文責:玉木英明
2017年 2月号 シワのない潤いと弾力ある「第二の肌」、高分子の膜。
王妃(おうひ)と魔法のかがみが…
王妃: かがみよかがみ。この世で一番美しいのはだあれ?
鏡: おや、お妃さま。ザ・タマキタイムズに2年ぶりの登場でございますね。
王妃: そんなこと、どうでもいいわ。この世で一番美しいのは誰かと聞いているのよ。
鏡: はい、お妃さま、あなた様でございます。この世で一番美しかった白雪姫を あなた様が毒リンゴで殺してからは、この世で一番美しいのはお妃さまという
ことになりました。
王妃: かがみよかがみ、よけいなことを言わなくてもいいのよ。
鏡: いえいえ、お妃さまも最初にドイツのグリム童話に登場して約200年、ふつうに
考えれば200歳といえば、ミイラか妖怪、化け物のたぐいと考えられてもおかしく
ありません。
王妃: かがみよかがみ、それはほめているのかしら?
鏡: いえいえ、お妃さまが若かりし日のハリのあるみずみずしい素肌を得ようと、
エステに通っていらっしゃることも、先日おしのびで韓国にいって大金を投じて
美容整形手術をうけたことも、決して他言はいたしません。
王妃: かがみよかがみ、おしゃべりはきらいよ。
鏡: いえいえ、お妃さまがボトックス注射で、顔のいろんな部分を腫れあがらせて
しわを消すなみだぐましい努力には敬服いたします。ボツリヌス菌を注射するん
ですよ!毒素ですよ!あっはっは!
王妃: ええい、シャーラップ!笑うな!好きでこんな役してないわよ!
鏡: すみません。
ヒトの皮膚に代わる、高分子の皮膚
王妃: かがみよかがみ、ちょっとききたいことがあるのだけれど。
鏡: はい、何なりとどうぞ。私はカガミ。私は…
王妃: 知ってるわよ。前かがみな考え方をしない、道具のカガミで、岐阜県の各務ヶ原
(かがみがはら)の出身だったわね?
鏡: いいえ、最近自己紹介を変えました。私、かがみはミラー。みらいを映す、
ミラクルな能力をもっています。出身はミラノです。
王妃: …おもしろい自己紹介をするじゃないの。
鏡: ありがとうございます。
王妃: かがみよかがみ、iPadで、ちょっと気になる記事を見たの。
鏡: お妃さま、ハイテクなものをお使いなのですね。
王妃: そこに、皮膚の表面にぬるだけで潤いと弾力ある肌をつくる新素材、シワと
さよなら「第2の肌」って書いてあったわ。
鏡: お妃さまの美への固執、驚愕と茫然自失でございます。
王妃: かがみよかがみ、ほめてくれて、ありがとう。
鏡: お妃さま、それは昨年5月上旬に科学誌ネイチャー・マテリアルズに掲載された
記事で、若い皮膚をつくる薄いポリマー(高分子化合物)の合成皮膚が開発された
っていう記事ですね。
王妃: そうやがな、そうやがな、そうやがな。
鏡: お妃さまは、関西のご出身だったのですね。
王妃: 私、エキサイトするとなまりがでるのよ。
24時間、しわもたるみもさようなら
鏡: アメリカのマサチューセッツ工科大学とハーバード大学の研究チームが5年以上の 歳月をかけて開発したものです。
王妃: ね、ね、ね、いったいそれは、なんなのよ!
鏡: せまらないでください。鏡面につばがとんでいます。
王妃: つばくらい、気にしないでよ!ね、ね、早く教えて!
鏡: ポリシロキサンというシリコンプラスチックの透明なクリームを皮膚に薄く
のばします。そしてその上に触媒となるプラチナを重ねてやると、結合構造が
変化し、極薄で透明なフィルム状の膜が肌表面に貼りつくのです。
王妃: …かがみよかがみ、もう少し簡単に説明してくれない?
鏡: 人間の老化した皮膚の上を、高分子の薄い膜でおおい、若くて健康な肌と同じ
弾力と保湿力をもたせるのです。
王妃: わ、わ、わかい肌…私が追い求めていたものだわ。
鏡: この新素材は、目の下のたるみや、シワも大幅に軽減できるそうです。
王妃: かがみよかがみ、その高分子とやらを一回塗ると、何年くらいシワがなくなるの?
