2018-10
文責:玉木英明
2018年 10月号 茶道、華道、書道。日本人しかわからない文化?
古風な喫茶店の前…
通行人: 古風な喫茶店だなぁ。
名前がいいね、「千のリキュール」。
マスター: もし、そこの通行人!
通行人: うわっ、呼びとめられた!
マスタ: 貴殿、のどが渇いておるじゃろ?
通行人: え、えぇ、すこし…
マスタ: そうじゃろう。ならば少し寄って
いきなされ。
通行人: じゃぁ、一休みしていくかな。
マスタ: ようこそ、おこしくだされた。
通行人: あ、あの…ここは、喫茶店ですか?
マスタ: そうじゃ、茶室と呼んでおるぞ。
通行人: じゃ、コーラをください。
マスタ: こうら?亀のか?スッポンのか?
通行人: じゃ、ジュースをお願いします。
マスタ: じうす?それは、石か陶磁器でできた「うす」か?
通行人: …じゃ、ココアはありますか?
マスタ: 床屋(とこや)じゃと?ここは茶室じゃぞ。
通行人: 何があるのですか?
マスタ: 抹茶ならあるが。
通行人: …抹茶?
マスタ: 抹茶じゃ、気に入らぬというのか?!
通行人: うわっ!せまらないで!じ、じゃ、抹茶ください。
マスタ: 承知した。正座して待たれい…。
通行人:あ、あの、おしぼりは?
マスタ: 「ふくさ」を使いなさい。ほら、ダメじゃ。礼をして!
通行人: は、はい…。
マスタ: うつわは2回まわさねば、いかんじゃろう?
通行人: に、2回ですね。
マスタ: 日本人の魂に触れ、茶道の心にひたるのじゃ。
通行人: た、たましい、こころ…
マスタ: ほら、飲んだら「まことに、よいお手前でした」っていうのじゃ!
通行人: は、はい。「まこと、におい、お前、へした?」
マスタ: どう聞いたらそう聞こえるのだ?
家元とよばれる巨大なピラミッド
通行人: マスターは、すごく古風な服装ですね。お名前は?
マスタ: 千(セン)と申す。
通行人: センさん…千尋(ちひろ)さん?昌夫(まさお)さん?
マスタ: 実はわしは、平賀源内のエレキテル時空移動機で過去から来たのじゃ…。
通行人: うわっ、タイムマシンですね?
マスタ: 先日、外国人の観光客相手の「茶会」をのぞいてみたのじゃが…
通行人: どうでした?
マスタ: あそこで催されていたものは、わしの創り出した茶道とはずいぶん違うような気が
するのだ。
通行人: 日本の茶道は、家元とよばれる巨大なピラミッド構造の組織があって、マニュアルに
したがって稽古(けいこ)を行います。稽古をたくさん行って、お金をたくさん払って
「許状」を手に入れて「助教授」などと呼ばれる免状を手に入れれば、お茶の世界で
「位の高い」人になるのです。
マスタ: お金を払って、免状を手にいれるのだな?
通行人: そういうの、日本にはたくさんありますよ。
マスタ: 茶道の他にもか?
通行人: 例えば、お花、華道です。日本文化の中で四季折々の花を器に飾り様々な表現をする
ことはとても素敵なことです。でも、それを人に教えようとか伝えようとする時、
「私は池坊(いけのぼう)の草月流・正教授一級総華綱」と言えば、何だかわからない
けど、由緒正しいとみんなが尊敬するのです。
マスタ: 花をかざることなら、町の花屋さんにも、素敵なセンスの人はいるだろう?
