2020-05
文責:玉木英明
2020年 5月号 コロナウイルス。なぜ爆発的に感染者数が増えるのか?
ピタゴラスに…
少女: ねえねえ、おじさん!
数学者: おお、今、話しかけないでおくれ。
少女: さっきから何してるの?
数学者: 計算してるんだよ。
少女: 私だって、九九の6の段までいえるよ。
数学者: わかった、わかった。ええと、ここがこうだから…
少女: わたし7歳。おじさん、いくつ?
数学者: わしは、52だ…ああ、ちがう、ちがう…
少女: ねえねえ、おじさん、除夜の鐘って、いくつ鳴らすかしってる?
数学者: 108でしょ…ああ、ちがった。
少女: おじさん、三三七拍子って、どうやるの?
数学者: ちゃちゃちゃ、ちゃちゃちゃ…ああ、またまちがった。
少女: ねえねえ、おじさん、播州皿屋敷でお菊さんは何枚お皿が足らなかったの?
数学者: 足らなかったのは、一枚だけだ!
少女: おじさん、つるかめ山ってどこにあるの?
数学者: それは、つるかめ算といって連立方程式のことだ!ああ、最初からやりなおしだ。
伝染病、疫病(えきびょう)となぜ呼ばぬ
少女: おじさん、だれ?
数学者: わしは、数学者ピタゴラスだ。
少女: 数学じゃピタッとごろ合わせ?
数学者: どう聞いたらそうきこえるのだ?
少女: おじさん、どうしてここにいるの?
数学者: 実はアルキメデス君が「時空移動機」を作ったといばるから、
「それじゃあ動かしてみてやろう」とユーグリッド君といたずらしてたら、
ここに来てしまったのだ。
少女: おじさん、マスクした方がいいよ。
数学者: どうして?
少女: だって、新型コロナウイルスがはやってて、世界中で人が感染したり死んだりしてるのよ。
数学者: 疫病(えきびょう)か?伝染病(でんせんびょう)か?
少女: 今は、あまりそんなふうに呼ばないよ。「感染症(かんせんしょう)」と呼ぶんだよ。
数学者: 恐ろしさが伝わってこないな。
少女: 疫病とか伝染病って呼ぶと、なんだか汚いものを連想するよ。
数学者: ペストとか日本脳炎、マラリア、赤痢(せきり)、結核、水疱瘡(みずぼうそう)、
はしかは、すべて「疫病」とか「伝染病」だ。決してきれいなイメージのものでない。
爆発的に増える?
少女: 政府が私たちに外出するなっていうんだけれど…。
数学者: 伝染病がはやっている時、人と人とが会う機会を減らすのは、数学的に正しいことだ。
少女: でも、病気が「爆発的に」増えるってのが、何のことだかわからないわ。
数学者: 1日に、1人の感染者が2人にうつしたら、爆発するように数が増えるということだ。
少女: どうして?1人の人が2人に病気をうつすだけでしょ?鈴鹿市の20万人もいる人口が
感染するのには何年もかかるわ。
数学者: どうして、何年もかかる?
少女: 200000人÷2人=100000でしょ。100000日もかかるわけだから、
365日で割れば273年も かかることになるじゃない。
数学者: よし、一度いっしょに計算しよう。最初1人いた感染者は2日目、何人になる?
少女: 2人増えるだけでしょ…感染者は3人でしょ。
数学者: 3日目は?
少女: 2人増えるだけでしょ…感染者は5人よね。
数学者: ちがう、ちがう。3人の感染者がそれぞれ2人ずつに病気をうつすから、
6人増えることになるでしょ?全部で9人になるわけだよ。
少女: 5人も9人も、大差ないじゃないの。
数学者: それじゃ、4日目は?
少女: 18人増えるわけね。ええと、27人になるわ。…やっぱり大したことないわ。
鈴鹿市全体は20万人いるのよ。こんなじゃまくさいこと、いつまで続けるつもり…
数学者: もう少し計算してごらん。10日たったら何人になる?
少女: 20000人ほどになるわね…。なんだか、いっぺんに増えたわね。
数学者: さらに2日計算してごらん。
少女: あら…17万7000人に…
数学者: そう、13日目には20万人をこえる。
少女: ちょ…ちょっとまってよ。じゃ、1人が5人にうつしたら?
数学者: 6日ちょっとで、鈴鹿市全体がすべて感染者になる。
少女: …あかんやないの。
数学者: あきまへん。
1億2000万人、日本全体を感染するのには…
少女: ちょっと、おじさん。1日に1人の感染者が2人に病気をうつしたとしたら、
1億2000万人の日本国民は、何日ですべて感染者になるの?
数学者: 残念ながら18日目ですべて感染が終わる。さっきわしが計算してた表を見てみなさい。
20%が重症化するならば…
少女: コロナウイルスは、重症化する人が感染者の20%いる病気だから、コロナウイルスでは
18日間で2000万人死ぬかもしれないってこと?
数学者: そのとおりだよ。
少女: 2000万人を18日でわって、1日当たりの平均をとれば…
数学者: だめだめ。平均なんかしたってムダだって言ってるでしょ。
少女: なんで?
数学者: だって、17日目に増えた290万人の20%は、60万人にものぼる。
少女: そうか。1日でそんなに重症の人が増えたら…
数学者: そう、そんな状態になってしまったら、治そうという話なんか全くナンセンスで、
死んだ感染者をどうやって次の人に移らないように葬るかの方が大問題だ。
少女: アメリカのコロナウイルスの死者の数は、どのくらいに…
数学者: 5万5000人を超えた。
少女: どれほど死ぬ人が多いかが、ピンとこないのだけれど。
数学者: 1日あたりに死亡する数が2000人以上いるということだよ。
少女: ということは、1時間に…
数学者: 100人以上の人が死んでる。
少女: ひどい…
数学者: そう、数列の計算どおりだ。
少女: だから、政府が悲痛な声で表に出るなと言っているのね。
医療が耐えられるのは
数学者: 日本の人工呼吸器は、何台あるのだ?
少女: ニュースで、24000台ほどっていってたわ。
数学者: だめだめ。今、使ってない人工呼吸器の台数を聞いているのだ。
少女: 10000台ほどだって…
数学者: ほうら、人口10万人に9台もない状況…。
少女: おじさん、計算がはやいわね。
数学者: 表をみれば、感染者の数が6000人を超えるあたりで食い止めなきゃだめだってことが
わかるだろう?
少女: でも、感染者の中には、治る人もいるでしょ?
数学者: 発症してから治癒までに2週間ほどかかる病気だから、それまでに感染爆発は
ほとんど完了してしまうじゃろ?
コロナウイルスに打ち勝つためには
少女: おじさん、この病気を数学でなんとか撲滅できないの?
数学者: 数学的撲滅の方法は、ひとつだけある。
少女: え?なに?それはなんなの?
数学者: 病気にかかった人に「ゼロ」をかければよいのじゃ。
少女: ゼロをかける…?
数学者: そう、ゼロは、どんな数字にかけてもゼロじゃ。
少女: ということは…
数学者: そう、感染した人を治して、病人を次々と「ゼロ」にするか、
誰とも会えないように感染者を最後の1人まで隔離して、社会から
「ゼロ」にすることじゃ。
少女: もしも病気を治す薬ができなかったら…
数学者: そう、人類が「ゼロ」になるかもしれん。。