2018-12
文責:玉木英明
2018年 12月号 人生100年時代の到来。生き方をどう変えていく?
箱から煙が…
太郎: ああぁ…けむりが…
警官: こらこら、ここで何をしてるんだ?
太郎: うう、箱を開けたら、煙が出てきて…。
警官: 爆発物か?
太郎: い、いや、実は、これは、もらったお土産なのです。
警官: 煙の出るお土産など、あるものか。
太郎: その煙で、ぼくは、このとおり老人になってしまって…。
警官: 何をねぼけたこと言ってるのだ?職務質問するぞ。君の名前は?
太郎: 「太郎」です。
警官: 古風な名前だな。今日はどこから来た?
太郎: りゅ、竜宮城です。
警官: 竜宮町?名古屋市だな。何の用でそこへ行ったのだ?
太郎: いじめられてた、カメを…
警官: カミオ?フランス人か?
太郎: いや、たぶん、ハ虫類…
警官: 竜宮町には、誰がいた?
太郎: い、いっぱい、いました。タイやヒラメが舞いおどりながら…
警官: タイ人とイラン人がダンサーとして働いてたんだな?
太郎: いや、そうではなくて…
警官: ここに、その状況を書いてみなさい。
太郎: 絵にも書けない美しさでした。
50歳は老人か?
警官: 君の年齢は?
太郎: 1968年生まれです。
警官: ということは、50歳だな。
太郎: そうですか、ぼくは50歳なのですね?
警官: 何をとぼけたこと言ってるんだ?
太郎: …ぼくは14歳だったのです。立派な職業について、しっかり働くつもりでした。
警官: ほう、夢のある話じゃないか。
太郎: そんでもって恋をして、かわいい嫁さんをもらうはずでした。ぼくが仕事から帰ってきて
嫁さんが「あなた、おかえりなさい。お風呂にしますか、それとも夕食にしますか?」って
聞くから「じゃあ、先におふろに入るかな」ってぼくがいったら、彼女が「お背中、流しま
しょうか」って言うから、ぼくが「君の背中も流してあげよう」っていったら、「あら、
はずかしい」って言って…
警官: あのな、ニヤニヤしながら、何の話をしてるのだ?
太郎: それなのに、いっぺんに50歳なんて…。もう、おしまいだ…人生の終焉だ…うっうっ…。
警官: こんどは泣かなくてもいいだろ?
太郎: 織田信長によれば、人生は50年といいます。だから50歳になってしまったぼくは、嫁さんと
背中の流しっこもしないで、やがて人生を終えるのです。
警官: 背中の流しっこに、あまりこだわるな。あのな、日本の平均寿命は間もなく90歳に達する。
「平均」が90歳なわけだから、100歳まで生きる人だっていっぱいいる。だから「人生観」
自体を100歳レベルに変化させていく必要があるのだよ。
太郎: 100歳以上の人って、「金さん・銀さん」くらいしか知りませんが…。
警官: きみの話は30年ほど古いなぁ。「金さん・銀さん」なんて今の若い人は知らないよ。
太郎: だから、言ってるでしょ、ぼくはホントは14歳だって。
警官: 昭和38年には、153人しかいなかった100歳以上が、今、日本には67800人いるのだ。
太郎: ええっ?約7万人も?
警官: そうだ。さらに今年新たに100歳になる人の人数も3万人以上いて、2050年には100歳人口は
100万人を超えると試算されておる。
太郎: ということは、50歳の私は、あと50年生きても不思議じゃないわけですね。
警官: そうだ。だから、たった50歳になったくらいで「もうおしまいだ」とメソメソ泣くな。
ブルーゾーン、長寿の地域
太郎: いっぺんに、この年齢に達してしまったぼくが、これから生活していくのに、なるべく
長生きできる場所に行きたいと思うのですが、どこに住めばいいでしょうか?
警官: 健康で長生きの人たちが、たくさん住んでいる特別な地域を「ブルーゾーン」というんだ。
ギリシャのイカリア島、アメリカ・カリフォルニア州のロマリンダ、日本の沖縄などは
有名だよ。
太郎: そこで、静かに生活すればいいわけですね。
警官: だめだめ!これらの地域に住んでいる人たちは、牧畜や農業、狩猟や釣りといった食料の
自給自足の割合も高くて、むしろよく体を動かすアクティブな生活者が多いのだよ。
太郎: ギリシャのイカリア島がいいなぁ。エーゲ海をながめながらアイスクリームを食べて…。
ああ、あこがれるなぁ。
警官: だめだめ!長生きを望むならアイスクリームはやめたほうがいい。イカリア島では米国人の
4分の1しか砂糖を食べないのだ。
太郎: なら、ロマリンダにします。カリフォルニアの青い空の下、カクテルを飲みながら…
警官: だめだめ!ロマリンダは、キリスト教のセブンスデー・アドベンチスト会派といって、
たばこやアルコールは口にしない地域さ。
太郎: では、沖縄の美しい海を見ながら、一人でもの思いにふけって…
警官: だめだめ!沖縄は日本の他の地域と比べて、もっとも家族主義的な生活を送っていて、
親類や隣人との助け合いが大きいから長生きなんだよ。
太郎: いじわる!
