2012-02
文:玉木英明
2012年2月号 イタリア。文化と芸術、そして科学の国。
落ちる時間は同じだ!
ガリレオ:落ちる時間は同じだ!落ちるのだ!そう、落ちることには違いがな
いのだ!
受験生:ギャー!だ…だれや?不吉な言葉を、つばを飛ばしながら大声で叫ん
でいるのは?
ガリレオ:だから、いってるじゃないか。落ちるときは、いっしょなのだ。
受験生:や、やめてんか!落ちるとか、すべるとか言わんといてんか!
ガリレオ:君も、僕も、落ちるのにかかる時間は同じだと、私は主張している
のだ!
受験生:わかった、わかったから、大きな声で「落ちる」といわんといて…。
ほんで、力入れて、つば飛ばさんといてんか!
ガリレオ:あんた、誰や?
受験生:見たらわかるやろ?受験生やがな。ぼくこそ聞きたいわ。
あんた、誰や?
ガリレオ:私は、イタリアから来た旅の者だ。いや、決して逃げてきたわけで
はない。私はローマのカトリック教会に追われているわけでもない!
断じてない!
受験生:誰も、聞いてませんでぇ。ほんで、あんた、僕の教科書で見たことあ
りまんなぁ。ちょっと、こっち向いてんか…。
ガリレオ:い、いや、私は…ちがう、私はガリレオなどという名前ではない!
受験生:あ!思い出した!あんた、ガリレオ・ガリレイやな!
ガリレオ:何でわかったんや?
受験生:自分で言うてるがな。僕の教科書にものってたで!確か、ピサの斜塔
から玉を落とした人でっしゃろ?
ガリレオ:だから、さっきから言っているではないか。重い玉も軽い玉も、
落ちるのにかかる時間は同じで、同じ速度で地面に到達するのだ!
受験生:おっ!知ってまっせ!みんなが重い玉の方が先に地面に落ちる、いう
てたのに、ガリレオさんが「それは違う」いうたから、有罪判決を下
されたやつでっしゃろ?
ガリレオ:いや、有罪判決を受けたのは、私が地動説を主張したからだ。天が
動いてないということになると、ローマカトリックの教えでは困るこ
とが出てくる。だから、「いらんことを主張するな」というて牢屋に
入れられそうになったんだ。
受験生:どうやったら、地動説を証明できましたんや?
ガリレオ:金星が満ちたり欠けたりして、三日月型になる。しかも大きさが
かわる。ということは、金星は太陽を中心に、地球の内側をまわって
る衛星や、ということなんや。
受験生:中学3年生の時に、理科で習いましたでぇ。…ほんで、何でガリレオ
さんがこんなとこにおりますのや?
ガリレオ:地動説を主張した罪で、牢屋に入れられそうになったところを、
レオナルド君の発明したタイムマシンに乗せてもらえたから、命から
がら……うっううう…。
受験生:泣きないな。えらい人やな!レオナルド・ダ・ビンチの発明したタイ
ムマシンで来たんやな!泣いとらんと、そのタイムマシンのこと教え
てんか!
ガリレオ:それが、あかんのや。時空間法で、ヒトに言うたらあかんことにな
っとる。
受験生:あんたも、関西人やったのやね?
ガリレオ:いや、私は、自動翻訳機を使っているんや。
受験生:ああ、あの例のタマキ・タイムズにいつも出てくるやつやね。
フニクリ・フニクラ
受験生:ガリレオ・ガリレイさんて、どっちが姓?
ガリレオ:ガリレイや。私の生まれたイタリアのトスカーナ地方は姓を単数形
にして長男につけることが、よくあるんや。
受験生:ほな、玉木さんの長男は「タマコ・タマキ」さんになるようなもの
やね!
ガリレオ:はっはっは。うまい、うまい。特に、イタリアでは歴史的に有名な
人を、姓で呼ばずに名で呼ぶことが多いのや。ダンテも、ミケランジ
ェロも、ラファエロも、レオナルドも、みんな姓とちがって「名」の
ほうや。
受験生:日本で言えば、「家康」とか「信長」いうて呼ぶのといっしょやな。
ガリレオ:その通りや。さらに、イタリアでは同じ音のくりかえしは心地ええ
ものとして考える。
受験生:知ってまっせ。「フニクリ・フニクラ」いう歌がありますなぁ。
ガリレオ:♪いこう!いこう!火の山へ~♪、フニクリ、フニクラ、フニクリ
フニクラぁ~♪
受験生:どういう意味なんでっか?
