2017-04

文責:玉木英明

2017年 4月号 生涯はたらきたい、働けるなら。何歳からが高齢者?

姥捨て山(うばすてやま)

母 : 息子や、わたしを背負って歩いてくれて、ありがとう。

息子: 母さん、礼など言わないでください。殿様の命令とはいえ、私は母さんを

姥捨て山につれて行くのですから。

母 : 息子や、体を大切にして、家族を守ってやっておくれ。

息子: 母さん、私は無念です。

母 : 手をのばして、道ばたの枝を折ってきたから、帰り道は迷わんようにな。

息子: …母さん!

母 : そんなに悲しい声を出すな。さあ、もう少し楽しい話をしよう。

昨日のわたしの60歳の誕生日パーティーは、楽しかったのぅ。

息子: そうですね。母さんの歌った山口百恵の歌、ノリノリでしたね。

母 : そうじゃ。百恵ちゃんの「プレイバックpart2」は特に大好きじゃったよ。

息子: 訳すと「やり直し・その2」ってところですか? プレイバックpart2ってな何だ

母 : ふふっ、そんなとこかのう。桜田淳子、森昌子の歌も、わたしは全部歌えるよ。

息子: 花の中学3年生トリオですね。今の小中学生は全く知らないでしょうね。

母 : ピンクレディーとキャンディーズなどは、わたしは踊りもできるのじゃよ。

息子: でも、母さんの好きな歌手たちは、みんな…。

母 : そう、みんな、60歳じゃ。

息子: …ということは…。

母 : そう。そういうことじゃ。

息子: …みんな…いなくなってしまうのですね。

母 : そう、みんな姥捨て山につれていかれて、捨てられる運命じゃ。

減り始めた日本の人口。しかも若者から

息子: 60歳になったら、老人を捨てろなんて…。何てひどい…。

母 : 息子や、我が国の人口調査の結果を、知っておるか?

息子: 日本の人口が1億2700万人から、減りはじめたということですね?

母 : そうじゃ。人が少なくなれば国の勢いが弱まり、競争力も小さくなる。

しかも、人口の減っている年齢層が問題じゃ。

息子: え?…減っているのは…

母 : ああ、「若い世代」じゃ。

何歳からが「高齢者」か

息子: 母さん、そもそも何で殿様は、姥捨て山へ行くのを「60歳」と決めたの

でしょうか?

母 : 戦前、1940年代に年金制度が始まったころは、年金支給年齢は55歳だった

のじゃよ。

息子: ということは、55歳が「定年」だったわけですね。

母 : サザエさんの家の波平さんは何歳か知っておるか?

息子: ええと…

母 : 54歳じゃ。定年まであと1年という設定じゃ。

息子: え?…そんなに若いのですか?

母 : そうじゃよ。ほんの30年ほど前まで、日本では老人になる年齢が、ずいぶん

低かったのじゃ。

息子: もしも当時のまま、55歳を年金の支給年齢にしたら…

母 : えらいことになる。

息子: どないなりまんのや?

母 : 息子や、おまえは関西弁を使っておったかのぅ?

息子: 動転すると、なぜか、なまるのです。

母 : 日本の人口の真ん中の年齢は、現在46歳じゃが、これが2040年ころには

55歳になる。

息子: ということは…。

母 : そう、もしも当時のまま55歳を年金の支給年齢にしていたら、2040年には

国民の半分で、残りの半分を養うことになるのじゃよ。

息子: …あきまへんがな。

母 : そう、あきまへん。

息子: まねせんとって。

母 : すんまへん。

「高齢者」の定義をかえれば

息子: 母さん、日本の国民にとって「高齢者」とは何歳からなのでしょうか。

母 : 内閣府が国民にアンケートで「高齢者と思う年齢」を調査したんじゃ。

息子: 母さん、よくご存知ですね。何歳でしたか?

母 : 70歳じゃった。しかも、さらに興味深いことがわかった。

息子: 興味深いこと?

母 : 年齢の高い人ほど、「老人」と思う年齢が高いのじゃ。

息子: 母さん、それはどういう意味ですか?

母 : 年齢の高い人ほど、「自分はまだ老人ではない」と思っているのじゃよ。

息子: 気丈な人が多くなったということですか?

母 : いや、国民の健康状態が改善されて、肉体年齢が若くなったのじゃ。

息子: 母さん、外国の人と比べると、日本人は若いのですか?それとも年寄りなの

ですか?

母 : OECD(経済協力開発機構)の先進35か国が「国際成人力調査」というのをやった

んじゃ。

息子: 母さん、本当にいろんなことをご存知ですね。それは何ですか?

