2010-07
文:玉木英明
2010年 7月号 口蹄疫パニック!空気感染の恐怖・どうなる日本の畜産!?
宮崎県の口蹄疫パニック
2000年3月以来、約10年ぶりに日本で「口蹄疫」が発見された。口蹄疫
とは、その名の通り馬や牛が口から泡を吹き、蹄に症状が現れる病気で、
感染した動物は食欲がなくなり、必ず死に至るという。治す手立てが今の
ところ全くない「不治の病」である。感染を防ぐには「殺す」しかない。
6月半ばまでに、殺処分のウシやブタ、ヤギ、ヒツジは、何と28万頭にのぼる。
どうしたらいいのだろうか。ただ指をくわえて、なすすべもなく立ちつくすだけなのか。
「口蹄疫(こうていえき)」って何?
にわとり:ちょっと!あなたっ!
う し:なんじゃらホイ?
にわとり:「ナンジャラホイ」じゃないわよ。こんなところに、大きな
「糞」を落としていかないでよ。私、食事中よ!失礼しちゃうわ。
う し:すんまへんなぁ。考え事をしながら歩いとったもんやから…。
にわとり:んまっ!考え事しながら「糞」落として歩いていけるなんて、
得な性格ね。だいたい、あなたたち牛はねぇ、草を食べながら、
一日中広ーい農場でブクブク太っていけばいいわけだから、気楽な
ものよ。「霜ふり」になるために、ビールまで飲めるって噂よ。
いいご身分ね。
う し:いや、それが、最近そうでもないんや。
にわとり:悩みごとの多い牛なんて聞いたことないわ。私たちニワトリは、
毎日毎日卵をたくさん産まされて、そのうえ狭いブロイラーで太ら
されて、名古屋コーチンが白色レグホンよりおいしいなんて、誰が
きめたの?もうケッコウよ。
う し:ようしゃべるやっちゃな。ぼくが悩んでいるのは、宮崎県で大問題に
なってる「口蹄疫」のことや。
にわとり:知ってるわ。「ユンケル皇帝液」って値段は高いんだけど、疲労
や精力減退にウハウハ効くってうわさよ。最近イチローが宣伝して
る、あれでしょ?
う し:ちゃいまんがな。なんぎなヒト、いや、トリやな。あのな、宮崎県で
僕らの仲間が、口から泡をふいて、そのうち何にも食べられへんよ
うになって、バタバタ死んでいってるんや。4月の最初に発見され
た感染が、爆発的に増えて28万頭にうつってしもたんや。
にわとり:ちょっと…ちょっと…あんさん、何て言いましたんや?その病気
うつりますのか?
う し:空気感染しますんや。
にわとり:えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!うつりまっせー!皆さん、
うつりまっせー!
う し:いつの間に関西弁になりましたんや?あのな、感染する動物は、
口蹄疫いう名前の通り、蹄のある動物に限られてるんや。
にわとり:ほんまでっか?
う し:いまのところは、な。
にわとり:空気感染するんやったら、すぐに近くにおる牛や豚、馬にまで
うつりますやないですか。そんなにようけの家畜がはいる病院、
宮崎県にありますのんか?
う し:もちろん、ない。
にわとり:…… ほな … どないしまんのや?
う し:政府が、口蹄疫の発生した農家を封鎖して、今までに牛だけやなしに
豚やらやぎやら、蹄のある動物18万頭にワクチンをうって、埋めたん
や。
にわとり:ワクチンうったら、治るのとちゃいますのか?
う し:ほんまいうたら、焼却せなあかん。イギリスで口蹄疫が出た6年前は
10万頭近くも焼いたんや。
にわとり:ほんで、ほんで、宮崎県の病気はなくなりましたんか?
う し:いいや、勢いは衰えてない。
にわとり:えらいことやないですか!
う し:そうや。殺して埋めた数は、イギリスの何倍にも達してる。
にわとり:政府は、政府はどうしてまんのや?
う し:口蹄疫に汚染された農家への補償を一応発表はしとるのやけれど、
おさまる気配のない伝染病や。発生が止まらな、いずれは日本国中
を補償せなあかんようになる。
本当に蹄(ひづめ)の動物だけ?
にわとり:もういっぺん聞きますけど、ほんまに蹄のある動物だけなんでっ
か?!
う し:いや、実は、治し方がわからんいうことは、原因かて、分かってない
んや。そやから、人間の毎日の生活にかて、影響が出始めてる。
にわとり:なんやてぇ…うつった…人間がぁ…おるんやぁ…なぁ?
う し:怖い声、出しないな。あんた、にわとりやろ?
にわとり:そうやった、そうやった。わたし人間とちがうんや。
う し:さっきも言うたように、今のところ、人間にはうつってへん。そやけ
ど汚染地域の近郊では、人間も動物も移動できへん。屠殺場(家畜
を殺す所)や競売なども休業に追い込まれている。
にわとり:宮崎県民は、牛や豚食べずに、何食べてますのや?
う し:きまっとるやないか。にわとりや。
にわとり:コケコッコ~!カッカドゥードゥルドゥ~!
う し:それはインドネシアのにわとりの鳴き方やな?なかなか、うまいやな
いか?
にわとり:えへへ、おおきに。ありがと。
すきやきも、しゃぶしゃぶも…
にわとり:ふっふっふ…。ふっふっふっふっふ…。
う し:何を気色悪い笑い方してまんのや?
にわとり:ふっふっふ…これで、にわとりの天下がやってくるんや。牛かて
豚かてもう終わりや。「すきやき」かて「しゃぶしゃぶ」かて鶏肉
が幅をきかすようになるんや。ブロンコ・ビリーにはチキンステー
キしかなくなるんや。うれしいでぇ…うっうっうっ…。
う し:おいおい、泣かんでもええやないか。
にわとり:そやけどよう考えたら、にわとりしかなくなったら、焼き肉屋で
出てくる「タン(舌)」は小さいやろなぁ。「ハツ(心臓)」かて、
丸焼きにしてもサザエほどの大きさにもならんやろなぁ。
う し:そんなこと、どうでもええがな。それよりも、宮崎県内の競馬、スポ
ーツ、お祭りなど、全てキャンセルされてる。県立図書館かて閉鎖
されてる。人の移動でその感染を広げることになるんや。
宮崎県だけの問題でない
にわとり:他の県は、どうしてますのや?九州すべてが「感染するかも知れ
へん」いうので、大騒ぎちゃいますか。
う し:そうや、そのとおりや。九州だけやない。全国の畜産業者がふるえと
る。九州のウシやらブタは、封じ込められてる状態や。
にわとり:宮崎県は、えらいこっちゃなぁ。
う し:そうや。東国原(ひがしこくばる)知事は、防衛省に自衛隊の派遣要
求をした。農家にとっては、悪夢の頂点や。
にわとり:何とか宮崎県を助けてやれへんのかいなぁ?
う し:特別措置法による対策費かて、もうすでに400億円を越えた。マニフ
ェストを実行するのに政府は必死で、突然かわった首相かて、たじ
たじや。
にわとり:そうか。そうやったんか。わたしら、何か畜産農家にしてあげら
れることは、ありまへんのか?
う し:ぼくかて、一生懸命考えてるんや。ほんで、そんなことばっかりを考
えながら歩いてたら、あんさんが昼食を食べてる前で「糞」をして
しもたんや。ごめんなぁ。
にわとり:しょうがおまへん。つまらんことに憤慨(ふんがい)するのはや
めて、あんさんの「糞」を、許しましょ。そのかわりに、畜産農家
のために奮闘(ふんとう)してや!なんや、えらいつながり方をし
ましたなぁ。