2015-01

文責:玉木英明

2015年1月号 逆オイルショック?原油価格の下落のゆくえは

このガソリン、もっとまけなさいよ

奥さま:なによ、この値段は!馬鹿にしてるわ!

店員 :奥さま、何をお怒りですか?

奥さま:あなた、NHKを見てないの?!

店員 :…NHKですか?見ておりますとも。黒田官兵衛、それはそれは毎週楽しみに

見ておりました。岡田准一の、あの役者としての技量ももちろんですが、

寺尾聴の徳川家康、あれもすごく良かったですね!

奥さま:そうそう、お父さんの宇野重吉とそっくりになってきたわよね!

…うおっほん、ちがうのよ!私の言いたいことは、そういうことじゃないの!

店員 :では、ためしてガッテンですか?司会の立川志の輔さんの絶妙な話しぶりが、

20年も続く人気番組の秘訣でしょうね。

奥さま:そうそう、ゲストの山瀬まみさんも、頭いい人よね!…あのね、ちがうって、

いってるでしょ!

店員 :ここはガソリンスタンドです。NHKについては、お答えしかねます。

奥さま:知ってるわよ!あのね、NHKのニュースで、原油価格がメチャクチャ下がった

って言ってたから、楽しみにガソリンスタンドに来たのに、ほとんどガソリン

の値段が下がってへんやないの!

店員 :奥さまは、関西の人だったのですね?

奥さま:ほっといて!原油の価格は1バーレル107ドルから、55ドルにまで下がった

はずよ!値段が、ほとんど半分に下がったのよ!だったらガソリンは

1リットル100円になったって、いいはずでしょ?!

シェールガスが…

店員 :奥さま、どうして原油価格がこんなに下がってきたのか、ご存知ですか?

奥さま:…し、知ってる…わよ。エポックが安売りしてるのでしょ?

店員 :OPEC(オペック)、石油輸出国機構のことですね。

奥さま:あんた、うるさいわよ。細かなことをごちゃごちゃいわないで!

店員 :実は、原油の価格が下がっているのには、大きな理由があるのです。

奥さま:…どんな理由があるっていうのよ?

店員 :アメリカのシェールガスです。あのガスの発掘に成功したせいで、世界の

エネルギー受給のバランスが、大きく変わってしまったのです。

奥さま:アメリカ?シェールガス?

店員 :そうです。ザ・タマキタイムズ2012年7月号をみてください。シェールガスの

ことについて詳しく特集してありますよ。

奥さま:アメリカのシェールガスが、何で石油の価格に影響するのよ?

店員 :アメリカは、シェールガスを掘り出せば、原油を中東から多量に輸入する

必要がなくなります。

奥さま:アメリカは、イランの石油は「もう、いらん」といってるの?

店員 :…お茶目なギャグですね。石油はまだ必要なのですが、今まで中東の産油国が

殿様商売で売ってた原油をアメリカは多量に買わなくても、自国のエネルギー

を確保できそうなのです。

奥さま:アメリカだけでしょ?気にしなくたって、いいじゃない。

店員 :いや、それが、シェールガスは、中国の地下にも大量にあることがわかって

きました。こうなると、もはや産油国は原油を「売ってやる」という態度では

いられなくなってきたのです。

奥さま:えらいことね…そりゃ、中東の国は、焦るでしょうね。

店員 :そうです。中東の国々は、エネルギー以外に売るものがほとんどありません。

だから、アメリカや中国がエネルギーを、しかも大量に自分で調達できるよう

になるのは、とても困ったことなのです。

奥さま:中東のアベックが、地下からくみ出す原油の量を減らしたら、値段が上がる

でしょ?

店員 :OPEC(オペック)石油輸出国機構ですね。

奥さま:うるさいって言ってるでしょ!あんた、細かなことを気にしすぎよ!

店員 :11月のOPEC総会で、「原油は日量3000万バーレルのまま、減産しない」と

決めたんです。おかげで原油価格はさらに落ち込んでいるのです。

奥さま:そのOPECいうのは、何カ国あるの?

店員 :12カ国です。中東のイランやサウジアラビアだけでなく、南米のベネズエラや

エクアドルも入ってます。

奥さま:シェールガスの登場で原油の値段が下がってるのに、なんでOPECは減産しない

の?

店員 :さっきも申し上げましたように、産油国の多くは売るものが石油しかありま

せん。ということは、売るものを減らしたら、まともに国に入ってくる収入が

へってしまうのです。

奥さま:そうか…。原油の産出量を減らしたら値段は上がるけど、売上数量は減って

しまう。産出量を増やしたら、値段が下がる。いたしかゆしね。

店員 :その通りです。

奥さま:それにしても、石油は限りある化石燃料でしょ?なのに値段がこんなに落ちる

のは、もっとほかにも原因があるのじゃない?

