2017-10
文責:玉木英明
2017年 10月号 日本人の働き方を変える。政府の働き方改革
荷車をひくロバが
ロバ: あーしんど…!もう、やめた!
主人: うわ!びっくりした!ロバがしゃべった!
ロバ: しゃべったらあかんのか?
主人: そ、そやかて、今の今まで、ただの「ロバ」やったのに…
ロバ: しゃべるとやっかいやから、今まで黙ってたのや。
主人: わ、わかった。…How are you?
ロバ: あのな、英語を使ってどうするのや?
主人: そ、そやな。おい、ロバ、よろしく。
ロバ:「おい」て、えらっそやないか?
主人: ヘ、ヘイ!…ロバのくせに関西弁やな。
ロバ:「くせに」いうのが気にいらんなぁ。NHK関西弁講座で勉強したのや。
主人: そんなん、NHKにあったの?きみ、勉強家なんやねー。
ロバ: べんちゃら言いないな。働き者のぼくに、ほんまに感謝してるか?
主人: も、もちろんだよ!ロバ君、元気?
ロバ: そやから「しんどい」いうてるやろ?
主人: いや、今日はよく働いてくれたからねぇ。
ロバ: よう言うでぇ。さっき上り坂で立ち止まったら「どうした、ウスノロ!」って
どなったやないか。
主人: そ、そうやったかなぁ?
ロバ: あんた、ぼくを働かせすぎや。
主人: あれぇ?いつも、おいしいニンジン食べさせてるのに?
ロバ: いつも、いっしょにスーパーの裏に賞味期限の切れたニンジンをもらいに
行ってるやないか。
主人: そ、そうだったっけぇ?
日本政府の働き方改革
ロバ: ぼくが働き者なのをいいことに、あんた、自分は怠けてるやろ?
主人: いや、めっそうもない。そんなことございません。
ロバ: 日本政府が「働き方改革」いうのを進めてるの、知ってるか?
主人: …い、いや、よう知らん…。
ロバ: そうやろなぁ。あんたが労働環境について考えるわけがない。
主人: …きみ…ロバ君は、知ってますのか?
ロバ: もちろんや。世界中見渡しても、日本の長時間労働は突出してる。
主人: 日本人は働き者や。働き者には福来たる。
ロバ: 怠け者がよういうわ。あのな、日本人は、長い時間働く割に、成果が上がって
いないのや。
主人: …ほんまか?
ロバ: ほんまや。残業が長くて、効率的とは言えんのや。
主人: そやけど、働くことはええことや。
ロバ: 「ワークライフバランス」いうのを知ってるか?
主人: 「うわー暗い、ふんばろかー」って何や?
ロバ: どう聞いたら、そう聞こえるのや?ワーク「仕事」と、ライフ「個人の時間」の
バランスのことや。
主人: 日本人は、働き方のバランスが悪い、いうのやね?
ロバ: そうや。ずっと働いてるから個人消費が少ない。
主人: 金を、使う自由な時間がない、いうことやな。
ロバ: そう、景気停滞の原因になる。
主人: ほんで、その「働き方改革」で何をしようというのや?
ロバ: 長い時間を働かずとも、今と同じような成果を上げられるような働き方を進めよう
いうのや。
主人: 残業をなくせ、いうのか?
ロバ: ちがう、ちがう。昼の間のいらん会議を減らしたり、働く効率をあげて、5時以降の
残業を減らそう、いうのや。
主人: 手際(てぎわ)のいい人は…
ロバ: そう。そんな人は「上手に早く終わらせたごほうび」に早めに帰ることがあっても、
ええやないかというのや。
主人: あのな、残業が減ったら、困るのはきみら労働者やで。残業代がもらえなくなって、
収入が減るやないか。
ロバ: よういうわ。残業代なんか、ぼくに支払ったことないくせに。ただ、日本人は、
自分の勤務評定にひびくからという理由で、先輩より先に帰るとか、残業代が
つかないからさっさと帰るとかは、ほとんどしない。
労働人口が減って行く
主人: もっと日本人は、ちゃっちゃと働いて、仕事をうまく終われ、いうことやな。
ロバ: そうや。だから、ぼくかてサッサと運ぶから、はよ仕事を終わらせてほしいのや。
主人: …はよ帰って何するのや?くつろぐのか?
