2014-07
文:玉木英明
2014年7月号 調査捕鯨の即時停止判決。日本の捕鯨の未来は?
クジラ。巨大な哺乳類
磯巾着:ちょっと、あんた!そこどいてくれない?
クジラ:なんだ~い、僕のこと~?
磯巾着:あんたしか、いないでしょ!全く、図体ばかり大きくて、おまけにプーって
頭のてっぺんから水を吐くなんて、変な生物ね!あんた、だれ?
クジラ:ぼくは、クジラ。8時でもクジラ。
磯巾着:…あのねぇ。おもしろい 自己紹介したって、許さないんだから。私の
日光浴を邪魔しないでよ!
クジラ:ようしゃべるお姉ちゃん、あなたは誰ですか?
磯巾着:私は「シー・アネモネ」、海に咲く、美しい一輪の花よ。
クジラ:なんや、イソギンチャクやないか。
磯巾着:シャーラップ!イソギンチャクなんてダサい名前でよばないでよ!
「巾着」ってばあちゃんの持ってる「ずた袋」のことでしょ?だいたい、
魚類のくせして、デッカイ図体で、こんなに岸の近くをゆうゆうと泳いで、
どういうつもり?
クジラ:僕は、哺乳類でっせー。中学校で習いましたやろ?
磯巾着:…うるさいわねぇ。口答えしないでよ!私らイソギンチャクは小学校だけ
出ればよかったのよ!
クジラ:おっ、自分でも「イソギンチャク」いいましたなぁ。
磯巾着:腹の立つ言い方ね。あんたなんか、漁師につかまればいいのよ!
クジラ:ざーんねんでした!今年4月にオランダのハーグの国連国際司法裁判所
(JCJ)いうところが、日本の調査捕鯨の即時停止の判決を出したんやよ。
磯巾着:…ほ・ゲイ?
クジラ:あのなぁ、妙なところで切って読むのはやめてんか。とにかく、クジラを
捕まえたらあかん、いうて国際裁判所が決めたんや!
磯巾着:こっすいやないか!クジラばっかり守られて!
クジラ:あのな、つば、飛んでまっせ。
磯巾着:日本人は、クジラを食べたいに違いないのや!鯨の缶詰いうたら、弁当の
定番やった!日本の文化や!そやのに…そやのに…。
クジラ:イソギンチャクのあんたが泣かんでもええがな。怒ったり、泣いたり、
忙しいなぁ。
磯巾着:なんで、その国連の裁判所が「調査」のための捕鯨まで、禁止しましたんや?
クジラ:日本の調査捕鯨は、生息数を調べるいうのが名目や。ところが、実際には
その調査で捕まえたくじらの肉を市販もできて、日本人は鯨の肉を食べて
ますのや。国連の裁判所が「ほんまに、日本のしてる捕鯨は、調査か?」
いうてカチンときたのやろうな。
磯巾着:「シーシェパード」とか、「グリーンピース」とか、自然保護団体が捕鯨船
を妨害してる写真も見たことありますなぁ。
世界捕鯨委員会(IWC)。
磯巾着:そうか…もうわかった…何も言わんでええ…。
クジラ:イソギンチャクのお姉ちゃん、不敵な笑みを浮かべて、何を言うてますのや?
磯巾着:世界捕鯨委員会なんか、脱退や!無視や!やめてまえ!
クジラ:急に大きな声を出しないな。びっくりするがな。
磯巾着:他の国、鯨をとってる国は、どうしてますのや?
クジラ:ノルウェーはIWCに加盟したまま捕鯨を続けてるし、カナダは、とうの昔に
世界捕鯨委員会IWCを脱退した。
磯巾着:ほれ、やっぱり日本かて、IWCなんか脱退するか、無視したらよろしや
ないか!
クジラ:無茶言いないな。日本は国際社会で、ルールを乱す国とはちがうやろ?
日本人は、本当にクジラを食べたがっているの?
クジラ:捕鯨に反対してる国に「捕鯨は野蛮や」と言われて、日本人はあまり文句も
言わん。
磯巾着:どういうこと?
クジラ:クジラの肉を、ほんまに「日本人が食べたがってるのか」というと、
あやしいのや。年間数十億円も投入して、毎年調査やいうて5000トンもクジラ
をとってくる。ところが、実際には消費者はあんまり食べない。冷凍庫に
いっぱい余ってて、在庫が2012年には4500トンを超えた。
磯巾着:クジラの肉は珍味でっしゃろ?何で、余るの?
