2013-01
文:玉木英明
2013年 1月号 新聞の購読者数が激減。若者は新聞をとらない!?
スクラップ・ブック?
ハイジ:おじいさん!、おじいさん!ただいま!
おじいさん:やあ、ハイジじゃないか!フランクフルトから、帰ってきたん
じゃな?
ハイジ:そうよ!クララと行ったドイツはとっても楽しかったわ。帰りに、
日本にも、ちょっと立ち寄ってきたわ。新しいものを、いっぱい、
いっぱい、見てきたの!
おじいさん:ドイツから日本経由でスイスに帰ってきたんじゃな。ちょっと立ち
寄ってくる場所としては、無理があるような気がするのじゃが。
ハイジ:あんまり細かなこと気にしないで。
おじいさん:そうか。ドイツや日本の生活は、こことは違っておったかい?
ハイジ:びっくりするものばかりよ。ねえ、ねえ、おじいさん、ここでの
暮らしも、ドイツや日本みたいに変えていこうよ!
おじいさん:大きな声で、耳元で叫ばんといてくれんかのぅ。耳痛いよ。
ハイジ:おじいさんはもの知りでしょ?どうやって、おじいさんは、もの
知りになったの?ねぇ、どうやって?
おじいさん:い、い、痛い、痛いって。服を引っぱらんといて。
ハイジ:ねぇ、どうして?早く教えて!
おじいさん:そうじゃのう、毎日スクラップ・ブックを作っておるからじゃろう
なぁ。
ハイジ:なあに、その、くず鉄みたいな名前のものは?
おじいさん:朝、新聞を読むじゃろ?その中で、気になった記事を切り抜いて、
ノートに貼ったものがスクラップ・ブックなのじゃよ。背表紙を
見れば、いつの記事でも、たちどころに見る事ができるものじゃよ。
便利だろう?
ハイジ:おじいさんは、何年くらい新聞記事を切り抜き続けたの?
おじいさん:もう40年になるのう。わしの作ったスクラップ・ブックも80冊を
越えたよ。ハイジも新聞の切り抜きをやってみんか?おもしろいぞ。
ハイジ:…フランクフルトでは、スクラップ・ブック作りじゃないけれど、
私も同じことやってたわよ、おじいちゃん。
おじいさん:おう、いい心がけじゃないか。もう何冊くらいできたかい?
ハイジ:…だから、新聞の切り抜きはやってたんだけれど、でもスクラップ
ブックは作ってないわ。
おじいさん:どういうことじゃ?新聞は切り抜いておったのじゃろ?
ハイジ:クララのお家では、新聞をとってないの。
おじいさん:なんじゃと!クララの家では、新聞をとってないじゃと?
ハイジ:そうよ。彼女のお父さんとお母さんが、新聞をとるのを半年ほど
前にやめたの。
新聞配達が…。
おじいさん:何を考えておるのじゃ!新聞こそ、社会の動向を知る唯一の手段
なのに!それに、新聞をとらずに新聞の切り抜きをしていたじゃと?
ハイジ:クララのお父さんとお母さんは、毎朝、iPadで新聞を読んでるわ。
おじいさん:何じゃ?その…アイ…バットいうのは?野球のバットか?
ハイジ:ちがうわよ。ほら、これがクララのご家族の写真よ。
おじいさん:おおっ!何じゃ、これは!四角い皿に絵が映っておるではないか!
ハイジ:そうよ。これで、新聞や雑誌はもちろん、文庫本でも、小説でも
読むことができるのよ。
おじいさん:誰が配達してくれるのじゃ?
ハイジ:ネットにつながってるの。
おじいさん:しかけ網でも、はってあるというのか?
ハイジ:ちがうわ。インターネットっていう情報網よ。そこから瞬時に
いろんな情報が取り出せるの。
おじいさん:新聞屋は…新聞配達人は、どうなるのじゃ?
ハイジ:いらなくなるわ。
おじいさん:な、な、なんじゃと!それでは、新聞配達人が職を失ってしまう
ではないか!
ハイジ:おじいさん、血圧があがるから、おこらないで。それから、つばを
飛ばさないで。
おじいさん:これが、怒らずにいられようか!おーい、みんな、新聞が、新聞が、
大変なことになっているぞ!
