: 財団法人エンジニアリング振興協会いうところが、青森県大間崎で潮力発電を
しようか、と考えてるし、2年前から東京大学やらIHI(石川島播磨重工)いう
会社が装置の開発に手をつけ始めてまっせ。
海賊: ほう!日本も始めたか!
クラゲ: IHIは40メートルのプロペラを海底にワイヤーで固定して、海の中にプロペラを
漂わせようとしてますのや。
海賊: やるなぁ。40メートルのプロペラ、いうたらデカイ。
クラゲ: 和歌山県の串本町沖に、発電施設を置こうと考えてるんでっせ。
海賊: いそげ!日本の技術者!いけぇ!
クラゲ: ただ、漁業への影響とか、発電設備と同時に研究せなあかんことも、たくさん
ありまっせ。
安全な海は
海賊: 日本は、周りが海だらけだから、潮流発電に適した場所だろう?
クラゲ: そのとおり。八重山諸島、トカラ列島、足摺岬、八丈島、いろんなところが
適した「発電所」になる可能性がありまっせ。
海賊: もしも、潮流発電がうまくいったら?
クラゲ: メキシコ湾流とかカリフォルニア海流とか、南極の近辺にも、世界中に
しっかりとした海流がありまっせ。日本もエネルギーの「輸出国」になれる
かもしれまへん。
海賊: おい、くらげ、おまえは物知りだなぁ。わしは、長いこと沈没船にいたから、
世間にうとくなっていた。…ところで、潮流発電できない海は…あるのか?
クラゲ: ありまっせ。
海賊: ど、ど、どこだ、それは?
クラゲ: 海賊のでる、あぶない海やがな。
海賊: た、たとえば?
クラゲ: カリブ海や。