2012-01

文:玉木英明

2012年1月号 ドイツ。日本人とよく似た気質を持つ国民とは

 

ポルシェもベンツもBMWも

アドルフ: 我が闘争…民衆というものは、常にそうであったし、永遠に、そう

いうものであろう…

百恵 : み~どり~の、なかを~走り抜けてく真っ赤なポルシェ~♪

アドルフ: だ、だれだ!?私が、考え事をしている時に、新年早々軽々しい歌

を、しかも古い歌を歌いながら通り過ぎていくやつは!?

百恵 : こう~さてんでは隣の車がミラーこすったと~どなっているから

私もついつい大声になる~♪

アドルフ: ちょ…ちょっと待て、そこの女!そう、おまえだ!

百恵 : 私…のこと?何か用が、おますのか?

アドルフ: いや、ちょっと気になった言葉をさっき言っておったな。

百恵 : あんた、誰ですの?おもしろいコスチューム着てはりますなぁ。

まるで、第二次世界大戦中みたいな…

アドルフ: い、いや、私は、ただの旅行者だ。ドイツから来たわけではないの

だ!断じてないのだ!

百恵 : 誰も聞いてませんでぇ。けったいな人やなぁ。ほんで、いちいち大

きな声で手を振りながらしゃべらんでも、よろしやないか?

アドルフ: これは、私のクセだ。ところで女、おまえのさっき言っておった

「ポルシェ」というのは、フェルディナンドのことか、それとも

息子のフェリーのことか?

百恵 : 「女」と呼び捨てにするのはやめてぇな。私には「百恵」という

キュートな名前があるのよ。私のダーリンの友和さんと、去年の夏

アウトバーンを速度無制限でギューンと走ってきたのよ!

アドルフ: ア、ア、アウト・バーン…。私が、第一次世界大戦の後に、国民の

失業対策として命じた6900kmの大工事だ!それで、ポルシェは、

元気なのか?

百恵 : なんぎな人やなぁ。ポルシェいうたら、かっこいいドイツの

スポーツカーのことやないの。

アドルフ: ポルシェ君は、いや、フェルディナンド君は、フォルクスワーゲン

のタイプⅠを設計した技師だったのだ。独立して自動車会社を設立

して、経営危機に陥っていると、うわさに聞いたが…。そうか、

それで、その「ポルシェ」は、この日本で売れてるのだな?

百恵 : そう、裕福な人たちの好む高いイメージの車ね。だから、私が40年

ほど前の紅白歌合戦でプレイバックPARTⅡの中で歌ってたのよ!

アドルフ: 何だ、その雪合戦みたいな名前は?

百恵 : 紅白歌合戦いうたら、有名なNHKの大晦日の歌番組やがな!当時は

NHKはすごく頭が固くて「真っ赤なポルシェ」の「ポルシェ」は

商品名やから、NHKで歌ったらダメだと言われて「真っ赤な

くるま」いうて歌いましたんや。表現の自由の侵害やったわ!

アドルフ: そんなことは聞いておらぬ!ポ、ポ、ポルシェ社は、立ち直った

のだな!?

百恵 : いたたた、いたい、えり首を引っ張らんといてえな。ポルシェ

911いうのを1936年から売り出して、好調に売れてまっせ。

ちょっと…放してえな。ほんで、つば、飛んでまっせ。

アウトバーン・速度無制限道路

アドルフ: そうか…そうだったのか…。安心したぞ。おい、女…いや百恵、

もう一つ聞きたい。ドイツのアウトバーン計画は、うまくいったの

だな!?

百恵 : いたい、いたい、肩をもってゆすらんといて!ほんで、つば、飛ば

しないな!アウトバーン計画いうのはよく知らんけど、速度を無制

限に出すことができるハイウェイとして有名よ。日本では高速道路

は100km/hが最高速度なのに、ドイツのアウトバーンではみんな

170~180 km/hで走ってるわ。最近、制限速度がある区間もかなり

増えたけど、それでも速度無制限区間では、170 km/hで走っている

車の横をすごい勢いで追い抜いていく車がいっぱいや。車のスピー

ドメーターのディスプレイに「制限速度は210 km/hですので注意し

て」って示された時は、私ら、めちゃビックリしましたでぇ。

アドルフ: なんだ、そんな速度でビックリしていてはダメだ!アウトバーン建

設の初期には、自動車メーカーも最高速度を競い合ったものだ。

メルセデスなどは当時から432 km/hという驚異的な最高速度を出し

レーサーのローゼ・マイヤー君などは、450 km/hでクラッシュして

即死した。

百恵 : ええ?当時の車で400 km/h以上の速度を出せたんですか?

