2012-04

文:玉木英明

2012年4月号 痴呆老人の財産を守れ!成年後見制度・支援信託

がんばってお金をためても…

カネゴン:ああ、金が心配や、金が心配や。貯めた金を誰かに盗られない

やろか?

恵比寿:だれや?そんな、さもしいこと言うてるのは?

カネゴン:わしや、お金が大好き、カネゴンやで。

恵比寿:あれあれ、古い怪獣やな。55歳以上の人しか、知りませんでぇ。

カネゴン:ほっといてんか。わしは心配で心配で仕方がないのや。わしが今ま

で、一生かかっ て貯めた貯金を、誰か悪い奴が、もっていかへんか

と、毎日ビクビクしとるのや。まさか、あんたも泥棒の一味とちがう

やろな!

恵比寿:あのな、わしを見たことないのか?わしは「恵比寿(えびす)」や。

カネゴン:伊勢におる、あの大きいやつか?

恵比寿:それは、伊勢えびやろ?ちゃいまんがな。え・び・す!や。七福神の

一人や。

カネゴン:ええ!?あんたは、恵比寿さん!?あの、商売の神さんで有名な?

恵比寿:そうや。ちょっと、下界にサロンパス買いに降りてきたんや。そうし

たら、おまえが「金、金」いうてしょぼくれたこと言うてるから、

ちょっと声をかけたんや。

カネゴン:恵比寿さんもサロンパスをはるのやね?

恵比寿:そうや。先日、大黒の打ち出の小槌をちょっと借りて、素振りの練習

したら、肩がこってなぁ。

カネゴン:恵比寿さんが、大黒さんの打ち出の小槌で、素振りの練習しますの

やな!ああ、御利益にあずかりたい、あずかりたい!

恵比寿:あのなぁ、金、金いうて、追いかけると、金は逃げるでぇ!

カネゴン:ええこと言いまんなぁ。お金を知り尽くしてる人はちがいますな。

恵比寿:「べんちゃら」言わんでもよろしい。それより、何でおまえは、金を

とられることばっかり心配するのや?そんなもん、丈夫な金庫を買う

て、その中にお金を入れといたらええやないか?

カネゴン:いや、ちゃいますのや。私が元気なうちは、よろしいのや。ただ…

恵比寿:ただ、何や?

カネゴン:私が痴呆症(認知症)になったら、どうなるかと考えると、夜も寝

られまへんのや。

痴呆症になったら、財産は?

恵比寿:カネゴンが、痴呆になるのかいな?そんなに、心配か?

カネゴン:それはもう…。いや、恵比寿さんやから言いますけど、実は私は今

まで「金、金」いうて金ばっかりに頼って生きてきました。私が高齢

になって、痴呆症になって判断能力がなくなってしもたら、きっと、

みんな私にうまいことハンコを押させて、その金を、ええように持っ

ていってしまうと思うのですわ。

恵比寿:安心したらええ。今年の2月に、成年後見制度・支援信託いうのが始

まったんや。

カネゴン:青年になったら、貢献せなあかんという制度?

恵比寿:漢字がちがう。成年後見制度や。

カネゴン:何ですのや、それは?

恵比寿:痴呆のすすんだ人たちのお金を、お世話をしてる人、すなわち後見人

が使い込んでしまういう事件がいくつかあったのを覚えてるか?

カネゴン:覚えてますがな。ひどい話や。

恵比寿:後見制度は始まって12年たつ。痴呆老人のお世話をしよういう人は、

やさしい思いやりのある人たちがほとんどや。しかし、お金が目の前

にたくさんあって、そのお金の持ち主が、痴呆で何もわからないとい

うことになると、でき心で使ってしまうのやろなぁ。

カネゴン:やっぱり、そうか!もう怒りましたでぇ。他人は信用しまへん。絶

対に信用しまへんでぇ!

恵比寿:あのな、つば、とばさんといてか。

カネゴン:私が老人になったら、世話をしてもらう人、すなわち後見人は、

親族しか認めまへんでぇ!

恵比寿:つば、とんでまっせ。そやから、その親族が、お金を使い込んでしま

うのや。

カネゴン:…。あかん…がな…。あきまへん…がな…。どないしよ…。親族も

信用できまへんのか?

