2011-10

文:玉木英明

 2011年10月号 台風とハリケーン、サイクロンにトルネード。

目がまわりそう!


ハリケーン・アイリーン

アイリーン:I am angry! I am in a huff! What a stupid naming!

あらし君:あれあれ、頭から湯気の出てる女の子が歩いてきたでぇ。

キュートな顔して、何を怒ってるのかいな?

アイリーン:Do you agree to put a girl's name for hurricane? 

あらし君:ちょ、ちょっと待ってえな。例の自動翻訳機を用意するから…。

アイリーン:I don’t want to…ハリケーンに私の名前をつけるなんて、えげつ

ないで!

あらし君:やっぱり、この翻訳機、関西弁に翻訳するのやなぁ。

アイリーン:あんた!聞いとるの!?ちゃんと聞かんと、耳のあなに指つっこん

で、奥歯ガタガタいわすでぇ!

あらし君:古いなぁ。昭和30年代の「てなもんや三度笠」のギャグや。もと

の英語は何て言うてるのやろか。あんた、何でおこってまんのや?

アイリーン:これが怒らずにいられまっか!アメリカではハリケーンの名前に女

の子の名前をつけるんや。先日ニューヨークやらワシントンやらを

襲ったハリケーンのニュースがテレビで流れるたびに「大型で凄ま

じいアイリーン」とか「アイリーンに警戒して」とか、まるで私が

大暴れしてるような報道ばっかりされましたんやで!私の友人の

「カトリーナ」なんか5年前に猛威をふるったもんやから、化け物

あつかいされてましたんやで!

あらし君:ようけしゃべりましたな。ほんで、つば、飛ばさんといて。

アイリーン:これが落ち着いてられまっか!もう、かんにん袋の緒が切れたで!

終わりや!しまいや!

あらし君:あんたが、つば飛ばすから、僕までベチョベチョやがな。

あのな、次のハリケーンは「ホゼ」なんやで。

アイリーン:…ホ…ゼ…。男の子やんか。

あらし君:そうや。あんたみたいに、女の子の名前ばかりつけるのは不公平

やいう人が多くて、男の子と女の子の名前を交互につけることにな

ったんや。

アイリーン:ほな…ホゼの次は…女の子?

あらし君:Katia(カーシャ)いう女の子や。

アイリーン:…そう…。いや、やっぱり怒ったわ。何で「菊次郎」とか

「さなえ」とか名前をつけへんの?

あらし君:やっぱり、アメリカの人たちが聞き慣れてる名前でないとあかん

のやろなぁ。ただ、カーシャの次の男の子の名前は「Lee(リー)」

いう中国系の名前やし、もともとアメリカは移民の国や。読み方が

ちょっとちがうけど、北欧系の名前やらラテン系、イタリア系の名

前までいろいろあるで。

台風12号。鉄人は28号で、服は9号

アイリーン:ちょっと、聞きますでぇ。何で日本には、ハリケーンが来まへんの

や?

あらし君:来るでぇ。台風は、アメリカでいうハリケーンのことや。まあ、

ちょっと風速の定義は違うけどな。

アイリーン:「たいふう」てtyphoon のこと?

あらし君:そうや。日本に来る「台風」は、実は北中米では「ハリケーン」

その他の地域では「サイクロン」いいまんのや。ただ、最近では、

世界中の人によくわかるように、NHKでは、トロピカル・ストーム

(熱帯の嵐)いう言い方をしてる。

アイリーン:もう一つ聞きますでぇ。日本の台風には名前がなくて、何で「鉄人

28号」みたいに、「~号」なんて古くさい名前がつきますのや?

あらし君:またまた、古いマンガを知ってるね。実は、先日の台風12号には

「Talas(タラス)」、また台風15号にも「Roke(ロキ)」いう名前

がついてたんや。外国人向けの放送では、NHKもそういう名前で呼

んでる。うそやと思うなら、NHKのRadio Japanを聞いてみるとええ

で。

アイリーン:ほんまでっか?NHKでも、そんな名前で呼んでますんか?外国人向け

の放送で使うてる呼び方を、日本国内向けの放送では全く用いてな

いなんて、おもしろいですなぁ。

あらし君:日本人の間では、ニュースで台風に人間みたいな名前をつけるの

は、「ウイット」として受け入れてはもらえへんのやろね。

アイリーン:「ウイット」いうたら、酔っぱらいが酒飲み過ぎたときの、しゃっ

くりのことでっか?

あらし君:あかん、この翻訳機は、英語を英語に直せへんのやな。ウイット

いうのは、「気の利いた冗談」いうこっちゃ。

アイリーン:Oh, It's wit, isn't it?…わかりましたで。

竜巻(トルネード)も低気圧

アイリーン:アメリカでは、トルネード(竜巻)もよう起こりますで。

あらし君:竜巻も、台風も、ハリケーンも、低気圧には違いない。そやから

地表では周りからそこに向かって空気が渦をつくりながら流れ込む

ことには変わりないのやけど、その規模と、できあがる速度がちが

う。

アイリーン:アメリカ大陸の真ん中で、不穏な風が吹き始めたかとおもうと、

みるみるうちに暗くなってきて、雨が降り始めて、竜巻ができていく

のを見たことがありまっせ。なんやら気味の悪い光景やったなぁ。

あらし君:その通りや。気圧の低い部分に向かって吹き込んだ空気が、渦を

巻きながら上昇していくときに、周りのゴミやら木やら、時には鳥

なんかも巻き込まれて吸い上げられるんや。その周りは、うそみた

いに真っ暗で大粒の雨が狂ったように降る。

アイリーン:日本では竜巻はできまへんのか?

あらし君:できるでぇ。ただ、見通しの広い場所があまりないから、竜巻が

生じて移動して何かを壊しながら吹き飛ばしていっても、あとで

「どうも、竜巻が通り過ぎていったらしい」ということが多いのや。

アイリーン:何にもない広い空間で、黒い雲が渦を巻いていくのは、ほんまに気

色悪いもんでっせ。

目先はくらくら、キリキリ舞いよ

あらし君:竜巻に吸い込まれたら、もう逃げられへんのやろなぁ。

アイリーン:アメリカでは、必ず1年に数十人が竜巻に巻き込まれて亡くなって

る。家畜や車や家までが飛ばされるのは、ほんとに恐ろしい。

あらし君:そういえば、野茂英雄投手はアメリカの大リーグで活躍してると

き、トルネード投法でボール投げてたなぁ。

アイリーン:どんな投げ方?

あらし君:振りかぶって背中が見えるまでひねりを入れてから、ボールを投

げるんや。野茂のあのボールは、すさまじい威力をもってたでぇ。

アイリーン:バッターが打席に立って野茂投手の投球を体験するのは、ハリケー

ンに巻き込まれるのと同じやね。

あらし君:え?ハリケーンに巻き込まれる気分?どんな気分?

アイリーン:胸の鼓動はどきどき、目先はくらくら負けそう負けそう、きりきり

舞いよ、きりきり舞いよ、魔球は魔球はハーリーケーン!

あらし君:どこかで聞いたことあるなぁ。

アイリーン:ピンクレディーの歌よ。

あらし君:ピンクレディー?あんた、何歳?