2009-10

文:玉木英明

2009年 10月号 石油の枯渇に備える!次世代自動車は、電気?燃料電池?

ガソリンが枯渇してしまう!

玉やん:オレはこの日を待っていた。そう、高校卒業の今日や。オレを止める

ものは、もう何もない。オレの青春は暴走や。マフラー改造した

セルシオで音楽ならしたおして、走りまくるんや。バイトで稼いだ

この金を、全部はたいて買おたるんや。どや、えらいやろ?すごい

やろ?ごついやろ?品のええスポイラーつけて、彼女の早苗ちゃん

乗せて走ったるんやぁぁぁ!うぉぉぉぉ!

車屋 :なんや、おかしな奴が、わめきながら来よったで。

玉やん:おいおっさん、セルシオくれや。できるだけ安て、壊れてない、

きれいな中古のセルシオやで。

車屋 :おまえみたいな言葉使いするヤツに、売ったる車は、ないっ!。

玉やん:おっさん、えらい迫力やな。びびるがな。ごめんなさい。あのう、

セルシオ売っていただけませんでしょうか。

車屋 :よし。それでええんや。ほんで、何に使うんや?

玉やん:暴走……やなくて、ちょっと乗りたいんですけどぉ。

車屋 :ちょっと乗るだけなら、軽自動車にしとけ。

玉やん:えらい、えらっそな車屋やな。

車屋 :何か、言うたか?

玉やん:い、いえ、何にもありまへん。それにしても、軽自動車はパワーが

ない。やっぱり、セルシオや。ガソリン使いたおして走るんや。

車屋 :ガソリンみたいなもん、あと10年か15年で使えへんようになるで。

玉やん:ええっ?どうしてなんですか?

内燃機関は消えゆく運命?

車屋 :この数十年の人類の石油の使い方は、ちょっと無茶やった。何十億年も

地球のためこんだ化石燃料を、無造作に燃やし続けすぎたんや。

玉やん:そやかて、学校で「石油枯渇まであと30~40年」いうて習いましたで。

まだまだ大丈夫でっしゃろ?

車屋 :完全に枯渇するまでに、30~40年や。ということは、世界中で石油の

量が足らんようになり始めて、日本で今の石油の輸入量が5%減り

10%減りしていくのは、もう、間もなくやと言うてるんや。

玉やん:日本に入ってくる石油が、10%削減されたかて、こわいことあらへん

で。今、130円のガソリンが10%の値上で143円になるだけやろ?

車屋 :あほやな。日本に輸入される石油が削減され始める時、政府はまず、

公共の交通手段や電力、工業製品の材料としての石油を確保せな

あかん。そのために、一番最初に市場に出回らんようになるのが、

「一般市民の乗る自動車のガソリン」やと言うとるんや。

玉やん:ど、どないなりまんのや?

車屋 :そやから、ガソリンの値段が、1リットル300円、いや、500円とか

600円になるのは、すぐやと、言うてるのや。

玉やん:そんな、あほな。セルシオは、レクサスは、マジェスタはどないなる、

というのですか?