恵比寿:何しろ、お金を持ってた人が、記憶がなくなる。被害を受けたかどう

かさえも、はっきりせん。見つかった被害も氷山の一角や。

成年後見制度・支援信託

カネゴン:どうしたら、痴呆になってしもた老人らを守れますのや?

恵比寿:新しい支援信託の制度では、まず、世話をしようとする人が、後見を

開始したいと家庭裁判所に申し立てをするのや。

カネゴン:裁判所?何を判断してもらいますのや?

恵比寿:これが、今回の後見制度のキーワードやがな。すなわち「支援信託」

を利用するかどうかを判断するのや。

カネゴン:何ですのや?その支援信託いうのは?

恵比寿:痴呆症の人の財産を、信託銀行を利用して管理をしよういうのや。

カネゴン:やっぱり他人が管理するのやな?

恵比寿:家庭裁判所が信託銀行を利用することを決定したら、まず専門職後見

人いうのをおくのや。

カネゴン:その人は何をしますのや?

恵比寿:認知症の老人のもってる財産を、一般口座と信託銀行に分けるのや。

カネゴン:簡単に説明してくださいな。

恵比寿:日々つかう小さいお金を一般口座に、また、大きなお金を信託銀行に

預けるのや。

カネゴン:それで?

恵比寿:小さなお金は、親族の後見人が使える。ただ、入院とか家の改造のよ

うな比較的大きなお金が必要になった場合には、親族後見人が家庭裁

判所にお金を使いたいと申請するのや。

カネゴン:そうか。大きなお金は、家庭裁判所が許可した時だけ、後見人が信

託銀行から出せる、いうことやね?

恵比寿:その通りや。

老人のお金、使わなければOKなの?

カネゴン:ええやないか…ええでぇ…!これで、わしが痴呆老人になっても大

丈夫や。安心して老後を迎えられる!

恵比寿:いや、そうでもない。

カネゴン:なんや、なんや、安心させたり、おどかしたり、どっちですのや?

恵比寿:この仕組みは、老人本人の財産をなるべく使わせないようにしようと

いう仕組みになってしまうと、考えられへんか?

カネゴン:そう言われれば、そうやなぁ。周りの人が、お金を使えないように

なったら、老人本人が幸せなのかというと、どうなんやろなぁ。

恵比寿:そうや。そのとおりや。それに、親族に相続権があって、放っておい

てもその老人の財産の何分の一かが手に入ってくるような人たちにと

っては、なるべくその財産には手をつけないで、残しておいてもらい

たいということにもなる。そやから、この制度には、弁護士会や司法

書士の団体、社会福祉士の会が反対した。

カネゴン:老人の持つ財産が、不正に使われるのを防止して、ほんで、その財

産を、持ち主本人が喜ぶように使ういうのは…むつかしいなぁ。

恵比寿:その通りや。後見人のせなあかんことには、財産の管理ともうひとつ

「身上監護」いうのがある。

カネゴン:また、難しい四字熟語をいいましたな。なんですのや、それは?

恵比寿:老人が一生かけてためたお金を、その老人本人の日々の生活に有効に

使うために、後見人がしっかりと見てあげることや。「本人の意向に

添うように配慮しなければならない」と法律で定めたのや。

カネゴン:そんな上手なお金の使い方、できますのか?

恵比寿:できるように、がんばらなあかん。

カネゴン:痴呆老人、すなわち自分のお金があることすら解らなくなってしま

った人たちにかわって、上手にお金を使ってあげるように、周りが気

をつけなあかん。そのための法律が、制定された理念いうのをしっか

りと見極めて、運用せなあかんということやね。

恵比寿:その通りや。あんたも、「金、金」ばかりいうてたら、ろくなことあ

りまへんでぇ。

カネゴン:わかった、わかりましたで。ようし、これからは、老後、優しくし

てもらえるように、親族に、たくさん金を、バラまくでぇ。

恵比寿:こら、あかん。何にもわかってへんなぁ。

カネゴン:私の金への固執のしかたは、ウルトラQや。

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