2017-07

2017年 7月号 原付バイクが消える?排ガス規制と極小50ccエンジン

文責:玉木英明 

仮面のライダーが…。

ライダー: ふっふっふ…私は、この日を待っていた。そう、バイク購入の日だ。

もう少しのしんぼうだ。待っていろ、ショッカー!

バイク屋: あれあれ、またあの妙な人が来ましたで。

ライダー: へん・しん!…トゥッ!

バイク屋: あっ、あぶない!歩道橋の中段から跳んだ!…ああ、こけた…。

ライダー: いたたた…。腰をうった…

バイク屋: 大丈夫ですか?

ライダー: うむ、今のジャンプは、見なかったことにしてくれ。

バイク屋: おじさん、その格好で歩いてきたのですか?

ライダー: 電車に乗ってきた。それから、私を「おじさん」と呼ぶな。

バイク屋: 何と呼べばええのですか?

ライダー: ふっふっふ…。ライダー・キックといえば?

バイク屋: 月光仮面…かな?

ライダー: そんな白黒テレビ時代のヒーローじゃない!

バイク屋: じゃ、七色仮面(なないろかめん)?隠密剣士(おんみつけんし)?それとも、

鞍馬天狗(くらまてんぐ)? 

ライダー: あのな、ふりがながないと中高生がわからないヒーローから、はなれろ。

バイク屋: 怪傑ハリマオ?

ライダー: …あのな、さらに古い時代にもどるな!

バイク屋: 知ってますがな、仮面のライダーさん。

ライダー: なんだ、知ってるんなら、最初からそう言ってくれ。意地悪なやつだ。

バイク屋: …あんた、タマキタイムズ2014年11月号でも、うちに来たでしょう?

ライダー: おう、覚えていてくれたか。

バイク屋: その格好で、電車に乗ってうちの店に来るのは、あんたしかおりまへんがな。

日本から原付が消える

バイク屋: 前回は、定年退職をむかえたばかりの日でしたなぁ。

ライダー: ああ、そうだ。あれから苦節2年半、やっとバイクの免許をとったのだ。

バイク屋: …2年半もかかりましたんか?

ライダー: そうだ。文句あるか?

バイク屋: い、いえ、すばらしいことです。

ライダー: そうとも、そうとも。よし、今日こそはオートバイを買って帰るぞ。

バイク屋: ありがとうございます。さあ、どんなバイクをご用意しましょうか?

ライダー: 私が2年半かかってとった免許「原付」で買える最高のやつがほしい。

バイク屋: …2年半もかかって「原付」をとったのですね?

ライダー: そうだ。文句あるか?

バイク屋: い、いえ、すばらしいことです。

ライダー: そうだろう、そうだろう。よし、私のスタイルにピタリのバイクをくれ。

バイク屋: は、はい、どんな…

ライダー: ホンダ・モンキーはどうだ?

バイク屋: 仮面ライダーが、ホンダ・モンキー…。

ライダー: そうだ。文句あるか?

バイク屋: い、いえ、ちょっと、かわいすぎるかなぁーって思いました。

ライダー: …ならば、もっと大きくて、スタイリッシュなバイクにしよう。

「スーパー・カブ」ならどうだ?

バイク屋: お客様、いや、仮面ライダーさん、実は…。

ライダー: 私には、売れぬというのか?

バイク屋: いいえ、ちがいます。実は、50ccの原付バイクは…もう消えてしまう運命

なのです。

排気ガスを「無視」できない

ライダー: なんだと!そんな、ばかな話があるものか!2年半もかかって、私は「原付」

免許をとったのだぞ!あこがれの自動二輪免許にダイレクトにつながる、あの

原動機付第一種免許だ!

バイク屋: 大きな声は出さないでください。店の前を通る人がびっくりしてまっせ。

それに、つばが飛んでます。

ライダー: これが、おこらずにいられようか!なんでだ!どうしてだ!責任者よんでこい!

バイク屋: ぼやき漫才みたいになってきましたな。ほんで、つば、飛んでます。

ライダー: 50ccのバイクが消えるなんて…どうして…。

バイク屋: こんどは、泣かんといてください。実は、排気ガス規制に「原付」が対応でき

なくなってしまったのです。

バイクの排ガス。目をつぶってもらってた

ライダー: あのな、2000ccの排気量の車と比べても、50ccのバイクは、40分の1の排気量

しかないだろ?多少、排気がよごれていても、気にしなくていいじゃないか。

バイク屋: そう、自動車の排ガスは、1976年と78年にすごく規制が厳しくなりましたが、

その時もバイクの排ガス規制は、見のがしてもらったのです。

ライダー: 見のがしてもらった?

バイク屋: そうです。1999年までは、2サイクルエンジンでもクリアできるほど、バイクの

排気ガスは、緩やかな規制だったのです。

ライダー: 2サイクル…エンジンってなんだ?