女性の「母親定年」
太郎: あの、ひとつ聞いてもいいですか?
警官: なんなりと。
太郎: 女性の場合も、50歳が折り返し年齢なのですか?
警官: そうだよ。女性は50歳前後が「母親定年」なんだ。
太郎: 母親定年?
警官: そう、子供たちが巣立っていく年齢だよ。これからの人生について悩んだり考え直したり
して、やりたいことや生きがいを模索する時期さ。
太郎: なるほど。女性も「子育て」でがんじがらめだった時期を脱して、自分らしさを追求する
ことができるようになるわけですね。
警官: その通りだ。そのためにも、知識と体力をしっかりと温存していかねばならないのだよ。
太郎: 女性の方が、男性よりさらに長生きだと聞きましたが…。
警官: そう、女性は環境適応力が高くて、やりたいことや生きがいを見つけると、元気で
生き生きとする割合が男性より高いといわれてるよ。
高い成功率、熟年の「起業」
太郎: サザエさんの家の波平さんは54歳で、定年まであと1年の人だと聞きましたが。
警官: あれは古い話だ。今、もしも56歳から年金を支給したら、日本の財政はすぐに底をつく。
ザ・タマキタイムズの2017年4月号を読みなさい。
太郎: おまわりさん、教えてください。何歳からが老人なのですか?
警官: 老人の定義を決めるのではなく、人生100年を25年ずつに分けて考えるのだ。25歳までは
身体的な成長期、50歳までは精神的な成長期、75歳までは成熟期、75歳以後はゆっくり
楽しみ休む時期と考える人生だ。
太郎: ということは、50歳は人生なかば、折り返しの時点ということですか?
警官: そうだ。同時に、50歳は大きく人生観を変えるべき時期、新しい後半のスタートだと
考えるべき重要な時期だよ。
太郎: 前向きな考え方ですね。
警官: 今、アメリカでは50歳くらいで起業する人がすごく多い。
太郎: 起業?
警官: そうだ。それまでの豊富な人生経験をもとに、独立して、起業して、そこからの四半世紀、
さらに活躍してやるぞいう意欲の高い人たちだ。
太郎: 意識の若い「熟年たち」ですね。
警官: 経験豊かな熟年たちの起業は成功確率が高いし、実は今のアメリカの雇用を支えているのも、
その「50歳の起業家」たちなんだ。
100歳まで生きるつもりで
太郎: おまわりさん、なんだか、すごくやる気がわいてきました。
警官: そうさ、たかだか50歳くらいで、年をとったと嘆くのはやめたほうがいい。
太郎: ぼくは、これからどうすればいいのでしょうか?
警官: 100歳まで生きるつもりで、何かを始めるんだ。経験を生かせ。
太郎: 経験といわれても…。
警官: 君は昨日まで何をしていた?
太郎: 毎日、魚といっしょにいました。
警官: ならば、魚屋を経営してはどうだ?
太郎: 魚の踊りしか知らないから…。
警官: 魚の「おどり」が専門か?ならば、海鮮料理屋はどうだ?
太郎: いや、おどりは見てただけなので…。
警官: ほう、誰の踊りが好きだった?
太郎: シャコのダンスは、お気に入りでした。
警官: よし、ならば社交ダンスができるレストランを経営してはどうだ?
太郎: つながり方が、乱暴な気もしますが…。
警官: 食事と華やかなショー、ダンスパーティーを連日開催するのだ。
太郎: それなら、ぼくは毎日見てましたから、目が肥えています。
警官: レストランの名前は…
太郎: 再び社会の中で優遇される人たちの行くお店「Re-Yugu」なんてのはどうでしょう。
警官: 「り・ゆうぐう」…いいねぇ。ただ、そこにお客様をうまく呼び寄せられるかな?
太郎: おまかせください。それには、大きな自信があります。
警官: どういうことだ?
太郎: たくさんのカメと、たくさんの少年たちを雇いましょう。
警官: え?カメと少年を…?
太郎: そうです、毎日、多くの場所で、少年たちにカメをいじめさせるのです。
警官: そんなかわいそうなことを!
太郎: そうです。そして「かわいそうに」と助けにはいった人を、カメがここへ連れてくれば
いいのです。…有料で。