2015-03
文責:玉木英明
2015年3月号 エボラ熱危機。サルもゴリラもチンパンジーも。
顔色の悪いゴリラ。
九官鳥:ちょっと、あなた!
ゴリラ:ぼくを呼んだ~?
九官鳥:あなた、誰?このあたりでは見かけない、変な動物ね。
ゴリラ:ぼくは「ゴリラ」だよ。
九官鳥:口から火をはくの?
ゴリラ:…? なんで?
九官鳥:だって、怪獣でしょ?
ゴリラ:それは「ゴジラ」やがな。
九官鳥:彼がたくさんいれば「彼ら」、彼女がたくさんいれば「彼女ら」よね。
ということは「ゴリら」はゴリがたくさんいるのかしら?
ゴリラ:ようけしゃべるなぁ。そういうあんたは誰なんや?
九官鳥:えへん、私は「キュウカンチョウ」。人間の言葉を話すことができる、
スマートでブライトな鳥の代表よ。
ゴリラ:急…浣腸?
九官鳥:失礼な漢字を使うわね。「九官鳥」よ!英語では「マイナ」っていうわ!
ゴリラ:マイナーな鳥?
九官鳥:またまた失礼な発言ね。…ところで、あなた、顔色良くないわよ。どうしたの?
追いつめられる人間以外の霊長類。
ゴリラ:実は、ぼくら霊長類はすごく深刻なことになってるのや。
九官鳥:…知ってるわ。森林破壊でしょ。人間の都合でジャングルを切り開いて、
農地や工業用地に変えていったものだから、猿が住めるような場所がなく
なってるって聞いたわ。ボルネオ島やスマトラ島のオランウータン君が、
仲間がおらんウータンになってなってしもたと嘆いてたわ。
ゴリラ:素直に笑えないギャグやけれど、それも間違いない。でも理由はそれだけや
ない。
九官鳥:…知ってるわ。密猟でしょ。猿が地球上に少なくなってきて、捕まえたり
殺したりしてはいけないってみんなが決めたのに、かくれて猟をする人たちが
いるのでしょ?アフリカのチンパンジー君が嘆いてたわ。
ゴリラ:そう、それもある。ただ、それだけやない。
九官鳥:…何だっていうの?私が知らない理由が他にあるっての?私は通勤の
サラリーマンたちの新聞を立ち読みしてるし、病院のロビーのテレビでNHKの
「マッサン」だって、どこまで話が進んだか、毎朝見てるんだから。
ゴリラ:本当にようしゃべる鳥やな。
九官鳥:…ねえ、ねえ、教えてよ。何でゴリラのあんたが、悩んでるの?
人類だけの問題でない。エボラ出血熱。
ゴリラ:エボラ出血熱や。
九官鳥:え?あの、西アフリカの人間に大流行してる、恐ろしい病気?
ゴリラ:そうや。霊長類のチンパンジーやオランウータン、ゴリラはエボラ出血熱に
感染して、人間と同じように病気になってしまうのや。
九官鳥:何やてぇ?!えらいこっちゃ!
ゴリラ:急に大きな声をだしないな。ほんで、あんたも関西弁使いますのやな。
九官鳥:ほっといてんか!興奮すると、なまりが出ますのや。その病気、どうやって
伝染しますのや?
ゴリラ:ウイルスや。潜伏期間が2日から3週間もある。長いことかかって症状が
出始める。
九官鳥:空気で感染しまんのか?
ゴリラ:いや、空気では感染しないのやけれど、感染者の血液や吐いたもの、排泄物、
唾液、汗に接触するのはあかん。
九官鳥:なんで出血熱いいますのや?
ゴリラ:症状が進行していくと、体のいろんな部分から出血がはじまるのや。
九官鳥:…だめよ…だめだめ…。
ゴリラ:そう、だめだめ。
九官鳥:まねせんといてください。
ゴリラ:すんまへん。でも、今日のは新しいフレーズやったね。
九官鳥:おおきに、ありがとう。ところで、西アフリカでの流行は、「人間」にとって歴史上
最大やといううわさは、ほんまですのか?