バイク屋: バルブがなく構造が単純で、今でもエンジン付き草刈り機やチェンソーなどに

使われています。

ライダー: おう、あの、青くて、くさい煙をはくエンジンだな?

バイク屋: そうです。あんな「排気ガス」が出ていても、バイクは「大目」にみてもらって

いたのです。

極小エンジンがパワーがあったのは…

ライダー: ちょ、ちょ、ちょっと聞きまっせ。

バイク屋: 仮面のライダーさん、あんたも、関西人やったのですね?

ライダー: いや、動揺すると、なまるのだ。世界の中で「普通のバイク」とは何ccくらい

なのだ?

バイク屋: 東南アジアでは、125ccくらいが主流になっています。

ライダー: ということは、50ccのバイクは、日本にしかないのか?

バイク屋: はい、日本だけに存在する、極小エンジンなのです。

ライダー: 車のエンジンでできる排ガス浄化だ。バイクでもできるだろ?

バイク屋: 簡単にいうと、50ccのエンジンは排気の質を無視して「無理に」力を絞り出して

いたのです。

ライダー: どういうことだ?

バイク屋: 出力をあげるために50ccエンジンでは、吸気と排気のバルブをかまわず開け、

燃焼室にしっかり混合気を満たして火をつけているのです。

ライダー: ほう。パワー優先というわけだな。

バイク屋: そうです。でも、こうすると、どうしても燃料と空気が「未燃焼」のまま排気に

混ざってしまいます。

ライダー: 炭化水素(HC)が排出されてしまうわけか?

バイク屋: そうです。さらに、パワーを得るために、空気に対して多めの量のガソリンを

燃やすのです。

ライダー: なるほど。すると空気が少ないから一酸化炭素(CO)が出るわけだな?

バイク屋: そのとおりです。炭化水素(HC)も一酸化炭素(CO)も「大目」に見てくれた

おかげで、50ccの小さいエンジンでもあれだけ力が出たのです。

ライダー: …有害な排気ガスを、何パーセント削減すればいいのだ?

バイク屋: 一酸化炭素(CO)で85%、炭化水素(HC)で75%です。

ライダー: なんだ、一酸化炭素を15%減らせばいいのか?

バイク屋: いえ、85%削減して、15%にするのです。

ライダー: えげつない量やないか。それは、いつから…?

バイク屋: 新型車は昨年10月1日から、継続生産車は今年7月1日からです。

ライダー: だから、ホンダ・モンキーも7月1日からは「新車」がなくなるのだな?

バイク屋: はい、1700ccの排気量のV-Max まで、日本の単車の多くが消えます。

ライダー: …あかんやないか。

バイク屋: …あきまへん。

ライダー: まねせんとって。

安価だからこそ価値がある

ライダー: 排ガス規制をクリアできる50ccエンジンはできんのか?

バイク屋: 精密な吸気量と、コンピューター制御の燃料インジェクション、さらにCO削減の

ための触媒を使えば、車と同じようにクリアになります。

ライダー: おう、それなら、原付バイクもそうすれば、いいじゃないか?

バイク屋: 触媒はプラチナのような貴金属を使用します。さらに排ガスの異常検知装置も

必要です。吸排気が調整された力のないエンジンで高価です。さらに2020年には

EURO5という、さらに厳しい規制も予定されています。

ライダー: いっぺんに、しゃべったな。いくら出せばその原付、買えるのだ?

バイク屋: いまのままの台数が売れるとして、50~60万円ほどでしょうか。

上海。すべて電動バイク

  ライダー:中国の上海は、すごい量の電動バイクが走ってるって、ほんとうか?

バイク屋:はい、ほとんど「電動バイク」です。日本より確実に進化しています。

ライダー:ショッキングな話だ。そんなに中国は充電スタンドが整っているということか?

バイク屋:いいえ、スクーターの足元にバッテリーがあって、それをはずして家のコンセントで

          充電するのです。

ライダー:電動バイクって、力がないだろ?

バイク屋:いや、大きなリヤカーも引っ張っていますよ。構造がシンプルで、古いバイクや自転車の

          ホイルをモーター付きに代えて、電気式のアクセルをつけるだけです。ですから上海

          では、新しいスクーターはもちろん、古いサビサビ自転車まで「電動バイク」に変身

          しています。

ライダー:ホンダとヤマハが手を結んで、原付バイクを作るってのは本当か?

バイク屋:はい、さらに郵便の配達は、すべて「電動バイク」にかわります。

ライダー:ショックな話だ。私の「原付」免許で乗れる、エンジン付きバイクは…。

バイク屋:確実に、なくなります。

ライダー:ううう…ショックで胸が苦しい。ここ1~2年で、日本の二輪車をとりまく環境が、

          劇的にショッキングに変わるということなのか。…なぁ、バイク屋のおやじ、

          この未曽有の衝撃、いったい、誰のしわざだ?

バイク屋:「ショッカー」のしわざです。