店員 :中国とヨーロッパの景気が悪くなってきたことも、原因の一つです。

奥さま:ヨーロッパは景気が悪いのは知ってるけど、中国もだめなの?

店員 :はい、経済と政治のひずみ、バブル、汚染、いろんなことがこれから起こり

そうです。

奥さま:世界は、景気が悪いのですね?

店員 :そうです。世界の経済成長率が3%以上ないと、石油の需要がのびないと

言われてます。

原油の値段が、世界経済を狂わせる

奥さま:原油の価格は、ガソリンの値段を上げ下げするだけじゃないの?

店員 :世界中の金融市場は、石油価格をすごく注意して見ています。たとえば、今、

中東の石油価格が下がったことで、北海原油、すなわちロシアの原油の価格

まで下がっています。そして、その結果、ロシアの通貨ルーブルまで大きく

下落しています。石油関連の株や債券も、投げ売りの状況です。

奥さま:…変じゃない?石油の値段が下がることは、アメリカも大歓迎でしょ?

店員 :「安い石油」を中東から買えるのなら、アメリカは自分のところでお金を

かけて「シェールガス」なんか掘り出さなくてもすみます。

奥さま:…いくらくらいの原油価格なら、アメリカはシェールガスより中東から石油を

買ったほうが安いの?

店員 :原油が1バーレル「80ドル」以上なら、シェールガスを掘り出す意味があり

ますが、それ以下の価格になってくると、シェールガスは「石油に比べて

高い燃料」になってしまうのです。

奥さま:今、原油の価格は1バーレル55ドルって言ったわね…そこまで下がると、

産油国にとっても、死活問題ねぇ。

店員 :はい、サウジアラビアでは、原油価格が90ドルを下回ると、石油を掘り出す

コストの方が高くなってしまうのです。。

奥さま:あきまへんなぁ。

店員 :そう、あきまへん。

奥さま:まねしないでよ。

金融危機の引き金になってしまう

奥さま:シェールガスの登場で、今までOPECが好きなように決めてきた原油価格を、

思い通りにできなくなってきた、ということね。

店員 :そうでんにゃ~わ。

奥さま:おっ、あんたもギャグをかますのね。

店員 :はい、私は「夢路いとし・喜味こいし」の熱烈なファンでした。

奥さま:原油価格が下がったままだと、どうなるの?

店員 :たとえば、ベネズエラは輸出品の95%が石油です。今の状態では、国が

大赤字を続けることになります。

奥さま:ということは…破産してしまいますのか?

店員 :そうです。さっき言いましたように、今、ロシアも通貨下落と、資本流出が

とまりません。ベネズエラは財政危機、デフォルトの危機がささやかれて

います。

奥さま:ロシアも…危ないのですか?

店員 :そうです。今回の原油価格の下落が世界経済の危機をもたらすのです。

「逆オイルショック」とも呼ばれ始めています。

どうする、日本?

奥さま:うっふっふ…おっほっほ…ほ~っほっほ!

店員 :あの、突然、どうなさいました?みんながこっちを見てますが…。

奥さま:原油の値段が下がってること、よくわかったわ。あのね、ガソリンスタンドの

兄ちゃん、やっぱりガソリンの代金を、まけてくれなきゃ。

店員 :それが、負けられないんです。

奥さま:どうしてよ!怒るわよ!

店員 :確かに原油の値段は下がっています。でも、奥さんもご存知でしょ、今、

ものすごい円安なんです。

奥さま:円安?

店員 :そうです。燃料が安くなったのと同じくらい、円の価値が下がってしまったの

です。たくさんお金を払わないと、石油を買えないのです。

奥さま:あかん…あかんがな…。

店員 :こんどは泣かないでください。ほら、みんな、私が奥様を泣かせてると思って

こっちを見てるじゃないですか!

奥さま:日本は…日本はどうなるのですか?

店員 :今の原油安の状態は、製造業にとってはチャンスです。このチャンスを

活かして製品の質を高め、新しい技術の開拓を行わねばなりません。

ただ、同時に政府は、行き過ぎの円安に歯止めをかけなければなりません。

奥さま:私は…私はどうすればよいのですか?

店員 :一番高いハイオクタン・ガソリンを、奥様の車に満タンにいれて、

後ろで待っている人たちに、一刻も早く順番を回してあげることが急務です。