車屋 :何があほなもんか。燃料を直接燃やして走る「内燃機関」で、しかも

排気量が 4000ccも5000ccもある車が「20世紀のなつかしい思い出」

になる日も近いと思うでぇ。

玉やん:オレ、何に乗ったらよろしおますのや?彼女の早苗ちゃんとドライブは

ドライブは…できまへんのでっか?うっうっ…。

車屋 :おいおい、店先で泣きないな。みっともないやないか。

玉やん:そやかて、そやかて、せっかく貯めたお金やのに、あのな、ガソリンが

なくなって、ほんでな、早苗ちゃんとドライブに行けへんから、イラク

がにくい。

車屋 :頭の中が、だいぶ混乱してるなぁ。なあ、にいちゃん、まあ聞けや。

あんたらみたいな若い人らが、石油がまだ残ってるうちに研究を重ねて

「次世代」のエネルギーを開発せなあかんのや。

玉やん:そんな夢みたいな話…。

車屋 :いいや、夢やないでぇ。日本では、いろんな会社が、「電気自動車」

や「燃料電池自動車」の開発をいそいどる。ただなあ、こういう車が

走り回るためには、インフラ(社会的環境)が整う時間も必要や。

電気自動車や燃料電池の完全実用化は5年はかかるやろな。

電気自動車、燃料電池車

玉やん:電気自動車は、いっぱいバッテリー積まなあかんし、充電に時間かて

かかるやろ?遠いとこまで行けへんのとちがいまっか。

車屋 :そうや。そやから、その難点をおぎなうのが燃料電池車なんや。

玉やん:そんなもん、燃料が水素かアルコールになっただけやろ?燃やして

ピストン動かして、車が進むことに変わりあらへん。やっぱり

「内燃機関」やんか。

車屋 :それが、全く違うのや。ピストンも点火プラグもない。

玉やん:うそや!水素もアルコールも、燃やして初めて役に立つんやろ?

車屋 :学校で「水の電気分解」いうのを勉強したやろ。あれの全く逆の反応を

させるんや。ゆ~っくり、ゆ~っくり、水素から電子をはずして、

空気中の酸素にくっつけたる。その時に移動する電子で、モーターを

動かすんや。

玉やん:そんな器用なことできるんかいな

車屋 :水素と酸素は、いそいでくっついて水になろうとする。その間に

はいって、「まてぇー、まてぇー」いうて、じわじわ電子をしぼり

出すんや。

玉やん:おっちゃん、理科の先生みたいやな。なんや、たのもしーに見えて

きたわ。

石油の代わりになるものなのか

玉やん:そやけどな、おっちゃん。水素やアルコールかて石油から得るのやろ?

そしたら、やっぱり石油が必要やんか。

車屋 :いや、それがちがうんや。水素はメタノールから簡単に取り出すこと

ができる。そのメタノールは、植物を発酵させたり、植物体を構成する

セルロースからも手に入れる方法が確立されてるんや。

玉やん:その、せ、せなかのロースいうのは、焼肉のことでっか?

車屋 :ちゃいまんがな。なんぎなヤツやな。麦とか米から酒を醸造するやろ?

要は、あれと同じや。

玉やん:そうかぁ。植物さえ、うまいこと地上で育てたら、アルコールが得ら

れる。ほんで、そのアルコールから電気が取り出せる、いうわけやな。

高効率で音・熱・排気ガスなし

玉やん:「電気自動車」とか「燃料電池自動車」に、早苗ちゃん乗せて走って、

カッコええやろか?なんか、ヒョロヒョロでたよりないなぁ。

車屋 :モーターで走るんやから、振動も音もない。エンジンを冷却するための

ラジエターかていらん。

玉やん:なんか、いややな。マフラーから「ズボボボボ…」いう音がせんこと

には、張り合いないがな。

車屋 :ピストンの往復運動いうのは、めっちゃ効率が悪いんや。それに、電気

自動車や燃料電池車なら、あんたの言う「マフラー」いうのかて、

いらん。排出するのは、基本的に水だけや。

玉やん:そうかぁ。日本の英知を結集したら、もう大丈夫やな。はよう、頭の

ええ奴らが、がんばって研究してくれたらええわ。

車屋 :あのなあ、ヒトまかせにして、どないするんや。あんたかて、もっと

社会に貢献したろとは思わへんか?

玉やん:そら、思うわさ。そやけど、とりあえずオレさ、早苗ちゃんにええ

かっこしたいんや。デカい車でドライブしたいんや。デカい車なら

早苗ちゃんも尊敬してくれるでぇ。

車屋 :そろそろ、自動車が「ステイタス」を示すものでも、なくなってきた

やろ。

玉やん:どういうことでっか?

車屋 :そやからな、燃料電池を開発する英知の一旦を担うことはできん、

いうのやったら、少なくとも残り少ない化石燃料の消費を抑えよと

思わんか、と言うてるのや。

玉やん:そうか…そやなぁ。そやけど、自動車は欲しい。

車屋 :よし。電気自動車は今のところちょっと高いで、軽自動車にしとけ。

あのな、この中古の軽自動車、ごっつい調子ええでぇ。装備かて抜群

やし、何しろ燃費がええがな。安しとくで。ほれ、もってけ!

玉やん:あ、ありがとうございます。あ、あかん…いつの間にやら、…軽自動車

を買わされてしもたがな…。