2016-04

文:玉木英明

2016年 4月号 朝ごはんをぬく人は出世ができない?後ろ向きコフォート調査

バービー人形と、おままごと

幼児 :今日は、バービーちゃんと遊ぼうかしら、それとも、リカちゃんと遊ぼうかしら。

バービー:ヘイ、ユー!

幼児 :うわっ!びっくりするじゃないの!人形が、突然、話しかけないでよ!

バービー:メイアイ・スピーク・トゥーユーア・リトルビット?

幼児 :あのね、私の人生は、ほんの3年前に始まったばかりなのよ。まだ外国語が理解

できるわけないこと、わかるでしょ?

バービー:プリーズ ユーズ ディス インストゥルメント、タマキズトランスレイター。

幼児 :え?この。タマキタイムズでおなじみの英語翻訳機を使えって?…

        なまいきな人形ね。…いいわ。わかったわ。

バービー:サンキュー・ベリー …あ~りが~とさ~ん!

幼児 :この翻訳機、関西弁に翻訳するのね。しかも、坂田利夫のネタね。

バービー:3歳やのに、よう知ってるなぁ。

幼児 :私の受けている教育は最高よ。岡八郎も花紀京も、よく知ってるわ。

バービー:ちょっと、古いけど…。きっと、最近の中学生や高校生は知らないわ…。

幼児 :ほっといて。さあ今日は、私とおままごとをしましょう。

バービー:私、おままごと、きらい…。

幼児 :何か言った?人形のくせに、くちごたえしないでよ。は~い、バービーちゃん、

朝ごはんでチュよー。

バービー:…いらない。

幼児 :どうして?

バービー:私、ダイエット中なのよ。

幼児 :だめだめ、朝ごはん、食べまちょうねー。

バービー:だから、私がこのスリムな体型を維持するためには、努力が必要なのよ。

幼児 :あのね、朝ごはんは元気の源よ。

バービー:朝ごはんを食べなくても、私は元気よ。美容第一なんだから。

幼児 :バービーちゃん、脳の神経細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えない

のよ。だから、パンやご飯を食べて消化して、血糖値を上げてやらないと、

脳ははたらけないのよ。

バービー:3歳児のおままごととは思えない会話ね。

脳のシナプスを増やすには

幼児 :私たちの脳は、使えば使うほど、どんどん作り変わっていくのよ。

バービー:どういうこと?

幼児 :脳で考えるというのは、神経細胞の中で電気を流すことなのよ。電流を流す

ところを神経繊維、伝わる場所をシナプスといって、考えたり動いたりすると

いうことは、狙った神経細胞、シナプスに繰り返し電気を流すことなの。

バービー:電流が流れたら、どうだというのよ?

幼児 :シナプスの数がどんどん増えて、よい脳になっていくのよ。

バービー:シナプスの数を増やす?

幼児 :そうよ。そのために、栄養素が必要なのは当然でしょ?

バービー:ということは、朝ごはんを食べないと…

幼児 :そう、午前中に何かをしよう、学ぼうと思っても、十分に脳がはたらききれない

のよ。

バービー:私は昨日の夜に食べたから十分よ。食べたものがエネルギーになるまでには、

時間がかかるでしょ?

幼児 :知らないの?朝ごはんは、すぐに午前中の作業に効いてくるのよ。

バービー:え?すぐに?

幼児 :そう。朝食後、30分くらいよ。

バービー:…はやいのやね。

幼児 :血糖値は食べて5分ほどですぐ上がるわ。だから、脳のエネルギーは食べて

すぐに補充されるの。ただ、シナプスを作るための様々な栄養素は、消化されて

分解される必要があるの。それでも、おおむね30分くらいで様々な能力が全力で

出せる状態になることがわかっているわ。

バービー:もう一度言うけど、3歳児のおままごととは思えない会話ね。

証明できます、後ろ向きコホート調査

バービー:朝ごはんを食べないヒトが、頭が悪いなんて、証明できるの?

