2010-06
文:玉木英明
2010年 6月号 紫陽花(あじさい)の葉をぬらす、
雨の雫(しずく)に初夏を感じる特集号。
てるてる坊主くんと、かたつむりさん
てるてる坊主:で~んでん むぅ~しむし かぁ~たつむりぃ~♪
お~まえの 目ぇ~だまは ど~こにある~?♪
かたつむり:まっ!何て失礼な歌をうたってるのかしら!私のかわいい
お目々は、ここにあるじゃないの!今日は、カーラーで、
まつげはくりくりよ!
てるてる坊主:ごめん~。6月になったから、かたつむりさんの歌を歌いた
くなったんやよ~!悪気はないからゆるしてんか~!
かたつむり:だいたいねぇ、私がどんなに苦労して6月を乗り切っているか
知ってるの?「でんでん虫」なんて昆虫と間違われるような呼
び方されたり、「マイマイ」なんて目の回るような名前をつけ
られたり、殻のついたナメクジなんていわれ方をしたり…。
うっうっ…。
てるてる坊主:泣かんでもええがな。ぼくかて、「てるてる坊主」なんて不
本意な呼び方されてる。僕の歌かてあるでぇ。
「てるてる坊主」
浅原鏡村作詞・中山晋平作曲
てるてる坊主 てる坊主
あした天気に しておくれ
いつかの夢の 空のよに
晴れたら金の鈴(すず)あげよ
てるてる坊主 てる坊主
あした天気に しておくれ
私の願(ねがい)を 聞いたなら
あまいお酒を たんと飲ましょ
てるてる坊主 てる坊主
あした天気に しておくれ
それでも曇(くも)って 泣いたなら
そなたの首を チョンと切るぞ
かたつむり:よろしおますなぁ~。晴れたら金の鈴もらえますのやろ?
てるてる坊主:いままで、そんなんもらったことないでぇ。それに歌の3番
なんか、「あめふったら、首をちょんぎるぞ」なんて、むちゃ
くちゃやがな。それに比べて、かたつむりさんはよろしやない
か。優雅にあじさいの葉っぱの上を散歩できますのやろ?
かたつむり:いや、実は私かて必死なんや。フランス人につかまえられて、
「エスカルゴ」いう料理にしてフランス料理の前菜として食べら
れますのやで!
てるてる坊主:ちょっと、ひとつだけ聞きたいことがありますのやけど…。
かたつむり:何よ?
てるてる坊主:かたつむりさんって、殻から出たら、ナメクジになりますの
か?
かたつむり:まっ!失礼ね!あんなのといっしょにしないでよ!私の体は、
殻軸筋(かくじくきん)いう筋肉で殻内の殻軸部に付着してい
るのよ。だから殻は体と別物ではなくて、殻を捨てることもな
いし、殻とはなされたら、私、死んじゃうわ!
てるてる坊主:すんまへん、すんまへん。そないムキになって怒らんでもよ
ろしやないか。
かたつむり:あのね、私たちかたつむりは「グルーミング」いうて、自分の
殻を念入りになめて掃除してるのよ。だから、いつも「かたつ
むり」はぴかぴかでしょ?
てるてる坊主:そういえば、むかし僕が小さかったころ、つかまえた「かた
つむり」が汚れてたら、だいたい、死んでることがおおかった
なぁ。
かたつむり:てるてる坊主ちゃんに、小さかったころがあったのね?
てるてる坊主:その、「てるてる坊主ちゃん」いうのはやめて!なんやら、
はずかしい。
梅雨の読み方は、つゆ? ばいう?
かたつむり:6月は梅雨で雨が降ってカビの生えやすい季節やとか、いや、
ほんまにわたしら、損な月の主役やなぁ。
てるてる坊主:実際に、黴(カビ)が生えやすい雨の季節やから、「黴雨
(ばいう)」いう言葉で呼ばれて、さらにそれが梅の熟す季節
やから「梅雨(ばいう)」になったとも言われてる。
かたつむり:だいたい、「梅雨」なんて日本にしかないのでしょ?
てるてる坊主:いや、雨の季節は他の国にもあるよ。中国大陸部や台湾では
「梅雨」(メイユー)、韓国では「??」(長霖・チャンマ)と
よばれてる。
かたつむり:いやぁ、てるてる坊主ちゃん、ものしりやねぇ。
てるてる坊主:中国では、昔から同音の?雨(メイユー)という字が使われて
て、今でも使われることがあるらしい。「?(メイ)」は「黴
(カビ)」のことであり、さっきから話題になってる日本の
「黴雨(ばいう)」と同じ意味なんや。
かたつむり:ほな、中国では「梅」の意味はありまへんのか?
てるてる坊主:いや、あるでぇ。中国でも梅が熟して黄色くなる時期の雨、
という意味の「黄梅雨」(ファンメイユー)という言葉もよう
使われるんや。
かたつむり:じゃ、6月は雨のよくふる月やのに、何で「水無月」(みなづ
き)いうの?
てるてる坊主:「梅雨で天の水がなくなる月」いうことや。田植が終わって
田んぼに水を張る必要のある月「水張月(みづはりづき)」
「水月(みなづき)」であるとする説もあるし、田植いう大仕
事を仕終えた月「皆仕尽(みなしつき)」であるとする説もあ
るでぇ。
June Bride(ジュン・ブライド)
かたつむり:いっぺんに、ようけしゃべりましたな。ほな、英語では何で
6月を「ジュン」いいますのや?
てるてる坊主:なんでやと思う?
かたつむり:あなのあいた長靴で雨の日に歩いたら、中の靴下まで
ジュンジュンに水がしみてきた…から?
てるてる坊主:わっはっは、おもしろい、おもしろい!
かたつむり:えへへ…おおきに…ありがと…。てれるなぁ…。
てるてる坊主:そやけど、ちょっと違う。ローマ神話のユピテル(ジュピタ
ー)の妻ユノ(ジュノー)の名前なんや。ユノが結婚生活の
守護神であることから、6月に結婚式を挙げる花嫁を「ジューン
・ブライド」(June bride、6月の花嫁)というて、この月に
結婚をすると幸せになれるといわれてるんや。
かたつむり:いやぁ、何か私、あんたのことがすごく偉い人に、いや人形に
見えてきましたでぇ。私と結婚してほしいわぁ。
てるてる坊主:あのなぁ、どこの世界に「てるてる坊主」と「かたつむり」
が夫婦になってるところがありますかいな。あほなこと、言わ
んといてえな。
かたつむり:いいや、ええのや。私、あんたの奥さんになりたいんや。
てるてる坊主:世間の人たちが、いろんなうわさしまっせぇ。「あそこの
夫婦は不つり合いや」いわれるのがオチやがな。
かたつむり:そんな人のうわさなんか、「ぜんぜん無視」ですがな。