ロバ: ぼくの母親の介護が必要になってきたんや。それに、うちの子供らは4歳と8歳
なんやけど、いっしょに本を読んだり九九をおぼえさせたり、育児と教育に
しっかりと時間を使いたいのや。
主人: そんなん、奥さんに任せといたらええやないか。だいたい、日本人はしっかり
働くから、世界の中でも経済力があって…
ロバ: ぼくの奥さんかて、しっかり外で働いてる。彼女が仕事の上でやりたいことも
いっぱいあるし、逆に働く時間を半分に減らしても「家族を守らねばならない」と
いう時かてあるということや。GDPやら企業の業績ばかりでなく、国民一人一人の
生活の質が大事と、日本も気がつき始めたのや。
主人: なんで、今になって日本政府が…?
ロバ: 人口減少、とりわけ労働力人口の減少が原因や。
主人: そうか。働く人の割合がへってきたから、働き方を変えないと、どんどん
「きつい仕事」になっていく、いうこっちゃね。
雇い主の言いぶん
主人: 雇い主のぼくかて、言いたいことがあるでぇ。ロバのきみが病気しても、ケガしても、
「まあまあ仕方ないな」いうて、治るまで休ませて、ニンジンは毎日食べさせてるや
ないか?健康保険やら年金も半分出してやってるし、何より安定した収入を確保してる
わけやから、きみに銀行も金貸してくれるし、きみの社会的地位も安定してるのやろ?
ロバ: それは感謝してまっせ。ただ、その雇い主と政府がいっしょになって、根本から
考えよやないか、というのが今回の「働き方改革」や。
主人: どうせ、企業と政府の形だけの談合に終わるで。
ロバ: いや、社会の流れの方が早くて、インターネットを活用した働き方「テレワーク」
も世の中にあふれ始めた。今までの普通の「働く」という感覚が通用せんように
なってきたんや。
主人: そんなん使い出したら、メールやらスカイプやらで、いつでも仕事ができる、
せなあかん、何時でも何曜日でも働け、いうことにならへんか? 仕事が「テレワーク」
で家庭にもどんどん侵入してきたら…。
ロバ: いや、逆も言えるで。育児や教育、介護で家にいたい人が、自分の部屋からでも
インターネットでミーティングに参加できるし、自分のキャリア(専門知識の継続)を
途切れさせなくてもすむやんか。
ワーク・ライフ・バランス
主人: ワークライフバランスのとれた働き方いうのは、何が大事なんや?
ロバ: 家庭では全く仕事のことを考えたくない人もおるし、逆に、家庭でも仕事に
関わっていたいと考える人もおる。さらに、働きたいと思てても介護とか育児とかで
突然仕事場から離れなあかんようになった人もおる。全ての人たちが働く人達の
健康とか生活の満足度を優先的に考慮することがとても大事や。
主人: そうか。働き方改革いうのは、ワンパーターンですすめられへん、いうこっちゃな。
ロバ: そうや。多様な働き方を作り上げ、進めて行くことが大切や。
主人: 何にしても、雇用者と労働者のお互いが、仕事を仲立ちに、信頼を持ってつながる
ことが大切なんやな?
ロバ: そうや。そやから、まずは、ぼくの働き方改革を進めてもらおか。
主人: わ、わかった。何から手をつけようか?
ロバ: 労働時間、今みたいに夜の9時まで働くのはもうかんべんや。
主人: わ、わかった。荷物運びは、日の入りまでとしよう。
ロバ: 賃金もあげてくれんとあかん。
主人: よ、よっしゃ。ニンジンの本数を2倍に増やそう。
ロバ: 質のええニンジンにかえてや。
主人: わ、わかった。高麗人参もまぜるで。
ロバ: ウィスキーのロバートブラウンと専用のふろばが欲しいし、ひっぱる荷馬車も
イギリス製のローバーにしてほしい。
主人: よ、よっしゃ。ようけ、ロバロバいうたな。それだけか?
ロバ: 住宅は、くつろげるスペースが欲しい。
主人: お、オーケー。馬屋に干し草ソファを入れよう。
ロバ: それから、仕事が終わったあと、サイドビジネスをしてもええな?
主人: 荷物運びの他に、君は、何ができるというのや?
ロバ: 失礼やな。ぼくは、驢馬(ロバ)と馬(ウマ)と駱駝(ラクダ)の通訳ができるの
やで。
主人: ごついな。馬へんの漢字ばかりや。君は、驚くほど、かしこいロバやな…。
ロバ: そう、ビックリ・ドンキーと呼ばれてまっせ。