2014-01
文:玉木英明
2014年 1月号 鶴は千年、亀は万年。本当にそんなに生きるの?
鶴と亀。おめでたいペア。
つる :ちょっと!あんた!
カメ :なーんだぃ~?ぼくのことを~、よんだ~?
つる :ええ、呼んだわよ。あなたが「カメ」ね?
カメ :そう、僕は「かめ」、サッカーはもちろんカメルーンのファンで、
タートルネック・ボーイと呼んでくれても、カメへんよ。
つる :…おもしろくないわよ。そんな自己紹介しても、笑わないんだから。
カメ :♪もっしもっしカッメよぉ~、カッメさ~んよぉ~♫
つる :びっくりするじゃないの!急に何を歌いだすの?
カメ :仮面ライダー、仮面ライダー、ライダー、ライダー♬
つる :ええい、うるさい。すこしだまって!
カメ :ご機嫌斜めですね。おっ!あなたは…もしかして、ツルちゃん!
つる :あのね、やめていただけない、その呼び方。優雅な私のイメージが崩れ
るじゃないの!
カメ :まあ、おこりなさんな。ウフ!僕と君とは永遠さ。かめない、かめます
かめる、かめるとき、かめば、かめ!
つる :…。なによ?知らないとでもおもってるの?国語の時間に習ったわ。
わたしだって、知ってるわ、そんなの。
「つー、つー、つる、つる、つれ、てよ!」
カメ :うれしいなぁ。鶴のおねえちゃん、仲良くしましょう!
つる :あなたねぇ、私といっしょに、縁起のいいものとして扱われて、いい気
になってない?
カメ :きみ~と僕は、きみ~とぼくは、二人でひとぉ~つぅ~♪
つる :…まったく、古い歌ね。そんな「にしきのあきら」の歌、50代の人しか
知らないわよ。
カメ :鶴と亀は、長寿のしるし、結婚式でも金婚式でも、重宝される永遠の
ペアさ。
歩みが遅いのは…
つる :まったく、なんで、私がこんなノロマといっしょにされなきゃならない
のか、理解に苦しむわ。鶴といえば、スマートで背が高くて、それでい
て上品で華奢(きゃしゃ)で、羽を抜いて布を織って、おじいさんと
おばあさんに恩返しをする、心あたたかな鳥類よ。日本航空のマークに
も使われるほど素敵な、日本を代表するファースト・バードよ!
カメ :よう、しゃべるヒト、いやトリやなぁ。
つる :それに比べて、あなたはどうよ。遅い、のろい、カッコ悪い、住んでる
ところは沼か池、臆病者で、ハ虫類。ウサギとの競争でも足蹴(あしげ)
にされて、いじめられてたところを浦島太郎に助けてもらったものだか
ら、彼のアッシー君にされてたことなんか、みんな知ってるんだから。
カメ :…うっ…うっ…。そんなに…むちゃくちゃ言わんでも…。
つる :…泣いてるの?…ご、…ごめんなさい。…ちょっと、言いすぎたわ。
カメ :ぼくは、どうせ、他人の引き立て役なんや…。
つる :そんな、すねないで!あなたの、あのうさぎとの競争は素晴らしかった
わ。歩みがおそいのに、実直に着実にがんばったから、最後はあなたが
勝ったのよね。素敵だったわ!
カメ :…ほんとぉ?…
つる :本当よ!それに、アキレスとの競走では、後ろから追いかけてくるアキ
レスに、いつまでたっても追いつかれなかったそうね!すごいわ!
カメ :ちょっと、あれは違うのだけれど…
つる :いいえ!何もいわないで!あなたは、のろまなんかじゃないわ!素晴ら
しいわ!素敵だわ!ブラボー!
カメ :いや、そんなにほめられると、ちょっと照れるけど…。
つる :それに、先日、私が行った中国では、貴方たち亀は「神獣」として扱わ
れてて、寺院や宗教的な仏像などを支える台なんかいっぱい亀さんたち
が彫刻されてたわ。インドでも、亀は神をまつるための場所にたくさん
登場していたわ。
カメ :ツルちゃん、いろんな所に旅行してるんだね?
つる :えへん、こう見えても、私たちは渡り鳥よ。
「♪涙を~抱いた~、わたりぃ~ドぉリぃ~♪」
カメ :ツルちゃんも、古いね。水前寺清子のデビュー曲知ってるところをみる
と、50代でしょ?
つる :しまった、年齢がバレちゃうわ。…ねぇ、機嫌なおった?
鶴は千年、亀は万年生きるの?
カメ :「鶴は千年」と聞いたけど、あれ、ほんと?
つる :後楽園で34年生きた鶴がいたし、釧路丹頂鶴公園では36年生きた鶴が
いたという記録があるわ。でも平均すると、私たち鶴は、25年くらい
しか生きられないみたいね。
カメ :じゃあ、やっぱり千年も生きられないんだね。
つる :でも、カラスが10年くらいの命と言われてるから、長いほうでしょ?
カメ :そうだね。犬や猫と比べても長いね。
つる :「亀は万年」と言われてるけど、あれ、ほんと?
カメ :確実な長寿記録として1766年にアフリカのセーシェルからモーリシャス
に持ち込まれ、1918年に死亡したアルダブラゾウガメ(マリオンのゾウ
ガメ)の152年の飼育記録があるらしい。18世紀~19世紀に、いろんな
種類の亀で調査が試みられたのだけれど、何しろ、人間よりも長いこと
生きる生物だから、最初から最後までみとどけた人間がいない。いまの
ところ「不確実」なデータとして残ってるものが多いんだ。ただ、亀の
細胞の生命周期が長いことは分かってるから、100年くらい生きるのじゃ
ないかとは考えられてる。
つる :わかったわ。じゃぁ、水槽で亀をペットに飼ってる人間は、飼ってると
思っているのは飼い主だけで、実は、亀の方が人間に向かって、
「あんたの葬式を見とどけてあげるよ」と思ってるわけね。
簑亀(みのかめ)
つる :ちょっと、聞きたいんだけれど。
カメ :なんでも、聞いてちょうだい。
つる :あのね、貴方たち亀に、甲羅のしたから毛がはえている絵をよく見かけ
るのだけれど、あんなのが生えてくるの?
カメ :いや、あれは、甲羅の上にはえてきた「藻(も)」なんだ。池の中の
石に生える藻が、ぼくらの甲羅に生えたもので、簑をつけてるように
見えるから「みの亀」って呼ばれてるよ。ただ、あんなにきれいには
「藻」はつかないけどね。
つる :わざわざ亀の絵を描く時に、どうしてあんなヒゲをいっしょに書くの?
カメ :長寿の亀の背中に、藻が生えるのは、吉兆(縁起のよいこと)のしるし
なのさ。
つる :君が代にも「こけのむすまで」という言葉があるわね。
カメ :そうだよ。長寿の亀に、藻が生えるほど長いあいだの繁栄さ。
つるのお灸と亀の寝床。
つる :ああ、疲れた。一生懸命にしゃべったら、肩がこったわ。帰って肩に
「お灸(おきゅう)」をすえるわ。
カメ :まさか…ツルちゃんの使ってるお灸、「千年灸」じゃないでしょうね?
つる :そうよ…それがどうかしたの?…まさか、あなたのベッド、お布団が
敷きっぱなしになってないでしょうね。
カメ :どうして知ってるの?ぼくの布団は年中敷きっぱなしだよ。
つる :それで、わかったわ。本当のことわざは、「鶴は千年灸、亀は万年床」
だったのね。