2014-03
文:玉木英明
2014年 3月号 天然痘。WHOの絶滅宣言から33年
どこの誰かは知らないけれど
月光仮面:♪どーこの、だーれかは、知らなーいけれど、だーれもが、みーんな
知っているー。♪
一般市民:なんか、古いメロディーが流れてきたなぁ。それに今日のタマキ
タイムズ、写真が、全部白黒や。
月光仮面:ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。私の二丁拳銃が火をふくぞ。
一般市民:怪しいヒトが現れたよ。白づくめのターバンと変テコなサングラス、
怪しいマスクに白いタイツはちょっと、恥ずかしい感じがするのや
けれど、あなたはだれ?
月光仮面:…あれ?さっきの歌を聞いたこと、ありませんのか?
一般市民:知らんなぁ。だいたい、そのスタイルで、あんた、こんな古い単車に
乗ってきましたんか?
月光仮面:そうだよ。もう一度、聞きまっせぇ。「どこの誰かは知らないけれど
誰もがみんな知っている」のは…?
一般市民:わかった!ショッカーをやっつける「仮面ライダー」や!
月光仮面:あのなぁ、私の敵は「サタンの爪」や。これや、これや。このオデコ
の光り輝くマークを見てんか!
一般市民:そうかぁ。あんたが、「七色仮面」やね? →七色仮面?昭和の部屋へ
月光仮面:近いけど、ちょっと、ちがうがなぁ!ほら、あの大瀬康一の
やってた…。
一般市民:「快傑ハリマオ」やね!? →快傑ハリマオ?昭和の部屋へ
月光仮面:ち・が・うっ!この金色(こんじき)に輝く月のマークが…。
一般市民:知らんなぁ…忙しいのや。僕はもう行くで。
月光仮面:ちょっと、ちょっと、待ってんか!せっかく私がフリガナまでふって
言ってるのに、無視せんといて!
一般市民:しょうがないなぁ。ほな、もう一回だけ聞きまっせ。あなたは
誰ですか?
月光仮面:知りたいか?
一般市民:もう行くわ…。ええい!その手をはなせ!
月光仮面:怒らんといて、なぁ…、おこりっぽいんやから…。落ち着いて。
一般市民:ほらぁ、あんたの白ずくめの格好見て、歩いていく人たちが笑ってる
やないですか。
月光仮面:ごめん、ごめん。私の名前は「月光仮面」。サタンの爪が、生物兵器
を使う恐れがあるからというので、このタイムマシーンで、昭和35年
から、はるばるやって来たのだ。 →月光仮面?昭和の部屋へ
一般市民:…50年以上過去のことやね?この単車、タイムマシーンなのですね?
月光仮面:おほん、そのとおりだ。
天然痘(てんねんとう)。疱瘡(ほうそう)とも呼ぶ
一般市民:それで、生物兵器…って?
月光仮面:そうです。実は、悪の一味、「サタンの爪」が、天然痘の病原菌を
ばらまくという情報が、はいったのだ。
一般市民:はっはっは。天然痘は1980年にWHO、世界貿易機関が「根絶した」
いうて宣言しましたで。もはや、この地球上には存在しません。
あんたの住んでた昭和30年代とは、もうちがうのです。
月光仮面:知ってまっせ。だから、怖いのです。
一般市民:…どういうこと?
月光仮面:私は、ダテにタイムマシンで時空移動をしてるわけとちがいます。
天然痘は1798年、エドワード・ジェンナーが「種痘(しゅとう)」
いうワクチンの接種が有効であることを発見しました。日本でも
天然痘のことを「疱瘡(ほうそう)」いうて呼んで、子供の予防接種
に「種痘」を長いことおこなっていました。
一般市民:天然痘(てんねんとう)いうのは、どんな病気ですのや?
月光仮面:すごく強い感染力をもつ、伝染病や。
一般市民:伝染病?
月光仮面:そう。膿疱(のうほう)という膿(うみ)のぶつぶつが体中にできて
致死率も40%とすごく高い。膿(うみ)のたまり方が普通でない。
水のたまったような状態でなく、粘度がすごく高い膿がひどい状態で
体中にたまる。治ったとしても瘢痕(はんこん)をのこすから、
すごく醜く(みにくく)なってしまうのや。
一般市民:ふりがなだらけや。死にますのか?
月光仮面:アメリカでは1663年に4万人のインディアン(原住民)の部落で天然
痘が流行した時は、数百人しか生き残らなかった。また、1770年の
インドでの流行では、300万人が死亡した。
一般市民:…ごつい数字やなぁ。日本では流行したことありますのか?
月光仮面:明治時代に、数万人の流行が6回発生して、そのうちほぼ3分の一は
命をおとしてる。最近では、第二次世界大戦後の昭和21年に18000人
程の流行があって、約3000人が亡くなった。
一般市民:あかん…あかんがな!天然痘、疱瘡はこわいがな!誰か天然痘に
かかった有名な人は、おりましたんか?