鏡: 24時間です。
王妃: 24時間?
鏡: はい、まる一日で効果が消えます。ただ、効果が消えると肌はもとの状態に
もどるだけですから、安心です。
王妃: ちょっと待ってよ。何が安心なものよ!1泊2日の旅行にそのクリームを持って
行くことを忘れちゃったら、若くてヤングなギャルを装っていっても、朝起きたら
お婆さんとして横たわっているわけでしょう?
鏡: はい、浦島太郎の玉手箱フルオープン状態です。
王妃: …あかんやないの。
鏡: はい、あきまへん。
王妃: まねせんとって。
鏡: すんまへん。
皮膚に病気をもつ人も
王妃: その高分子の膜、泳いでも大丈夫?
鏡: はい、水にも強く、こすっても落ちにくく、皮膚呼吸を妨げることもありません。
王妃: ということは水上スキーも、ハンググライダーもOKね!わくわくするわ!
鏡: お妃さま、200歳とは思えない行動力ですね。
王妃: このペースでいくと「白雪姫」のお話は、あと何百年も続くわ。ということは、
何万回も「この世で一番美しい」と言われなきゃならないわけよ。
鏡: 実は、この研究チームの目標は、美容の分野だけでなく、皮膚疾患の治療にも
応用しようとしているのです。
王妃: 簡単に説明してって、いってるでしょ。
鏡: 皮膚の病気の人に効くのです。深刻な乾燥肌の人がこの高分子膜をぬれば、
保水効果抜群の皮膚がおおってくれることになります。ここに治療薬をぬれば、
薬剤が長時間持続して効果を発揮するのです。
王妃: 日焼けは…?
鏡: この高分子に、紫外線をさえぎる成分をまぜれば、24時間フルパッケージの
日焼け止めを作ることができます。
王妃: かがみよかがみ、日傘がいらなくなるのね。
鏡: お妃さま、それどころか、一日中、思う存分ビーチバレーを楽しむことが
できます。
米国の研究開発。スピーディーで大きな意欲の理由
王妃: 極めて薄くて透明なフィルム状の膜が、私を若返らせるのね!
鏡: はい、アンチ・エイジングの切り札です。
王妃: ねえ、ねえ、その高分子膜、いつ、誰が売り出すの?
鏡: この研究を主導しているマサチューセッツ工科大学(MIT)のロバートランガー
教授は、オリボ・ラボラトリーズという会社を経営してて、数年以内の実用化を
めざしています。
王妃: 大学の教授が、会社なんか経営していいの?
鏡: 日本人は「大学と会社が共同研究」ということには抵抗がないのだけれど、
「大学の教授が会社を経営」というのには抵抗があります。
王妃: そりゃそうでしょ?大学からお給料をもらって、さらに会社でもうけるのだから。
鏡: いえいえ、大学の教授がそのまま会社で製造まで考えているわけだから、研究と
実用化への究極のスピードを生み出すことができるのです。日本的な小さな単位の
お金ではなく、一研究何千億円もの規模をねらうことができるのです。発見すれば
大金持ちになれるのです。
王妃: そうか。それで、アメリカの研究開発能力はすごく高いのね。
見た目で年齢を判断できない時代がくる
王妃: 早く、その高分子膜を試してみたいものだわ。
鏡: 見た目で人間の年齢を判断できない時代が間近にせまっているといえます。
王妃: ねえ、かがみよかがみ、見ただけでは人の年齢がわからなくなったら、いったい
どうなるの?
鏡: 若い容姿の老人は、電車で席をゆずってもらえません。シルバーシートに座って
いたら周囲に白い目で見られるようになります。映画館に入るとき、身分証明書が
なければ老人料金で入れてもらえません。
王妃: 老人だけが問題なの?
鏡: 若い人が結婚を考えるとき、出会った人が「何歳か」が大問題になります。好きに
なった人が60歳を越えていたなんて話が現実になります。自分のおじいちゃんか
おばあちゃんにプロポーズするようなものですね。
王妃: 私は200歳を越えているから…
鏡: そのような年齢層の方をターゲットにする若者は、「ゴースト・バスターズ」と
よばれています。