2019-11

文責:玉木英明

2019年 11月号 変わる音楽の聴き方。若き音楽家が活躍できる社会とは

腰痛の若者が…

若者: あった、あった。

       みんなが怪しいとうわさしてる、「歌で腰痛を治す」整骨院だ。

歌手: うわさを信じちゃいけないよ~!

若者: うわっ!びっくり!女性が突然、歌いながら出てきたぞ!

歌手: うらら、うらら、うらうらで~

若者: 裏にまわれというの?

歌手: どこにもあるよな手じゃだめよ~

若者: そりゃ、治ればうれしいけれど…。

歌手: 見ててごらん、この私~

若者: 催眠療法?

歌手: いまに~のるわ、玉のこし~

若者: え?いまに治るわ、玉木の腰?

いくら払えというの?

歌手: ふところがじんじんしびれてみたい~

若者: 1万円くらい?

歌手: それじゃまだ燃えないわ、あきらめて~

若者: えぇ?そんなに高い費用なの?もう帰るよ!

歌手: にーがさない~

若者: うわっ、ひっぱらないで!

歌手: パッと、ねらいうち~

レコード全盛、昭和の歌

若者: タマキタイムズには、驚くほど古い人たちが登場するなぁ。著者の趣味だね。

歌手: ほっといてちょうだい。私の整骨院では、治療に昭和の歌をとりいれてるのよ。

若者: 「令和」だというのに、「昭和」にこだわるの?

歌手: 昭和の歌には、郷愁があるわ。趣があるわ。玉木のホームページで昭和の部屋に行ってみて。

若者: あなたはもしかして、昭和の時代のスター?

歌手: そうよ。レコードの売り上げは、全部ふくめると100万枚以上売れたわ。

若者: レコードって何ですか?

歌手: バカなこと聞かないで。丸い円盤に溝がほってあって、その溝を針でひっかいて

出た音を電気的に増幅して…

若者: CD…とはちがうのですね?

歌手: あのね、レコードはきけばきくほどすり減っていくのが素敵よ!針をレコード盤の溝に

置いたときに、シュワシュワいう雑音がはいるのが、たまらなくアナログで心地よくて、

ぞくぞくするわ!

若者: 大きな声をださないでください。つばが飛んでます。

歌手: 昭和の時代、流行歌はレコードで買ったものよ。若者達はレコードを買うのが

もったいないから、はがきにリクエストを書いてラジオ番組で放送してもらうのよ!

わたしの歌なんか、土曜日の昼、不二家歌謡ベストテンでロイ・ジェームスの

流ちょうな日本語で、何度紹介されたことか…。

若者: 一度にたくさんしゃべりましたね。さっきも言ったように、つばが飛んでます。

歌手: それなのに…。

若者: それなのに?

CDは買わない?

歌手: 音楽に関わる人たちが、生活ができなくなってきたの。

若者: どういうことですか?

歌手: あなたたち、音楽を聴くのにCDを買う?

若者: 買いません。だってCDプレーヤーは持ってないもの。

歌手: じゃ、何を使って音楽をきくの?

若者: スマホですよ。ダウンロードして聴くのです。

歌手: 1曲ずつ買うの?

若者: いいえ、いまは「サブスクリプション」で聴いてます。

歌手: サブちゃんのハクション?北島三郎のくしゃみかしら?

若者: どう聞いたら、そう聞こえるのですか?お金をいくらか払うと、音楽を何万曲でも

聴き放題で聴けるサービスのことです。

歌手: そうそう、それよ。そのサブちゃんのくしゃみのせいで、音楽でお金を手に入れることが

難しくなってしまったのよ。

若者: 歌手はお金持ちでしょ?

歌手: レコードが1曲500円、CD一枚が3,000円で売れた時代は、確かに10万枚も売れれば、

歌手は大金を手にできたわ。でも今は…

定額・音楽聞き放題

歌手: あなたがスマホで加入してる「定額で音楽聴き放題」は、1ヶ月いくら?

若者: 1,000円もかかりません。

歌手: それで何万曲も聴けるのでしょ?ということは、1曲の収益はいくらくらいだと思う?

若者: …いくらくらいですか?

歌手: 1曲1円ほどなのよ。

若者: じゃ、歌手の手元に入るのは…

歌手: その1%ほどだから、0.01円ほどよ。

若者: え?そんなに少ないの?

