2016-12

文責:玉木英明

      2016年 12月号 サンゴが死滅する。海水温の上昇に耐えられない!

青い海原、群れ飛ぶカモメ

集団歌手:あおい~海原~、群れ飛ぶカモメェ~

芦屋夫人:あらいやだ、何だか古い歌が聞こえてきたわ。

歌手 :こころ~ひかれた~白いサンゴ礁~

夫人 :あなたたちが歌ってるの?!変な集団ね。背広に赤いワイシャツとその靴、

東洋人にまるで合ってないし、右の3人のポーズ、どうみてもおかしいわ。

歌手 :…なんでっか?ヒトが、気分よく歌ってるのに。

夫人 :あなたがリーダー?今歌ってたの、ズーニーブーの「白い珊瑚礁」でしょ?

歌手 :そうやがな、そうやがな、そうやがな。

夫人 :関西系の、しかも古い漫才師のお返事は、やめてくださる?

歌手 :うふ!ズーニーブーと中田ダイマル・ラケットのネタを知ってるなんて…

あなたも「昭和」の生まれやね?

夫人 :シャ~ラップ!ほおっておいてちょうだい!それにさっきのは「夢路いとし

喜味こいし」のネタじゃなかったかしら!?

歌手 :ますます、親近感を覚えますなぁ。さぁ、一緒にうたいましょ!せ~の~、

♪~あおい~♪

夫人 :♪~うなばら~♪…ち、ち、ちがうっていってるでしょ!のせないでよ!

だいたいね、そんな50年も前にはやった歌を…あら、どうしたの…?

あなた、泣いてるの?

歌手 :実は、「白いサンゴ礁」は、死んでますのや…。

夫人 :ど、どういうこと?

歌手 :海水温が上昇して、サンゴの体内に共生している褐虫藻(かっちゅうそう)が

出て行ってしまって、サンゴが 成長をとめて、白くなってしまいましたんや。

夫人 :…ほんま?

歌手 :ほんまです。

サンゴは、動物?植物?装飾品?

夫人 :サンゴって、削って装飾品にする「石」でしょ?私は3月生まれで誕生石が

サンゴなのよ。

歌手 :いや、装飾品になってるのは、サンゴのつくる硬い「殻」のことで、主成分は、

炭酸カルシウム、骨とか貝殻と同じでっせ。石とはちがいます。

夫人 :骨といっしょ?貝殻と同じ成分?なぁんだ、価値の薄いモノなのね?

歌手 :とんでもない!仏教では七宝のうちの一つだし、結婚35周年を珊瑚婚式とも

いいまっせ。ギリシャ神話で英雄ベルセウスが怪物メドゥーサの首をかき切った

時に地中海に落ちた血のしずくがサンゴだという言い伝えがあって、ローマ時代

から「おまもり」として有名でっせ。イタリアでは、金星と月にむすびついた

尊いもので、今でも妊婦や船乗りには「厄よけ」として珍重されてまっせ。

夫人 :いっぺんに、たくさんしゃべったわね。

歌手 :中国や台湾、日本でも高値で動くから、小笠原近海で中国漁船が大量に密漁

してることは有名でっせ。

夫人 :いくらきれいだからって、炭酸カルシウム、「貝殻」でしょ?

歌手 :いや、その骨格の中に住んでいる生物が「サンゴ」なんでっせ。二酸化炭素の

吸収と、放出とをおこなってますのや。

夫人 :二酸化炭素を吸収してる…?ということは、サンゴは植物ってこと?

歌手 :ちがいまっせ。サンゴ自体はクラゲやらイソギンチャクとおなじ刺胞動物、

光合成はしまへん。ただ、サンゴは必ず褐虫藻類と共生してて、その褐虫藻類が

光合成をしますのや。

夫人 :ということは、地球の温暖化、海水温の上昇でサンゴの体内で生きてる褐虫藻類

がいなくなって、サンゴが死んでるのね?

歌手 :そのとおりです。

夫人 :…どのくらいのサンゴが死んでるの?

歌手 :今年の4月にオーストラリアのジェームズ・クック大学の研究者らが調査したら

世界最大のサンゴ礁、グレートバリアリーフの93%に白化現象が広がってること

がわかりました。

夫人 :…えげつないやないか。

歌手 :…あなた、関西人だったのですね。

夫人 :興奮すると、なまりがでるのよ。

遺伝子情報を解析、強いサンゴを

夫人 :サンゴの死滅の原因は、本当に地球温暖化なの?

歌手 :そう、エルニーニョであたたかい海水のかたまりが太平洋をゆっくりと進んで、

莫大な数のサンゴ礁を殺していますのや。もちろん、海岸線の工業化による

汚染も原因の一つやけど。

夫人 :人間のしわざで、サンゴ礁が死んでいってるのね。…生物学者は、何か考えて

ないの?

