2017-12
文責:玉木英明
2017年 12月号 がんばれペロブスカイト!ニッポン発の塗る次世代・太陽電池
少年と犬が…
少年: パトラッシュ、おいで!
犬 : ワンワン!
少年: パトラッシュ、ぼくは、きっとりっぱな画家になるからね!
犬 : ワンワン!ワンワワンワン!
少年: あれ?パトラッシュの鳴き方は、日本語なんだね?
犬 : ワンワン…バウバウバウ!
少年: そうそう、そうこなきゃ。 ところで、ぼくの絵、上手だと思う?
犬 : バウバウ、ババウバババウ、バウ!
少年: あっはっは、そうかい、そうかい。
犬 : バウバウバウウウ、バウバウ?
少年: あのね、読者がわからないよ。いつも使う玉木の自動翻訳機を使おうか。
犬 : バウバウババウ…おじゃましまんにゃーわ。
少年: この翻訳機、やっぱり関西弁、しかも古い吉本新喜劇のギャグに翻訳するのだね?
犬 : ごめんやしておくれやしてごめんやっしゃー!
少年: わかった、わかった、今日も絶好調だね。
犬 : ぼくの名前はパトラッシュ。名犬ラッシーや名犬ジョリーほどおりこうさんでは
ないかも知れないし、渋谷駅で飼い主を待ち続けるハチ公ほど忠実でないかも
知れんけど、教会のルーベンスの絵の前で天にめされる運命のぼくは、南極に
置き去りにされたタロとジロより幸せや。アメリカの名犬リンチンチンと比べると…
少年: わかった、わかった、パトラッシュ。君はおしゃべりなんだね。それに、出てくる
犬が、ちょっと古いよ。
新しい絵の具
少年: パトラッシュ、ぼくはどうして貧しいんだろう?
犬 : 絵書きなんて、いつの世も貧しいもんや。気にしたらあかんで。
少年: 関西弁で言われると、なぜか気が楽になるね。
犬 : ちょっと新しい絵の具を使てみまへんか?
少年: 新しい絵の具?
犬 : そうや。ペロブスカイトいう塗料やがな。
少年: ペロ・ブス・カイト…?ペロっとなめて、ブスッとさして、かゆいの?
犬 : どう聞いたら、そうなるのや?あのな、ペロブスカイトいうたら、特殊な結晶
構造をもつ塗料で、太陽電池として発電できるのや。桐蔭横浜大学の宮坂さんが
発見したんや。
少年: そんな塗料で、しっかりと発電なんかできるの?
犬 : いやそれが、東京大学の先端科学技術研究センターが、電力への変換効率が
21.6%いうごついペロブスカイトを開発したのや。それも、競争してるアメリカや
韓国の研究より先にや!
少年: パトラッシュ、大きな声を出さないで。それに、つばが飛んでるよ。
犬 : これが、大声をださずにおられまっか!
少年: 今、ぼくたちが、普通に使ってる太陽光パネルの変換効率って、どれくらいなの?
犬 : 24%ほどや。
少年: ということは、この塗料は、今の太陽光パネルとほとんど同じレベルにまで性能が
高いということなんだね?これはノーベル賞に値するね!
犬 : そうやがな、そうやがな、そうやがな。
少年: パトラッシュ、君の夢路いとし・喜味こいしのギャグ、ちょっと古いね。
犬 : ほっといてんか。それに、これは中田ダイマル・ラケットのギャグや。
間違えんといて。
少年: すんまへん。
どんな形でも発電OK、夢の塗料
犬 : ペロブスカイトは、変換効率が高いだけやない。材料そのものが安い。
塗るだけやから、軽い。
少年: 表面に塗るだけで、ほんとに太陽電池になるの?
犬 : そうや。表面が曲面であろうと複雑な形であろうと、塗って導線をつければ
電気をつくることができるのや。
少年: ということは、建物の外壁に塗ったら…
犬 : そう、ビル全体を太陽電池にできますのや。
少年: 窓ガラスにも塗れるの?
犬 : もちろんや。色を薄くして半透明にしてガラスに塗れば、光をとりこみながら
発電かてできるようにもなる。
少年: 窓全体が発電パネル?
犬 : そうや。自動車なら、車体全体が太陽電池になるでぇ。
少年: フニャフニャ曲がるもの、たとえば下敷きみたいなものとか、布にも塗れるの?
犬 : 大丈夫や。傘とかテントとかに塗っておいたら、広げた時に発電機になる。
少年: 服にぬったら…
犬 : 発電できる服、すなわち光ったり熱を出したりする服を作れる。
少年: そんなジャケットを着てオートバイに乗ったら…。
犬 : そう、太陽が出てれば、冬でも暖かい。
少年: 冬山で遭難した人は…。
犬 : 昼間は吹雪の中でもポカポカや。LEDの発光体を埋めておいたら服が光る。
捜索隊がすぐに発見できるで。
少年: パトラッシュ!すごいやないか!ごついやないか!はよ、使いたいでぇ!
犬 : ネロ、あんたも関西弁使いますのやな?
少年: いや、感動するとなまるんだ。
日本が最初に実用化できるか
犬 : ペロブスカイトの課題は、耐久性や。
少年: パトラッシュ、犬にお願いするのは情けないのだけれど、ぼくがわかるように
説明して。
犬 : あのな、この発電塗料は有機物やから、今のところ高温に弱いのや。
少年: なるほど。屋根の上では、すぐにダメになるということだね?
犬 : そうや。さらに、空気中の酸素とか湿気による劣化も早い。
少年: 劣化を止める材料を見つけなければいけないということか…。
犬 : その通りや。ただ、克服せなあかん課題がはっきりしてる。世界の研究者が
競い合うように開発を加速させてるから、実用化の日は近いでっせ。
少年: ということは、ぼくが、その塗料で絵を描けば…
犬 : その絵は、「電力を生み出す絵画」として売れるやろね。
少年: いや、発表の仕方を考えよう。「エネルギーのわく絵」と呼べば、多くの人に
知られるかもね。
犬 : 電流を生む「ビリビリ油絵」なんてのはどうでっか?
少年: 何かの大道芸か、見せ物みたいだね。
犬 : さわると熱い「ホットピクチャー」って名前、どないや?
少年: いや、それより大聖堂の絵を、ぼくがこの塗料で書けば…
犬 : 大聖堂の絵を?
少年: そう、そしてその発電する電力で、絵の前にホットカーペットを置くんだ。
犬 : ホットカーペット?
少年: クリスマス・イブが楽しみだよ。
犬 : どうなりまんのや?
少年: フランダースの犬の、ぼくらの最後、かわいそうな部分を、書き換えよう
じゃないか。
「ネロは大聖堂の絵の前で、
愛犬パトラッシュを固くだきしめて、
ほかほかのホットカーペットの上で
幸せに眠りました。」