幼児 :東北大学の加齢医学研究所の川島隆太さんが証明してるのよ。子供の学力、

体力などすべての指標と、朝食の摂食頻度とには強い正の相関関係があるのよ。

バービー:あのね、人形の私でもわかる簡単な言葉で説明してよ。

幼児 :朝ごはんを食べていない子供は、学力も低いし、体力も低いってことよ。

バービー:ほんとに?

幼児 :さらに調べてみると、大人になった後も、いろいろな影響が出てることが

わかってきたのよ。

バービー:そんなの、わかるわけないじゃないの。朝ごはんを食べなかったヒトがこれ

から先、どうなるかなんて、調べようがないじゃないのよ!

幼児 :それが、子供の頃にきちんと朝ごはんを食べていないヒトは、大学入試もうまく

いかないし、就職もうまくいかないし、年収も低くなるということが、わかって

きたのよ。

バービー:…未来がよめるっていうの?

幼児 :後ろ向きコホート調査を行ったのよ。

バービー:後ろ向きの人が?ホトホト困った調査?

幼児 :あのね、まず、先に大人の人たちを調べるの。

バービー:大人たち?

幼児 :そうよ。どういう会社にいるか、どういう大学をでているか、年収はいくら

くらいか。

バービー:ダイレクトな質問ね。

幼児 :そして、その大人の人が、子供の頃からどのような生活をしていたかを

アンケート調査するのよ。そうすると、年収と朝ごはんの関係までわかるでしょ?

幼児 :なるほど…これは、すごい調査ね!

ごはんだけ食べればOKなの?

バービー:脳のエネルギーには炭水化物が必要であることはわかったわ。だったら、朝、

砂糖水を飲んだらいいのね?

幼児 :昔はそう考えられていたわ。だから、疲れたら甘いものを食べなさいと

いわれたわ。ところが、最近、私たちの脳は主食だけ食べていたのでは働き

きれないということが、心理学でも脳科学でも証明されたのよ。

バービー:どうやって、そんなこと証明するのよ?

幼児 :さっきの川島先生が、東北大学の学生に、ある日の朝は病院で使っている完全

栄養、すなわち全ての栄養をしっかりと含んでいる流動食をたべてもらって、

午前中の脳の動きをMRIで撮影したのよ。

バービー:それで?

幼児 :同じ大学生達に、ある日の朝は砂糖水だけをのんでもらったの。すなわち、主食

だけを食べた状態にして、記憶のテストをしながらMRIをとって脳の働き方を

測定したのよ。そうしたら…。

バービー:ど、ど、どうなりましたんや?

幼児 :動揺すると、関西弁になるのね。…教えてほしい?

バービー:いじわる!はよ、教えてえな!

幼児 :詳細に調べたら、砂糖水だけを飲んだ時と、その他の栄養までしっかり食べた

ときとでは、能力に2割も差がつくことがわかったの。

バービー:20%も脳がパワーアップするの?

幼児 :そうよ。それに、私たちの体の細胞が、上手にブドウ糖を使うためには、それ

以外に様々な栄養、例えばビタミンB1とか、リジンと呼ばれる必須アミノ酸を、

食事のたびにたべなければいけないことが分かってきたのよ。

バービーちゃんの友達、リカちゃん。

幼児 :朝ごはんを食べないと、「チャンスに恵まれないひと」になること、分かった?

バービー:はい、わかりました。これからは、ちゃんと朝食を食べます。

幼児 :いいお返事ね。おもちゃ箱に帰ったら友達のリカちゃんにも、教えてあげてね。

バービー:リカちゃん?…あの子には、言ってもムダだと思うけど…。

幼児 :どうして?

バービー:リカちゃんは、難しい話を理解できないの。考えるのが苦手なのよね。

幼児 :あの子、朝ごはんを、きちんと食べてないでしょ?

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