2019-07

文責:玉木英明

2019年 7月号 液体ミルクの解禁。なぜ今まで「ミルクは粉だけ」だったの?

じいちゃんと孫が…

孫: じいちゃん、このアイスクリーム、おいしいね。

じい: あたりまえだ。じいちゃんところの牛からしぼった、最高の牛乳からつくった

アイスクリームだ。

孫: もっとたべたい。

じい: それくらいにしておけ。

孫: 牛から、たくさん乳をしぼればいいよ。

じい: 牛乳は尊い。もっと大切に食べろ。

孫: いやだいやだ、もっと食べたい、牛乳のみたい!

じい: 今日は、もう牛乳が残ってないんだよ。

孫: アイス食べたい、牛乳のみたい!

じい: しかたないなぁ。粉ミルクを買ってやるから、熱湯にとかして、冷ましてから飲め。

スプーンがついているはずだから、ちゃんと粉の分量を測るんだぞ。

孫: じいちゃん、そんな「じゃまくさいこと」はいやだよ!

じい: 乳を飲むのに、じゃまくさいとはなんだ。

孫: じいちゃん、「液体ミルク」が日本でも売り出されたらしいよ。買ってよ!

じい: なんじゃと?液体ミルクだと?

孫: そうだよ。欧米ではかなり前からあるもので、常温で保存できるらしいよ。

じい: 常温で保存?そんな気色(きしょく)悪い牛乳、飲むのはやめろ。

孫: でも、グリコと明治がこの春から売り出したら、想定した3倍も売れてるらしいよ。

震災時、外国が送ってくれた緊急物資

じい: よく知ってるじゃないか。

孫: 新宿でくつみがきをしてた時、みんなが言ってたわ。

じい: あのな、乳は腐りやすいんだ。

孫: どうして?

じい: 乳は「生きている」ものだからさ。牛乳のスーパーの売り場はヨーグルトの横っちょ、

冷蔵してある場所だ。

孫: 液体ミルクなら、カップラーメンのとなりで充分よ。

じい: それが変だと言っているのだ。冷蔵しても牛乳は一週間しかもたんはずだ。どうして

そんな魔法みたいなことができるのだ?

孫: 現代の容器は完全に無菌状態にできるから、細菌の繁殖をゼロにできるのよ。

じい: 冷たい牛乳は新鮮だ。棚においてある冷たくない牛乳なんか、口に入れる気もおこらん!

孫: そういって、2011年の東日本大震災では、支援物資として海外から送られてきた

液体ミルクを、みんなが口にしなかったそうよ。

じい: だいたい、このアメリカの液体ミルクの容器をみてみろ!まるで洗剤みたいじゃないか。

こんなもの、飲んだら腹をこわしそうだ。

孫: じいちゃんみたいに感じる人が多くて、震災時、宮城県の石巻市では、この液体ミルクが

飲まれずに倉庫に大量に残ってたのよ。このミルクは栄養価が高くて、乳糖不耐症の

乳児にも使える便利なものなのに。

じい: なんだ、その乳糖不耐症というのは?

孫: 乳糖を分解できなくて、普通のミルクを飲むと腹痛や下痢を起こしてしまう赤ちゃんよ。

じい: ということは、この「洗剤容器の牛乳」は、そんな赤ちゃんが飲んでも大丈夫だと

いうのか?

孫: そうよ。ボトルにも英語で  Complete Nutrition for SensitivTummies

      ってかいてあるわ。 

じい: おまえ、英語わかるのか?

孫: くつみがきしながらアメリカ人に教えてもらったの。災害で緊急に海外から送ろうとする

      物資に、日本語の説明書をつけてるひまがないのよ。

じい: それにしても、そんな便利なミルクを日本人が知らないなんて…。

孫: 2018年の北海道の地震の時も、支援物資として送られてきたこの液体ミルクを、

     災害対策本部が「前例がないから」「使わないように」指示したというわ。

じい: ばかな!

孫: 一方で、その2年前の熊本地震では、フィンランドからもらった液体ミルクは

     活用されてたっていうし、同じ2018年でも、西日本豪雨では、岡山や愛媛で配布された

     欧米製の液体ミルクを、みんなが喜んで飲んだそうよ。

じい: ということは「外国を知らない奴、英語を理解できない奴」が担当者では、支援物質すら

     役にたてられないということだな?

孫: そのとおりよ。

液体ミルクと粉ミルク

じい: 液体ミルクと粉ミルク、どっちが値段は安いのじゃ?