クジラ:自分で言うのもなんやけれど、鯨の肉を昔食べてた人らは、口をそろえて
「あんまり美味しくない」いいますのや。
磯巾着:日本の捕鯨は、大型船と捕鯨船がチームを組んで、日本独自の方法で…。
クジラ:その方法は、ヨーロッパから伝えられた方法で、日本の近海で昔から行われて
いるものとはちがうのや。
磯巾着:…捕鯨は…日本文化と、ちがいますのか?
クジラ:実は、日本が環境保護運動に対抗するために、1970年代に
「捕鯨は日本の文化」いうて国内の世論を作り上げたと考えるべきなんや。
磯巾着:…IWC、世界捕鯨委員会は、絶対に鯨をとるな、いうてますのか?
クジラ:ちがいますのや。南極海での調査捕鯨をやめたら、日本の沿岸での捕鯨は
認めましょう、いうて2006年に妥協案を提案しましたのや。
磯巾着:ほんで、日本政府は、どない返事しましたんや?
クジラ:南極海で、クジラをとることを主張した。
磯巾着:いうほど鯨の肉は人気がないのでしょ?ならば日本の沿岸でとるだけで
十分やろに…。
クジラ:「食文化の危機」いわれると、日本人は「守らなあかんもの」いう感覚に
なって、誰も意見が出せなくなってきたのやろね。
意識の再確認が必要
磯巾着:日本人も、クジラに対する意識を変えていかなあかんのやろかなぁ。
クジラ:少なくとも、ほ乳類のクジラとイルカに対しては、国際社会の感覚が
特殊であることは考慮せなあかん。
磯巾着:イルカも?
クジラ:そう。イルカの追い込み漁に対して、キャロライン・ケネディ駐日大使が
ツイッターでかわいそうやいうてから、大騒ぎになったやろ?
磯巾着:イルカが網に追い込まれて棒で叩かれて殺される姿、あれは確かに…。
クジラ:絶滅させるのはあかんけれど、人間が食べるのは、仕方のないことなのや。
牛かて豚かてそうやろ?
磯巾着:捕鯨に大反対してるオーストラリアは、野生動物保護の優等生なの?
クジラ:いや、実はカンガルーに関してはお世辞にもそういえん。それに、オースト
ラリアも1979年までは「鯨油」のためにクジラをとってて、東海岸近辺では
ザトウクジラは絶滅寸前までとりつくされた歴史をもつで。
とらなければ、守ってることになってるのか?
磯巾着:クジラが、船と衝突したり集団で座礁する、いうのはほんまでっか?。
クジラ:そう、英語の教科書にも登場してるで。実は、タイセイヨウセミクジラいう
種類のクジラは船の音に近寄っていく習慣があるのや。
磯巾着:そうか。それで、船とクジラがぶつかるのやね?
クジラ:それだけやない。今は深い海からでも石油が掘り出せる、いうので海底の
構造調査が世界中で行われてる。
磯巾着:レーダーかなんかで調べますのか?
クジラ:いや、ちがう。「地震探査」いて、大音響の爆音で、地質を調べるのや。
いっぺんに数百頭の鯨が死ぬことがあるそうや。さらに、エサをとりに数千
メートル潜ることができるアカボウ・クジラは、人の出す大きな音にびっくり
して、えらい勢いで深海まで潜るものやから、水圧変化で死ぬらしい。
磯巾着:集団でクジラが座礁するのは、なんでやの?
クジラ:今年3月にギリシャのクレタ島で米海軍がソナーを使って演習したら、7頭
のアカボウ・クジラが座礁してて、そのクジラの鼓膜に穴があいてたそうや。
磯巾着:海が、やかましすぎるのやね。
クジラ:そのとおりや。石油を探す時に、クジラが話をできんようになるくらい
やかましい海を、人間が作り出してしまってるのや。クジラを守るいうこと
は、直接捕獲するかどうかの話だけで終わったらあかん、いうことなんや。
磯巾着:あんた、もの知りやね。なんやら、あんたのことが好きになってきましたで。
私と夫婦になりましょやないか。
クジラ:あかん、あかん。クジラとイソギンチャクの夫婦なんて聞いたことない。
あきらめてんか!
磯巾着:そんな、目くじら立てて言わんかて、ええやないか…。