歌手: そうよ。

若者: ということは、100万回再生された曲でも、ミュージシャンの手にはいるお金は…

歌手: 1万円ほどね。

若者: …すずめの涙ですね。

歌手: そう。だからミュージシャンたち、特に若い人たちは、もはや生活できなくなってるの。

食べていけない若いミュージシャン

若者: 今、日本でサブスクリプションで音楽を聴く人数は、どれくらいですか。

歌手: 2000万人ほどよ。

若者: ということは、国民の6分の1ほどですね。

歌手: 日本の高齢の人たちは昔買ったCDを聴く傾向が強いし、違法に「無料」で

音楽を手に入れて、正規に音楽を買わない若者も多くいるのよ。

若者: サブスクリプションのせいで、歌手はみんな貧乏になっているのですか?

歌手: いいえ。昔から売れた曲を多くもっている人とか、カラオケなどで再生回数の多い曲を

持っいる人は、逆に大金持ちよ。

若者: ということは、駆け出したばかりの若手のミュージシャンは…

歌手: 食べていけないわ。

若者: 若いミュージシャンたちが、お金を得るにはどうすればいいのですか?

歌手: You Tubeで話題になって、とにかく一曲覚えてもらって、それをもとにライブを開いて

その入場券でお金を得るしかないわ。

若者: 女の子の「アイドルグループ」がCDに「握手券」なんてのをつけて売って、

ライブ会場でおたく系の人たとの握手するのも、お金を得る方法の一つだったのですね?

歌手: 逆に、おばさまたちに人気の高い熟年男性歌手が、40年前の歌を「さよなら~」って

歌えば、コンサートのチケットはネットでとたんに完売よ。

若者: なるほど。知られていない歌手、新たに参入しようという歌手ほど、不利な状況ですね。

サブスクリプションの課題

若者: 若手アーティストが音楽で生活できなければ、音楽界に足を踏み入れようとする

若い人たちは、どんどん少なくなっていくでしょうね。

歌手: そのとおり。音楽会社も「稼げない歌手」とは短期間で契約を切っていくから、

両方で悪循環ね。

若者: どうしたらいいのでしょうか。

歌手: まず、CDやレコードを作る必要がなくなったのだから、音楽が世に出て得られた印税を、

もっと作詞家や作曲家、歌手に大きく分配する必要があるわね。

若者: 逆に、今のサブスクリプションに何人くらい登録すれば、アーティストたちはふつうに

生活していけるのですか?

歌手: 日本では、あと3000万人いれば、ようやく「とんとん」になるといわれているわ。

音楽を無料で聴くことの罪

若者: 話題の曲をYOU TUBEで無料で聴けることは、ありがたいですよね。

歌手: そう、PV(プロモーションビデオ)で歌自体を覚えてもらうことは、可能よね。

若者: でも歌や演奏が、「無料」でいいわけはないですよね。

歌手: 無料ダウンロードを当たり前としている人たちは、音楽や映像、芸術を作り出す人たちに

対して失礼で罪なことをしていることに、早く気がつくべきね。

若者: 違法ダウンロードに対する法整備を、外国はどうしているのですか?

歌手: EUでは、ネット上で違法ダウンロードサイトをのせたところが大きく罰せられるわ。

若者: それは有効ですね。

歌手: さらに、BBC(英国放送協会)などは「若手アーティストを育てるため」に

「昼間に放送する曲の50パーセントを新人の音楽にする」と決めて、

それを監視するOff Com という機関まで設置してるわ。

若者: すごい!国をあげて、若いアーティスト達を保護しているのですね。

若い芽を育てる

若者: 「定額で音楽聴き放題」に加入してから、韓国やカザフスタンの音楽を聴くのが

おもしろいと思うようになりました。

歌手: そう、音楽を聞く側にとっては、いい時代ね。

若者: どういう方向に、サブスクリプションのひずみを是正すべきなのでしょうか。

歌手: 「若い芽を育てる」ことに集中すべきね。

若者: 若いミュージシャンたちが、力を発揮できる環境が、音楽の世界には必要ですね。

歌手: 音楽だけじゃないわよ。マンガも「無料」で世に出回っているでしょう?

若者: そうか、するとマンガを書くアニメーターたちも、同じような境遇にさらされて

いるわけですね。

歌手: その通りよ。次の若い力を大切に守ることこそ、私達が急いで考えるべき課題よ。

若者: この社会の急速な流れは…

歌手: もう、どうにもとまらない。

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