2019-10

文責:玉木英明

2019年 10月号 植物工場。屋内で育てる、土を使わない野菜とは?

バブリーな奥さまが…

奥さま: しもしもー!

やおや: あっ、大きな携帯電話片手に、

       あの奥さんが来たぞ!

       全員配置につけ!

奥さま: …ちょっと、あなたたち!

やおや: へ、へい、いらっしゃいませ!

奥さま: あなたたち、緊張した顔をして、

       どうせ私のうわさをしてたんじゃないの?

やおや: い、いえ、とんでもない。奥様の野菜に対するバブリーな目は、

      「しろうとはだし」ですよ。

奥さま: あなた、ケンカ売ってない?それをいうなら、「くろうとはだし」でしょ?

やおや: うわっ、今日も訂正されちゃいましたね~!

奥さま: 相変わらず、この八百屋の売っているものは

       見栄えの悪いものばかりね。

やおや: へへっ、いつもの親近感にあふれたジョーク、ありがとうございます。

奥さま: ジョークなんか言ってないわ。だいたい、あんたのこのお店の「八百長」って名前、

       どう考えたって変よ。

やおや: いつも申し上げるとおり、私どもが、先々代から使っております屋号ですが…。

奥さま: だいたい何よ、この平べったいレタスの葉っぱ。レタスってのは、ボールのように

       丸々として、葉の厚みがあるものよ!

やおや: 当店のレタスは…

奥さま: 知らないの?レタスはサポニンを含んでて、鎮静・催眠効果があって、イライラを

       鎮めたり、リラックス効果を高めるのよ!

やおや: 奥様も、特にレタスを多めに召し上がられた方がよろしいのでは…

奥さま: あなた、何もわかってないのね。私は高価なレタス以外、食べないんだから!

やおや: 私たちの店にあるのは「植物工場」で生産された、全く新しい製法のハイソサエティー

       レタスです。

奥さま: え…ハイソサエティー?

やおや: はい。上流の方たちに、とても好まれているものです。

奥さま: え…上流…?

やおや: はい、露地物の3倍ほどの値段です。

植物工場で作られるレタス

奥さま: ちょっと、お話をきかせていただけるかしら…?。植物工場って何なの?もったいぶった

       近代的な名前でよんで、どうせ、ビニールハウスに毛のはえたような場所を、「工場」

       なんて呼んでるのでしょ?

やおや: いや、それがちがうのです。「ビニールハウス」では、太陽の光がよく当たるように

       野菜が横に一面に並んでいるでしょ?

奥さま: …あたりまえじゃないの。たてに並んでる野菜なんてあるわけないわ。

やおや: いや、それがこの「工場」では、縦に何段にも棚が並べられ、野菜が育てられている

       のです。

奥さま: ちょっと、待ってよ。こんな図書館の資料室みたいな場所で、元気な植物が育つわけ

       ないじゃないの。

やおや: この中で、温度、湿度、二酸化炭素の濃度、光、水などの環境を年間を通じて一定に

       制御しながら植物を育てるのです。

奥さま: 太陽の光がないじゃないの!

やおや: LEDで有効な波長の光を当て続けるのです。

奥さま: 土は…土はどこにあるのよ!

やおや: 土は、一般的に使いません。

奥さま: 土を使わない?あのね、大地に根ざすから「植物」と呼ぶのでしょ?

やおや: 養分を最適な分量含む溶液の中に、根をつけるだけです。

奥さま: うき草みたい…じゃない?

やおや: そういうことです。土がないと、微生物や虫、病原菌のない状態をつくりだせます。

       したがって、無農薬で野菜を作れるのです。できた野菜も土を洗い流す必要がありません。

       異物が混入する可能性も限りなくゼロです。

奥さま: 無農薬で微生物、虫もゼロ?

やおや: そのとおりです。除草剤も殺虫剤も無縁です。

奥さま: でも、こんなこまごました棚の野菜なんて、いくらも量がとれないでしょ?

やおや: 京都では、現在1日に3万株、安定して生産している工場がありますよ。

奥さま: さ、三万株!おてんとうさまに、どうやって言いわけするのよ!晴れた日も雨の日も

       あって、風が吹くから自然なのであって…

やおや: その年の気温がどうであれ、台風が来ようと日照りにあえごうと、冬でも夏でも

       安定して作物を収穫できるのです。すべての行程は自動化されていて、工場の中に

       人はいません。

奥さま: でも、収穫は人間が行うのでしょ?腰をかがめて…

やおや: 棚の植物カートリッジから、ロボットアームで収穫が行われます。無人です。

奥さま: ご…ごついやないか!