歌手 :生物学者の大半は、地球温暖化には歯止めがかからんからと、サンゴが死んで

いくのを黙って眺めているだけや。

夫人 :なあ、なあ、赤いワイシャツのお兄ちゃんら、何かええ方法、ありまへんのか?

歌手 :全くない…わけやない。

夫人 :…なんや、いじわる!はよ、言うてよ。

歌手 :ハワイ大学の海洋生物学研究所で、サンゴ生物学者のルース・ゲイツさんらは、

厳しい気候変動や高い海水温、二酸化炭素にも耐えるサンゴの遺伝子をつきとめ

て、ゲノム(遺伝情報)を解析して、現代の気候に適応する「スーパーサンゴ」

を創り出そうとしていますのや。

夫人 :果物やトマト、小麦と同じじゃないの?遺伝子組み換えの品種改良をサンゴでも

行おうというの?

歌手 :いや、遺伝子に手をつけよというのとは、ちがいますのや。

夫人 :そやかて、品種改良でしょ?

歌手 :ちがう、ちがう。サンゴのポリプにはいっている褐虫藻を、新しいものにいれ

かえて、どの藻類がサンゴの生存能力を高めるかを発見しようとしてるのや。

実験用タンクで、温度と酸性度を少しずつ上げた海水にサンゴをさらす実験も

してる。

夫人 :…それって、まるでリハビリみたいね。

歌手 :そう、リハビリというよりは、苦しい環境で生き抜くための訓練とでも言いま

しょか。「初めてマラソンのトレーニングするときは苦痛でも、2回目になれば

マラソンに耐える体をつくれる」らしいで。

夫人 :世界中のサンゴを訓練するの?

歌手 :いや、さすがにそれはムリや。ただ、少ない場所からでもええから、より厳しい

環境で生活できるサンゴの子孫を増やそうとしてますのや。

規模の問題

夫人 :すばらしいわ!…ただ、「サンゴの訓練」なんて直接収益につながらないことに

出資する人いるの?

歌手 :マイクロソフトの共同創業者ポール・アレンも資金援助してる。

夫人 :はよう、はよう、急ぎなさんご!

歌手 :エキサイトしてくると、関西人になりますのやな?

夫人 :ほっといてんか。ほんで、そのスーパーサンゴ、地球温暖化のスピードに勝て

ますのか?

歌手 :白化現象を1970年に発見した海洋生物学者のポール・ヨキエル(今年4月逝去)

も、このゲイツの最先端化学を賞賛しました。でも「規模が小さすぎる」とも

言うてました。

夫人 :ど、ど、どういうこと?

歌手 :世界中の死にかけているサンゴを、「訓練」して強く生まれ変わらせて、自然に

もどす作業は、地球温暖化のスピードに比べると量が小さすぎて、焼け石に水の

状態やということですがな。

もとにはもどせない

夫人 :何を…何をせなあきまへんのや?

歌手 :あんたまで、涙ぐまんかてよろしがな。

夫人 :涙なしでは、聞かれましょか。

歌手 :最大の問題は、二酸化炭素がすごい勢いで増え続けてることや。人類をあげて

二酸化炭素の排出にブレーキをかけなあかん。さもないと…

夫人 :さもないと?

歌手 :氷がとけて海面も上がるし、山の上にある氷がなくなれば川の水かて干上がって

しまって、地球上が砂漠化していく。作物も作れなくなって、高い海水温で

とんでもない台風やハリケーンがおこって…

夫人 :あかん、あかんがな!

歌手 :急に大きな声を出したらびっくりしますがな。

夫人 :サンゴの保護と同時に、早くせなあかんことがいっぱいあるやないですか!

歌手 :そう、人間がみんなで手分けして、世界を、自然を守っていかなあきません

のや。

いっしょに歌おう、サンゴの歌を

夫人 :ようわかりました。何か私にもできることはありますか?

歌手 :では、サンゴの歌をいっしょに歌いましょう。

夫人 :白いサンゴ礁は、死んでるのでしょ?かわいそうな歌、やめときましょ。

歌手 :サンゴの歌は、他にもいっぱいありまっせ。

夫人 :どんな歌?

歌手 :皆川おさむの「黒ねこのサンゴ」、「さんご三兄弟」、郷ひろみの「お嫁サンゴ」

なんか、どうですか。

夫人 :…それって、黒ねこのタンゴ、だんご三兄弟、お嫁サンバじゃない?

歌手 :ほうら、やっぱり、あんた昭和の生まれや。

夫人 :…し、しらないわよ!玉木のホームページの「昭和の部屋」で知ったのよ!

歌手 :楽しそうな部屋ですね。いっしょに行ってみましょうか。

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