孫: 粉ミルクよ。

じい: それなら、粉ミルクを買えばいい。日本に液体ミルクなんて必要ない。

孫: さっきの話の通り、災害があって停電やガス・水道が止まっているときに、常温保存

    できる液体ミルクは魅力が大きいわ。

じい: 液体ミルクの賞味期限ってどれくらいなのだ?

孫: 封を開けなければ、半年から1年よ。

じい: 封をあけたらどうなるの?

孫: 開封後は、使い切らないと雑菌が繁殖するのよ。

じい: ほうら、あぶない。ちなみに、粉ミルクの賞味期限は?

孫: 1年半大丈夫よ。

じい: やっぱり粉ミルクの方がいいじゃないか。

孫: 粉ミルクも、封を開けたら無菌状態は保てないわよ。WHO(世界保健機構)と、

    FAO(国連食糧農業機関)の調乳ガイドラインでは、粉ミルクより液体ミルクの方を

    推奨しているわ。

母親にとっての救世主

孫: 母乳の出にくいお母さんが「液体ミルクは救世主だ」って言ってたわ。

じい: どうしてだ?

孫: 夜中に泣いている赤ちゃんにお母さんがミルクをつくる場面を考えて。

じい: 何時間おきに、赤ちゃんは乳をくれと泣くのだ?

孫: 2~3時間ごとよ。そのたびに、横で声をあげて泣く赤ちゃんをあやしながら、

     周りで寝ている人が目を覚まさないように、いそいで粉ミルクを量って熱湯に溶かして、

     さらに乳児が飲みやすい常温以下まで冷やすのよ。お母さんは大変よ。

じい: 母親をしたことない「ちびっこ」のくせに、おまえよく知ってるな。

孫: タマキタイムズに登場するちびっこは、いつも、もの知りよ。

じい: 粉を湯に溶かして冷ますくらい、簡単じゃろ?

孫: じいちゃん、外出した時を考えて。液体ミルクなら、ペットボトルに吸い口を装着する

     だけで、開封してすぐに飲ませられるのよ。

じい: いずれにせよ、赤んぼうに飲ませる乳は人肌くらいまで温めなきゃ、赤んぼうが腹を

     こわすじゃろ?

孫: それも日本人の勘違いで、赤ちゃんは常温でも平気なのよ。

じい: あのな、赤ちゃんを育てる母親が、手間を惜しんでは、だめじゃ。

孫: 日本人は、まだ「母親が乳幼児を育てる」という意識がつよいわ。

じい: そりゃ、男はお乳が出ないから…

孫: 欧米の父親のように、乳飲み子と二人きりで長い時間出かけることなんか、

     じいちゃんは考えられないでしょ?

じい: それは…そうかもしれない。

孫: 封をあけてすぐに飲ませられるミルクがあって、使い捨てにできるおむつがあるなら、

     男性も育児にかなり参加しやすくなると思うの。

法律をかえた署名

じい: あのな、日本では食品衛生法という法律で、調製粉乳とは

    「生乳や牛乳などを主原料とし、乳幼児に必要な栄養素を加え“粉末状”にしたもの」

     と定義されておる。だから、日本では粉ミルクしか作れないはずだ!

孫: 「乳児用液体ミルク研究会」という社団法人が、2014年から4万人を超える署名を

     インターネットで集めて、液体ミルクの製造を嘆願したのよ。

じい: それも、くつみがきをしながら知ったのか?

孫: そうよ。

じい: おまえのくつみがきは、すごい情報収集の場だな。

孫: 厚生労働省も、液体ミルクの製造や販売を反対したり禁止したいわけじゃないのよ。

     メーカーからの要請がなかったから法律が整備されてなかったのよ。

じい: ということは、やっとこれで、日本でも液体ミルクが作れるようになったわけだな?

父親を子育てにひきこむ?新しい液体ミルク

じい: なんだか、じいちゃんも、日本の液体ミルクづくりに参加させてほしくなってきたぞ。

孫: え?じいちゃんが?

じい: そうだ。日本はこの分野で欧米に比べて後発なわけだから、欧米に勝る斬新なアイデアを、

     液体ミルクづくりに盛り込んだらどうだろう?

孫: 斬新なアイデアの液体ミルク…?

じい: そう、父親を子育てに積極的に参加させるための、素敵なアイデアさ。

孫: じいちゃん、何かアイデアがあるの?

じい: ああ、幼児が乳をほしがる画期的な容器で、日本の液体ミルクを売るんだ。

孫: どんな…容器?

じい: 男が胸に装着できる「左右一対・柔軟液体ミルク容器、吸い口2個付き」だ。

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