やおや: 奥様は、関西弁をお使いなのですね。

奥さま: 大阪の登美丘高校の人たちに、教えてもらったのよ!

野菜の機能や成分を調整できる

奥さま: 植物工場って、今、日本にはどれくらいあるの?

やおや: 日本植物工場産業協会によれば、太陽光を使わない植物工場が現在200カ所、

       太陽の光を使う植物工場とあわせると、約400カ所あります。

奥さま: そんなにたくさんあるの?

やおや: そうです。ここ数年ほどで爆発的に増えました。

奥さま: どんな作物をつくってるの?

やおや: 今は人工的な光を使ってるところでは「リーフレタス」がほとんどです。

奥さま: 太陽光はあてないの?

やおや: トマト、イチゴ、パプリカなど、色づきが必要なものには、太陽光も使います。

奥さま: そんな「植物工場」でつくられた野菜、食べたことないわ。

やおや: いいえ、ほとんどのスーパーにはすでに並んでるし、レストランでサラダバーに出ている

       野菜やコンビニの弁当も、多く植物工場で生産された野菜が使われてますよ。

奥さま: …そんな太陽の光の当たってないヒョロヒョロの野菜、おいしいの?

やおや: 逆に「植物工場」の野菜は、やわらかくて食べやすいと評判ですよ。えぐみ、しぶみが

       ないのです。肉をつつんだり、味噌をつつんで食べたりしても、実に美味です。栄養も、

       畑でつくられる野菜と遜色ありません。

奥さま: 価格の安い露地野菜で、充分だわ。

やおや: 逆に、健康上の問題を持つ人、例えば腎臓に負担をかけられない人のためには

      「含むカリウムイオンが少ないレタス」とか、骨密度を上げたい人のためには、

       カルシウムを多く含む「高カルシウムレタス」なんてのも植物工場から作り出されて

       います。

奥さま: …野菜の機能とか性質とかを調整できるってこと?

やおや: その通りです。

しだいに黒字の工場が増えて

奥さま: 植物工場をつくるのには、最初にたくさんお金が必要でしょ?

やおや: そうですね。

奥さま: それに、設備を動かすのに電力も必要でしょ?

やおや: そうですね。

奥さま: ほうら、やっぱりムダだらけよ。植物工場の経営なんて、どうせうまくいかないわ。

やおや: ほんの2~3年前までは、確かに経営に失敗する人もいました。「農業」とかけ離れて

       いることや、野菜と全く関係ない人たちが試行錯誤し、さらには販売ルートが未開拓と

       いうことも重なって「植物工場では黒字はムリ」といわれたこともありました。

奥さま: ほうら、どうせ夢ものがたりなのよ!

やおや: でも植物と光の波長との関係の研究が大きく進み、植物工場用の品種も開発され、

       さらにエネルギー消費の少ないLEDの値段も下がり、生産効率がここ1~2年で

       飛躍的に上がってきたのです!

奥さま: いっぱいしゃべったわね。つばも飛んでるわ。

人の必要ない植物工場。過疎化のすすんだ村でも

奥さま: そんなに植物工場は素敵なの?

やおや: 農作物を、一年を通じて常時一定の収量を収穫できるというのは、すごいことなのです。

奥さま: 確かに、ご近所にいただくのは、ナスの時期はナスばかり、キュウリの時期はキュウリ

       ばかりね。何年か前なんか、猛暑の年にはとんでもない値段のレタスを食べたわ。

やおや: コンビニの「おべんとう」は一定の値段でしょ。天候によってお弁当が高くなったり

       安くなったりしません。植物工場の野菜は、業務加工品質を限りなく一定にできるのです。

       外食産業、コンビニなどが、自分で植物工場をつくる例も出始めました。

奥さま: ということは「野菜をつくるのは農家」とは限らなくなる…ってこと?

やおや: そのとおりです。農家も発想を変えねばなりません。

奥さま: 一生懸命に農業をやってる人たちを、脅かすものにならないかしら?

やおや: 逆に、農業で生計を立てている人が減っている今、自動栽培、自動収穫のできる

       植物工場は、画期的な野菜栽培法なのです。

奥さま: ということは、植物工場が老齢化した村の「救世主」になるかもしれないということ?

やおや: そのとおりです。

奥さま: 過疎化が進んだ村から、どんどん野菜が出荷されていくとすれば、夢のようね。

やおや: そのとおりです。

奥さま: 私もなんだか野菜作りをしてみたくなってきたわ。

やおや: え?奥様が?

奥さま: もともと私は、ノラ仕事が大好きなのよ。

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