通行人: 書道もそうです。日本書道教育学会の全国書道検定試験の「師範(しはん)」の免状を
持っているということになれば「すごい」ということになります。書道教室を開くには、
このありがたい「お墨付き」が必要になります。
マスタ: 筆で書かれた作品は、芸術じゃ。書いた人の心や性格をあらわすものじゃ。
「資格」にこだわらずともよいと思うのじゃが。
大相撲。大勢の外国人が加わる「日本の国技」
マスタ: 昨日、テレビで相撲を見たぞ。さすが日本の「国技」、土俵には女性すら上がれない
「神事」であって「力士の品格」が守られた、日本文化の代表じゃのぅ。
通行人: 外国人力士の多いこと、ご存知ですか?横綱も4人のうち3人が外国人です。全体でも
3分の1以上が外国人です。ということは「相撲は日本の…」と小さく収まる必要が
なくなってきています。
マスタ: あんな「マゲ」をゆって、「ふんどし」でやる競技は、どこにもないぞ。
通行人: 裸の人間同士が体をぶつけて競い、勝負を決めて観客を喜ばせる「興業」は世界各地に
多くあります。ユーラシアでは紀元前3世紀ころ、スキタイ人が青銅器に相撲の文様を
刻んでましたし、また、モンゴル系・契丹人(きたいじん)の格闘技も日本の相撲と
酷似しています。
マスタ: 相撲は、日本人の、日本人による、日本人のための国技じゃぞ!
通行人: 現在の状況を見れば「相撲は世界にある格闘技の一つ、世界中の人が参加してください」
と表現をしたほうが、よりグローバルな競技になっていくと思うのです。
マスタ: しかし、神社での土俵入りは、日本の神事じゃ!神宮奉納相撲など、実に神聖なものじゃ!
通行人: 神事に外国の人が加わってもいいじゃないですか。モンゴル相撲にも寺院や聖地での
「清め」や「みそぎ」があるし、どの国のスポーツにも「宗教」がからんでいるものは
たくさんありますよ。
マスタ: 宗教が関わるスポーツなどあるのか?
通行人: 例えば、日本で開催されたワールドカップでは、アフリカのサッカーチームには呪術師が
同行して、試合前に相手が負けるように、グラウンドで呪いをかけてましたよね。
キリスト教徒の選手たちは十字を切り、イスラム教徒の選手たちはコーランの一節を
唱えます。
マスタ: なるほど…大切なことは何じゃ?
通行人: 日本の宗教信仰に敬意を払い、日本の礼儀正しさを賞賛しながら、世界中の人たちが
見て楽しむことができるスポーツ、さらに力士として成功すれば経済的に豊かになれる
スポーツとして、相撲を世界中に紹介すれば…
マスタ: ヨーロッパから来た力士の琴欧州(ことおうしゅう)や把瑠都(ばると)のように、
アフリカから来た力士がいても、さらに相撲は楽しくなるということじゃの?
通行人: その通りです。世界中の力自慢の人たちが日本の「大相撲」めがけて集まってくることに
なるのです。
目標は高い位を得ること?
マスタ: スポーツには勝敗がある。勝って横綱になろうと稽古をする。そろばんでも水泳でも
柔道や剣道、相撲でも、しっかり稽古をしないと腕を上げられないし、高い段位も
得られない。しかし、茶道や華道の目標は、その流派や序列の中で高い位を得ることでは
ないような気がするのじゃ。
通行人: そうですね。ある程度茶道を極めた人なら、自分なりの新しい流儀を創り出しても
おもしろいですし、現に外国で新しい形の茶道を始めている人もいますよ。
マスタ: な、なんと!海外で茶道の新しい流派が始まっておるじゃと?
通行人: それも、よろしいではありませんか。よいものなんだから、これからは「日本の中で
日本人だけが伝承して行くもの」ではなく、外国に伝わって形を変えていく「日本発祥の
文化」として考えれば、いかがでしょうか。
マスタ: なるほど、それもそうじゃのう。
茶道。Sado.
通行人: ぼくも茶道を学びたくなってきました。
マスタ: いっしょに、わしの時代に行ってみるか?
通行人: 千さんの時代って…
マスタ: 16世紀じゃ。
通行人: いっしょに行ったら、茶道の極意を理解できますか?
マスタ: もちろんじゃ。わしは茶道そのもの、I am sado.「アイ・アム・サドウ」じゃ。
通行人: なんだか、わくわくしてきました。
マスタ: ただ、一つだけ言っておくことがある。
通行人: なんですか?
マスタ: 歴史上の記録では、わしは、やがて切腹をさせられることになる。
通行人: えぇえ?そんな…悲しい…。
マスタ: そう、I am sad.「アイ・アム・サッド」じゃ。