母 : 日本人の50代後半から60代前半の人たちの読解力とか、数的能力、知識、学力を

調べたんじゃよ。

息子: ど、ど、どないなりました?

母 : ナマりにドモりが加わったのぅ。日本の50~60代の人たちの能力は、OECD先進国

の40代の人たちの能力に劣らないことがわかったのじゃよ。

寿命から逆算して「高齢者」を定めれば…

息子: 母さん、「高齢者」を寿命から逆算しては、どうでしょう。

母 : いい方法じゃのう。1955年の55歳の人と同じ余命の人は、1980年では69歳、2004年

では74歳と計算されておる。

息子: なるほど。ということは戦後のイメージと同じ「高齢者」は、現代なら74歳以上と

いうことですね。

母 : そうじゃよ。ここ半世紀で日本人の寿命が30年も増えたことは、2016年のザ・

タマキタイムズ10月号で、もう一度勉強すべきじゃ。

息子: はい、フェイスブックで、もう一度読んでみます。

母 : そして読んだら、「いいね」もするのじゃぞ。

息子: もちろんです。ところで母さん、今たとえば65歳を「高齢者」とすると、一人の

老人を、何人の働く人で支えていることになるのですか?

母 : 2.3人じゃよ。

息子: 2025年になったら?

母 : 1.94人じゃよ。

息子: 2035年になったら?

母 : 1.7人じゃよ。

息子: 2045年になったら?

母 : 1.39人じゃ。

息子: …ということは、あと30年もしたら、一人の老人を、ほとんど一人の若者が支えて

いることになるじゃないですか。

母 : そのとおりじゃよ。

高齢者、一律に決めねばならぬもの?

息子: 母さん、逆からきいてもいいですか?

母 : ああ、いいよ。姥捨て山の道のりは長い。

息子: もし今と同じ2.3人で一人の老人を支える社会を維持しようとするならば、何歳

以上を「高齢者」にしていけばいいのでしょうか。

母 : 2045年で72歳じゃ。

息子: ということは、会社の「定年」を72歳にすればいいということですね?

母 : 息子よ、その通りだ。

息子: そもそも、年齢で人の「老い」を考えて、いいものなんでしょうか?

母 : そう、そこじゃ。一律に人間の「賞味期限」のようなものを決める必要がない

ことを、社会が一体になって考えなければいけない。いつまでも人が学び、働き、

活躍する場がある社会を作り出さねばと、私は思うのじゃ。

姥捨て山に…

息子: 母さん、「60歳で姥捨て山」のおふれを殿様に撤回していただきましょう!

母 : いや息子よ、もっといい方法がある。どうだ、私と組んでみぬか?

息子: 母さん、力みなぎってきましたね。いいですよ。何でもやりましょう。

母 : よし息子、背中から私をおろせ。姥捨て山に私達が住めばいいんじゃろう?大きな

老人施設を作るんじゃ。名称はU-Baste(ユー・バステ)、60歳以上の老人が、

今まで身に付けた知恵と能力で生きる施設じゃ。

息子: 母さん、スペイン語のような響きの施設ですね。

母 : 60歳でここに置き去りにされた人達みんなで協力し合うのじゃ!原辰徳と、山下泰

裕が運営するのは、温泉とフィットネス・ジムの合体した施設Ji-Ba(ジーバ)、

それにカラオケクラブStar・Tanjong(スター・タンジョー)はさっきの中学3年生

トリオ、演歌喫茶Am-Agigoe(アム・アギゴエ)は、石川さゆりに来てもらうの

じゃ。

息子: 母さん、こんどはアジア系の名称ですね。

母 : ダンスホールU-Four(ユー・フォー)はピンクレディーの二人に、ミュージカル

クラブTack-Arouzukker(タカラズッカー)は、大地真央、小柳ルミ子に運営を

まかせるんじゃ。

母 : 姥捨て山にみんなが来たくなる、60歳が待ち遠しくなる施設ですね。でも、費用も

かなり必要になりますね。

母 : みんなにフェイスブックでクラウド・ファンディングを呼びかけるんじゃ!60歳に

なる孫正義にお願いしてみよう。ようし息子よ、私たちの第二の巻き返しの人生、

このプロジェクトに壮大な名前をつけるぞよ!

息子: 母さんの第二の巻き返しの人生…素敵じゃないですか。何て名前にするのですか?

母 : プレイバックpart2じゃ。

ザ・タマキタイムズ トップへ