2018-04
文:玉木英明
2018年 4月号 地球への天体衝突。直径50mの隕石(いんせき)が地球を滅ぼす
杞憂(きゆう)くんと、憂慮(ゆうりょ)さんが…
杞憂くん: …あ、あの…憂慮(ゆうりょ)さん…。
憂慮さん: なあに、杞憂(きゆう)くん?
杞憂くん: …ぼ、ぼくと…結婚してください。
憂慮さん: いいわ。でもね、私とあなたで、大丈夫かしら?
杞憂くん: …え?どうして?
憂慮さん: だって、あなた、とても心配性でしょ?
杞憂くん: そ、そりゃ、そうだけど…。
憂慮さん: 結婚したら、悪いことが起こるかもって、内心、心配してるでしょ?
杞憂くん: 君だって、いつも不安におびえてるじゃない?
憂慮さん: 私たち、いつも、なぜか、心配なのよね。
杞憂くん: 二人の子供は、素敵な名前にしようね!
憂慮さん: 何て名前?
杞憂くん: そう…かわいい名前…危惧(きぐ)ちゃんなんてどう?
憂慮さん: かわいい名前…かしら?なんだか危ないわ。
杞憂くん: そんなこと言って、君なら何て名前つける?
憂慮さん: 懸念(けねん)くんなんてどう?
杞憂くん: 英語で、Fear(フィアー)ちゃんとか、Worry(ウォーリー)くんなんてのは…
憂慮さん: …やっぱり、ふたりだけで考えるのは、よしましょう。
地球に近づく16000個
杞憂くん: ねえ、ナサの発表、知ってる?
憂慮さん: ダサ?
杞憂くん: ええぇぇえ?知らないの?アメリカ航空宇宙局、NASAだよ。
憂慮さん: あのね、不安になる言い方しないでよ。
杞憂くん: 去年の9月1日に、直径4.4kmの天体が、地球から700万kmのところを通過した
そうだよ。
憂慮さん: …それがどうしたってのよ?
杞憂くん: さらに10月中旬には直径10m~30mほどの物体が、地球から4万3000kmまで接近した
らしい。
憂慮さん: …地球にはぶつからないんでしょ?
杞憂くん: ああ、そうなんだけど…
憂慮さん: けど、何なのよ?
杞憂くん: 最近、地球に近づく天体の観測技術がどんどん進んできたおかげで、地球に接近
する小惑星が、16000個も見つかってるんだ。
憂慮さん: ええ?そんなにようけ?ほ、ほ、ほんで、ぶつからへんの?
杞憂くん: 君は、関西の出身だったのですね?
憂慮さん: いや、動揺すると、なまるのよ。
杞憂くん: すでに発見済みの小惑星は、地球にぶつからないことが確認されてる。ただ…
憂慮さん: ただ?
杞憂くん: 実は、見つかってない小惑星がまだいっぱいあるんだ。
チェラビンスク隕石
憂慮さん: どこから、その天体は飛んでくるの?
杞憂くん: 地球に向けて飛んでくる天体には、小惑星と彗星(すいせい)があるのだけど、
いま問題なのは小惑星の方だ。
憂慮さん: その小惑星は、どこにあるのかと聞いてるんでっせ!
杞憂くん: だいぶ、動揺がすごいなぁ。小惑星は主に火星と木星の軌道の間にたくさんあって、
その軌道からはずれて地球の方に飛んでくるやつが問題になるんだ。
憂慮さん: …最近、落ちてきた小惑星はありますのか?
杞憂くん: ああ、4年前のチェラビンスク隕石(いんせき)が有名さ。
憂慮さん: チェラビンスク?
杞憂くん: そう、ロシアの都市の名前なんだけれど、その落下の時は、かなり広範囲、100kmほど
にわたって建物がこわれたりしたんだ。
憂慮さん: 落ちた隕石って、どのくらいの大きさだったの?
杞憂くん: NASAの調査では、直径20mほどだったらしい。
憂慮さん: そんなちっこい隕石で、そんなに大きな影響があったの?
杞憂くん: そうなんだ。隕石が直接落ちたことによる影響よりも、隕石が大気のなかで生じさせた
衝撃波で影響を大きくしたんだ。
憂慮さん: 衝撃波?