ハイジ:おじいさん、いっぱい、つばが飛んでくるわ。新聞の購読数は、
年ごとに減っているのが事実よ。特に下宿している大学生とか、
若い人たちが新聞をとる割合は、とても低いらしいわ。
おじいさん:ということは、新聞に広告を入れても、老人しか見てくれないと
いうことか?
ハイジ:そういうことね。
おじいさん:最近、牛乳配達の人が消えて、さみしく思っていたのに、さらに
新聞配達人が消えていくなんて…。
ハイジ:新聞配達人だけじゃないわ。新聞を集配する所も運搬する人も、
印刷する人すら必要なくなってくるわ。古新聞もなくなるから、
ちり紙交換屋も廃業よ。
無尽蔵にためられるスクラップブック
おじいさん:そ…そんな…。もうだめじゃ。うっううう…。
ハイジ:おじいさん、おこったり泣いたり、いそがしいわね。
おじいさん:短歌を一句。新聞紙。新聞紙。下から読んでも「しんぶんし」。
ハイジ:…おじいちゃんのギャグは、化石のようなギャグね。
おじいさん:そんなにほめられちゃ、照れるけど。
ハイジ:誰もほめてないわ。それよりも、おじいさん、見て!こうやって、
アイパッドの上で残しておきたいページをコピーしておけば、
いくらでも記事をデータとして保存しておくことができるのよ。
おじいさん:スクラップブックは…?
ハイジ:いらないわ。
おじいさん:でも、こうして、ちゃんと「さくいん」をつけておかないと、
いざというときに…
ハイジ:このiPadを使えば、年号順でも事件の名前順でも、たちどころに、
たどり着く事ができるのよ。それに、私達読者がいちいち新聞を
コピーして蓄えておかなくても、新聞社が何年分も蓄えてくれてる
わ。読むことができる新聞の種類も、一種類じゃないわ。
おじいさん:もう…スクラップブックは…いらんのか?
ハイジ:おじいさん、ごめんね。もう、いらないのよ。
新聞より、新しい情報が…
おじいさん:わしの若かったころは、天声人語をよく読んだし、テレビの番組表
などは絶対に見たぞ。
ハイジ:新聞は前日の夜11時くらいまでに起こった事件でないと、次の日の
記事に間に合わないでしょ。
おじいさん:そりゃ、そうじゃ。何しろ、校正して印刷して翌朝5時には、
各家庭に配らなきゃならないのだから。
ハイジ:ということは、ヨーロッパで現地時間の夕方に起こった事件は、
日本の当日の新聞に載せることは物理的に無理ね。
おじいさん:そうじゃ、その通りじゃな。
ハイジ:アメリカのオバマ大統領の演説も、現地の昼間に行われたものは、
日本のその日の新聞にはのらないわ。現代人の生活には遅すぎる
のよ。
おじいさん:そ、そ、そんなに矢継ぎ早に、じいちゃんに、せまらんといてくれ
んか。
ハイジ:クララの付き人のセバスチャンも、株価を確認するのに、新聞なんか
使ってなかったわ。
新聞の将来は
おじいさん:新聞は、新聞の将来はどうなるのじゃろう?
ハイジ:iPadでは、映画や動画のニュースも見ることができるのよ。
おじいさん:なに?ということは、耳の不自由な人は映像で、また目の不自由な
人は音声で情報を得られるということじゃな!
ハイジ:そのとおりよ、おじいさん。だから、新聞が消えていったとしても、
悪いことばかりじゃないの。進歩なのよ。
おじいさん:でも、新聞社は必要なくなるのじゃろ?
ハイジ:新聞という印刷物は少なくなっていっても、情報を収集して、大衆に
伝達するという作業自体は世の中から消えないって。ただ、新聞社の
人は、さらにスピードを要求されるから、さらに忙しそうだったわ。
おじいさん:わしも、iPad がほしくなってきたなぁ。どこに行けば買えるのじゃ?
ハイジ:たしか、先日の新聞広告にチラシが入ってたと思うけれど…。
おじいさん:ようし、ハイジ、古新聞の中から、そのチラシを探すのじゃ。
ハイジ:あれれ?おじいさん、古新聞が全部なくなってるわよ。
おじいさん:…ヤギの「ユキちゃん」が食べてしまったようじゃ!