ガリレオ:イタリア語で「フニクラーレ」いうのは、登山鉄道の意味や。
「フニクリ・フニクラ」いうのは、ベスビオス火山の登山鉄道の宣伝
用の歌につくられてて、日本語でいうたら「でんでん電車」みたいな
意味や。
受験生:ガリレオさんの生きてた時代の300年くらい後の歌ですなぁ。
ガリレオ:イタリア童謡の「ウルラリ・ウルララ」も同じような響きやし、
蒸気機関車がイタリアでは「チンチン・ポンポン」いうて走るのも、
イタリア語の特有の響きや。
すべての道はローマに通ず
受験生:「すべての道はローマに通ず All roads lead to Rome.」という
ことわざも、有名やね。
ガリレオ:そう、ローマ帝国の力の大きさを示す言葉から始まったものやけれ
ど、「真理には必ず到達する」というような意味にも使う。
受験生:いい雰囲気の恋人たちが「ロマンチックだね」というのも、ローマの
ことでっしゃろ?
ガリレオ:そうや。Romanticは、もともとは「ローマ主義的な」という意味や
けれど、「恋愛」の意味を多分に含む言葉や。ドイツの街道でさえ、
ヴュルツブルグからフュッセンまでの街道に「ロマンティック街道」
いう名前がついてて、美しい城やらドナウ川やら、素晴らしい道や。
イタリア債務危機
受験生:ちょっと聞きまっせぇ。「イタリアの債務危機」いうのは何ですのや?
ガリレオ:簡単に言うたら、国の債務、「借金」がふくらんでしもてるのや。
受験生:国のお金が足りまへんのか?
ガリレオ:そうや。そやから「国債」いうのを発行して、それをみんなに買っ
てもらって、足らんお金をとりあえず政府が手に入れるのや。
ところが…や。
受験生:歯切れが悪いなぁ。ガリレオさんみたいなえらい科学者が考えたら、
簡単に解決できますのやろ?
ガリレオ:イタリアだけとちがって、ヨーロッパ中の経済活動が停滞してきて
る。働いて稼いだお金よりも、使う方が多いのや。
受験生:イタリアだけが悪いのでっか?
ガリレオ:ギリシャも、ポルトガル、アイルランドも危ない。フランスもや。
受験生:どういうことですのや?
ガリレオ:父ちゃん、母ちゃんが仕事して稼いでくるお金よりも、電気代やら
自動車の維持費、食費の方が今月上回ったとしょうやないか。父ちゃ
んはとりあえずどうする?
受験生:自分の子供に正月にあげたお年玉を借りたらええ。
ガリレオ:そうや。借りた証書として子供に「国債」をわたすでぇ。ほんで、
それでもお金が足らん時はどうする?
受験生:子供以外の人、近所の人に借りたらええ。
ガリレオ:そうや。借りた証書として相手に「国債」をわたすで。それでも、
お金が足らんだらどうする?
受験生:近所以外の人、日本中の人に借りたらええ。
ガリレオ:そうや。借りた証書として相手に「国債」をわたすで。それでも、
お金が足らん。そんな人間が「お金貸して」いうて来たら、どうする?
受験生:あかんがな。父ちゃんも母ちゃんもお金使い過ぎや。もっと、小さな
家に住んで、食べるものをしまつして、自動車も売り払わなあかん。
ガリレオ:そうや。その通りや。イタリアの「借金」が年々どんどんふくらんで
イタリア国債の価値がどんどん下落してるのや。
受験生:日本かて…借金がようけありますのやろ?
ガリレオ:そうや。まだヨーロッパみたいに大騒ぎにはなってないけど、早い
こと何とかせんと、資源のない日本が何にも売るモノがなくなってき
たら、ヨーロッパの二の舞になりまっせぇ。
フェラーリも、ローマの休日も
受験生:受験生があんまり暗いこと考えるのはやめとこ。パーッとええことを
考えましょやないか。スポーツカーのフェラーリかて、オートバイの
ドゥカッティーかてイタリアやし、映画「ローマの休日」かて素敵や。
イタリアに行ってみたいと思う日本人は多い。情熱的で楽天的で、魅
力的な国や。「パスタ」も、「スパゲッティ」も、オシャレな響きの
食べ物やしね。
ガリレオ:「パスタ」はpaste 紙をくっつける「糊」、スパゲッティのspago
は「ひも」いう意味なんやけど…。
受験生:それや、それや!僕は大学にくっついていく糊と、合格につながる
「ひも」が欲しかったのや。ようしパスタとスパゲッティを食べに
行くでぇ!
ガリレオ:パスタもスパゲッティも、落ちるときは、同じ速さや。
受験生:こら、あかんわ!