月光仮面:伊達政宗は小さい頃に天然痘にかかって、片眼を失明したのや。
顔にも瘢痕(はんこん)が残ってた。フランスのルイ15世かて天然
痘で亡くなった。高杉晋作かて10歳で発症したのやけれど、青木周弼
(あおきしゅうすけ)いうお医者さんのおかげで死ぬことは免れた。
ソビエトのスターリンかて、顔に瘢痕が残ってた。
一般市民:何か、瘢痕(はんこん)の別の呼び方がありましたなぁ?
月光仮面:よう知ってるね。「あばた」や。
一般市民:おおっ、あの「あばたも、えくぼ」のあばたやね?
月光仮面:そのとおり。「あばた」いうのは、「天然痘のあとの醜いイボイボ」
いうことなんや。
WHOの絶滅宣言
一般市民:でも、地球上から天然痘は撲滅されたのでっしゃろ?この世からなく
なったから、日本でも、もう天然痘の予防接種は行われてないので
しょ?安心なんでしょ?何をいらん心配をしてますのや?
月光仮面:みんなが予防接種をしていない、免疫を持っていないということは、
それが恐ろしいことになるのです。
一般市民:でも、地球上にない病気でしょ?
月光仮面:だれかが、どこかの研究室の冷蔵庫に保管しているとしたら、どう
なりますか?
一般市民:…え?そんなの心配無用でしょ?天然痘のワクチンがありますやろ?
月光仮面:根絶宣言をしたということは、ワクチンも、まるで残っていない、
ということや。病院もみんな処分してしまったはずや。そんな病原菌
を、悪の一味、サタンの爪がばらまいたら…
一般市民:あかん、あかんがな。そんな、非人道的なことが、許されますのか?
月光仮面:許すも許さんも、大量殺戮の方法としては、核爆弾を持つよりも簡単
や。天然痘のウイルスを培養して、大都会の真ん中にバラまいたら…
一般市民:やめて!やめてんか!
月光仮面:大声をだしないな。ほんで、つば、とんでまっせ!
一般市民:サタンの爪が、天然痘のウイルスをもてないようにせなあきまへん
で!
月光仮面:わかってますがな。それに、つば、とんでまっせ。
一般市民:どうしたら…どうしたらよろしいのや?サタンの爪は、天然痘は、
福島第一原発のウランは、いったいどうなりますのやろか?
月光仮面:ちょっと、乱れてまっせ。アメリカの情報機関のCIAいうところが、
この地球上で天然痘ウイルスのサンプルを持っている可能性がある
国をイラク戦争の頃に発表したことがありました。
一般市民:ということは、天然痘のウイルスは…この地上に、まだ存在するわけ
ですね?
月光仮面:そら、ありますでぇ。それで私が時空を超えて監視に来ましたのや。
一般市民:どうしたら、よろしいのや?むかし天然痘のワクチンを接種した40歳
以上の人なら、病気にはかかりませんのか?
月光仮面:それが、あきませんのや。免疫は、5年から10年しかもちません。
一般市民:ほな、世界中の人々は、ほとんど天然痘に対して「免疫がない」いう
ことですね?
月光仮面:そのとおりや。
感染症を克服する研究
一般市民:なあ、月光仮面さん、病気、とりわけ死に至るような伝染病は恐ろし
いですなぁ。
月光仮面:そう、そのとおりや。
一般市民:無菌室を作って、その中でじーっとしてるのが、一番ええわけやね?
月光仮面:いや、逆や。恐ろしい天然痘かて、一生懸命に研究した人がいてくれ
たおかげで、ワクチンができたんや。今日のように安心して生活でき
るようになったのや。そやから、あんたかて、逃げることばっかり
考えてないで、困難な病気を研究して、克服する側の人にならな
あかん。
一般市民:そやけど、病気は怖い。
月光仮面:誰かて怖いがな。病院で働いてる人達は、いろんな病気の人たちに
毎日囲まれて生きてるわけや。でも、弱音をはかんとがんばってる
やろ?
一般市民:…わかりました。ぼくも、一生懸命勉強をします。そして、人々に
平和で幸せな生活を与えられる人になります!
月光仮面:ようし、ええ心がけや。今日は、こんなこともあろうかと、もう一つ
白い覆面(ふくめん)とサングラス、白いタイツも持ってきました。
これを身につけなさい。
一般市民:最近のヒーローとは、ちょっと、いや、かなりスタイルが異なるよう
な気がするのですが。
月光仮面:かまへん、かまへん。時空を駆け巡るには、このスタイルのほうが
目立つ。
一般市民:この白いマントは、世の平和と関係ないような気がするのですが。
月光仮面:けっこうやないか。かまへんでぇ。昔からヒーローは、マントをつけ
てるものなんや。
一般市民:このオートバイ、実用車みたいで、もっとカッコいいほうが…。
月光仮面:けっこう、けっこう、かまへん、かまへん。昭和30年代には、高級車
やった。
一般市民:月光仮面さん、あなたの本名は、もしかして…。
月光仮面:そう、実は…「けっこう、かまへん」いう本名や。