杞憂くん: そう、1908年に、シベリアのツングース地方であった大爆発は、たった直径60mくらいの
天体が落ちてきたからなんだけれど、2000平方kmの森林が倒れたそうだ。
恐竜が絶滅した隕石の直径は?
憂慮さん: …ききまっせ。恐竜が絶滅したのは隕石が原因ときいたけど、それはどれくらいの
大きさだったの?
杞憂くん: 直径10kmほどだったと計算されてるよ。
憂慮さん: …平田町駅から白子駅くらいの直径…?あまり大きくないわね。
杞憂くん: ああ、そのとおりだ。
憂慮さん: …それで、その大きさの天体は、何年に一度ぶつかるの?
杞憂くん: 1億年に1回くらいや。
憂慮さん: …ほんで、そんな天体…いま、ありますのか?
杞憂くん: 見つかったらしい。
憂慮さん: えらいこっちゃ!みなさん、えらいことでっせ!地球が、地球が、絶滅しまっせ!
杞憂くん: あのな、それよりも直径が数十メートルの天体が落ちてくる回数の方が…
憂慮さん: それくらいの大きさのものは、何年に一回落ちてきますのや?
杞憂くん: 数十年から100年に1回くらいだ。
憂慮さん: …あかんがな。
杞憂くん: あきまへん。
憂慮さん: まねせんとって。
杞憂くん: すんまへん。
巨大地震と同じくらいの頻度?
憂慮さん: 隕石が落ちてくるのは、巨大地震と同じくらい回数が多いやないの?
杞憂くん: そうやがな、そうやがな、そうやがな。
憂慮さん: あなたも関西系のギャグが好きね。…飛んでくる隕石って、簡単に見えるの?
杞憂くん: いや、隕石自体が暗いし、さらに空全体のどこから来るかわからないから、
見つけるのは大変らしい。
憂慮さん: チェラビンスク隕石の時は、見えてたの?
杞憂くん: いや、昼の方向から飛んできたから、わからなかった。
憂慮さん: やっぱり、あきまへん…もう、おわりや…
杞憂くん: いや、科学者たちは、地上からでなく、人工衛星を使って宇宙空間から観測する
方法を考えてるらしい。
憂慮さん: …それを、はよ言うてえな。
映画「アルマゲドン」みたいに…
憂慮さん: …ふっふっふ…。あっはっは。
杞憂くん: 何を気色悪い笑い方してるの?
憂慮さん: いや、大丈夫。落ちてくる天体が見つけられるのなら、もう大丈夫や。
杞憂くん: なんで?
憂慮さん: 映画「アルマゲドン」でブルースウィルスがやったみたいに、天体を爆弾で
吹き飛ばしたらええやないの。 「アルマゲドン」って何だ?
杞憂くん: いや、あれは映画や。爆発させたら、結局広い範囲に破片が落ちてくることになる
から、被害を広めるだけだよ。
憂慮さん: ほな…どうしたら、どうしたらよろしおますのや?
杞憂くん: 破壊せずに、飛んでくる隕石の軌道をそらすのが最良らしい。
憂慮さん: そんなこと、できますのか?
杞憂くん: 今現在の人類の技術では、小惑星が直径30mくらいで、地球への衝突前20年くらいなら、
探査機を何機かぶつけるだけで小惑星の軌道を少しずらして、地球への衝突を避けられ
るらしい。
憂慮さん: 世界中の研究者が研究してますのやな?
杞憂くん: そう、昨年の5月、東京で天体の地球衝突についての国際会議があったんだ。20か国、
20人以上が集まった。
憂慮さん: 日本独自の研究はしてないの?
杞憂くん: 東京へ小惑星がぶつかるという設定で、どう対応をするかを10月に議論したよ。
天体の衝突は、あらかじめ、その軌道を完全に予測して、事前に対策をとれるそうだ。
憂慮さん: 私たちは1000年に1回という地震も大津波も経験したわよね。
杞憂くん: そう、その1回が自分の生きてる間に来なけりゃいいと考えるのでなくて、
しっかりと子孫のために準備を整えるべきだね。
憂慮さん: そうね。そのために… まず、私は、何をしたらいいのかしら?
杞憂くん: 安心が得られる最良の方法がある。それは…
憂慮さん: それは…?
杞憂くん: 将来に備えて、心配しないで…
憂慮さん: 心配しないで…?
杞憂くん: ぼくと結婚することだ。