アドルフ: そうだ。驚いたか!?それがドイツ人の誇りだ!

「ハイル・BMW!」「ハイル・メルセデス!」

百恵 : なんですの?その、ハイル!いうのは?

アドルフ: 「万歳!」いう意味だ。ポルシェもBMWもベンツも、がんばってて

くれるのだな!?

百恵 : いずれも、日本でも人気の高級車でっせ。

アドルフ: そうか…うれしいやないか…。いやぁ、百恵ちゃん、おおきに…。

百恵 : 泣きないな…。ほんで、ドイツ人も「おおきに」いいますのやな?

アドルフ: いや、あんたがうつった。お礼にビールをごちそうしよう!

ハンバーガーでもどうだ?

百恵 : マクドナルドにはビールなんかありませんでぇ。

アドルフ: なんだ?その「まぁ、くどなるぞ」いうのは?誰かの説教か?

百恵 : ちがいますがな。アメリカのハンバーガーやがな。

ハンブルグの食べ物・ブドヴァイスのビール

アドルフ: オー!アメリカ!連合国側だな!ゆるさん!

百恵 : 何をいうてますのや?フランクフルト中央駅にもマクドナルドはあ

りますでぇ。カーリーフライ(いか)やシュリンプフライ(えび)

なんか、人気のハンバーガーや。

アドルフ: なぜだ!いつからドイツのハンブルグの食べ物がアメリカのものに

なったのだ!?

百恵 : え?ハンバーガーはドイツの食べ物ですのか?

アドルフ: あたりまえだ!Hamburg といえばドイツの工業都市だ。そこの労働

者達の食事がHamburgerなのは当たり前だ。

百恵 : そうか…ほな、ローテンブルグの肉やったら「ローテンバーガー」

アウグスブルグのやったら「アウグスバーガー」やな。それでも、

フランクフルトはやっぱりソーセージやな。

アドルフ: 何をぐたぐた言っているのだ?それよりBudweiserはどうなった?

百恵 : バドワイザーも、アメリカのビール会社でっせ。

アドルフ: ばかな!Budweiser「ブドヴァイゼル」は、チェコの国営ビール会

社のはずだ。もともとはチェコの南ボヘミア地方のドイツ語名

Bohmisch Budweis(ベーミッシュ・ブドヴァイス)がバドワイ

ザーというビール名の由来だぞ。

百恵 : 今でも、チェコの国営ビールは2社あるのやけど、アメリカのドイ

ツ系移民やったアドルファス・ブッシュいう人が先に北米で商標登

録をしたものやから、チェコの国営会社の方がBudweiserいう名前

を使えへんようになってしもたんですわ。

アドルフ: ちょっと、待て。2006年のワールドカップは、ドイツで行われたは

ずだ。アメリカとチェコ、どっちの「バドワイザー」の看板を掲げ

たんだ?まさか、ドイツの競技場に、アメリカのバドワイザーが大

きな顔して看板かかげたのとちがうだろな。

百恵 : ヨーロッパの主な国では、まだアメリカのバドワイザーは「Bud」

とか「Busch」いう名前で売られてて、チェコの国営ビールと勘違 

いせんようにはなってる。ただ、アメリカのバドワイザーは、世界

中のいろんな国で、今も商標登録し続けてる最中でっせ。

ディズニーランドのお城は…

アドルフ: よし、我が輩ものどが渇いてきた。日本では、何歳からビールを飲

めるのだ?

百恵 : お酒はすべて20歳からでっせ。ドイツはビールの国やから18歳く

らいから飲めますのか?

アドルフ: いや、ビールは保護者同伴なら14歳、一人でも16歳から飲めるぞ。

ウイスキーなどの蒸留酒だけ18歳からだ。

百恵 : ドイツ人のビールの消費量はハンパやないでしょうなぁ。

アドルフ: 年間一人あたり116リットルのビールを消費する。オクトーバー・

フェストという世界最大のビールのお祭りは、我が輩が非常に好き

であったぞ。

アドルフ: わかりましたで。あんたも、その窮屈そうな服は着替えて、ディズ

ニーランドでも行って、ビール飲んでくつろいだらどうでっか?

アドルフ: それは、アメリカ仕込みのテーマパークだな。どんな場所だ?写真

を見せてくれないか?

百恵 : よろしおますで。ほら、これですわ。

アドルフ: うおおーー! なんと!これは!

百恵 : 大きな声を出して、いったいどうしましたんや?

アドルフ: こ、この城は…

百恵 : どうかしましたんでっか?

アドルフ: これは、私がフランスの美術品を集めて入れたノイシュバンシュタ

イン城ではないか!