ゴリラ:そうや。20,000人以上が感染して、リベリア、シエラレオネ、ギニアでは、
16,000人以上の子どもたちが、両親をエボラ出血熱で失って孤児になってる。
九官鳥:むちゃくちゃの人数や。…病院に行ったら、治りますのか?
ゴリラ:あかん、まだ治療方法がないのや。ワクチンもない。助けに行ってるお医者
さんで感染防御対策してる人らでも感染してしまう。
九官鳥:ほんで、類人猿のあんたらは、どのくらい影響をうけてますのや?
ゴリラ:1976年にウイルスが発見されてから、世界のゴリラとチンパンジーの3分の1
がエボラ熱で死んだ。2002年から1年の間には、コンゴのロッシ保護区いう
ところにいたゴリラの90%、5000頭が死んでしもた。
九官鳥:…えげつない数やなぁ。…あなたたちお猿さんは、世界中にどれくらい残って
ますのや?
ゴリラ:ぼくらゴリラは10万頭、チンパンジーが15~25万頭くらいや。
九官鳥:ほう、鈴鹿市の人口くらいしか残ってないのやね?
ゴリラ:そう、密猟と森林伐採でただでさえ絶滅の危機にあった類人猿は、このエボラ
熱のせいで、種を保てないくらいになってるのや。
九官鳥:薬と医者のおる人間でも困ってるくらいや。ゴリラのあんた達が死ぬか生きる
かの瀬戸際にたたされてるいうことは、よーくわかりますでぇ。
ゴリラ:ありがとう。わかってくれる人、いや鳥がおってくれて、幸せや。
日本にない、バイオ・セーフティー・レベル4
九官鳥:エボラ熱の流行を、人間の知恵と技術で何とか抑えることはできんのやろか?
日本は、頼りになるあの日本人は、どないしてますのや?
ゴリラ:日本には、エボラウイルスみたいな危険度の高い病原体を扱う「高度安全
実験施設」バイオ・セーフティ・レベル・フォー「BSL 4」がないのや。
九官鳥:何やら、バイオ・ハザードみたいな名前の施設やね。
ゴリラ:そのとおりや。ウイルスや細菌を研究するために、絶対に病原菌が他に漏れ
ないようになってる施設や。
九官鳥:えらい施設やなぁ。
ゴリラ:そう、換気も排水も、全部自分の閉じられた施設内で100%滅菌処理が完結
してしまう、ごつい施設や。日本では武蔵野市の国立感染症研究所と筑波に、
BSL 4を想定した建物はあることはあるのやけど、稼動してない。
九官鳥:どうして?
ゴリラ:原子力発電所と同じや。施設自体の安全性だけでなく、地震とか津波がきても
病原菌が漏れ出さない、完璧な施設でないとあかん。地域の住民の理解が
得にくい。
九官鳥:…ほな、どこの国がエボラをやっつける薬を開発してますのや?
ゴリラ:アメリカでは、未承認ではあるけれどZMappいう薬ができてて、何人かの医師
とか神父さんには投与された。
九官鳥:ほ、ほ、ほんで、どう.なりましたんや?
ゴリラ:よくなった兆し(きざし)の人もあったけれど、死んでしもた人も半分いた
そうや。
九官鳥:ということは、その薬が効いたかどうか、「わからん」いうことやね?
ゴリラ:その通りや。効きそうな薬は、何でもええから試してみるしか「しょうがない」状態や。
九官鳥:あんたらゴリラにとって、エボラ出血熱への感染は…。
ゴリラ:…そう、間違いなく、そうなったら、ご臨終(ゴリんじゅう)や。
九官鳥:人間の研究者つかまえて、「はよ薬をつくれ!」いうて迫ってみたらどうやろか?
ゴリラ:そんなゴリ押ししてもあかんやろ。
九官鳥:エボラ熱は、これからどうなっていきますのや?
ゴリラ:誰にもわからん、五里霧中(ゴリむちゅう)や。