2021-01
2021年 1月号 プラスチック廃棄物。世界にあふれる朽ちないゴミ
ヘビとサギ
サギ: おいヘビ、何をするのや?
ヘビ: 巻きついてるのやないか!
サギ: い、いたい、はなせ!
ヘビ: はなしたら、ぼくを食べるやろ?
サギ: い、いや、そんなこと、しないから…
ヘビ: うそいえ!おまえのいってることは、どうせ「サギ」や!
サギ: …そりゃそうや、オレはサギや。
ヘビ: それみろ、信用できるか!
サギ: ねえ、きみぃ~、やさしくしてあげるから、ゆるめてね。
ヘビ: いやや!
サギ: しつこいな、おまえ、ヘビみたいな奴やな。
ヘビ: …そりゃそうや、オレはヘビや。
サギ: ええい、は虫類、はなさんかい!
ヘビ: うるさい鳥類、はなさへんで!
サギ: ざらざらうろこ、おとなしく食べられろ!
ヘビ: トングみたいなくちばし野郎、ぜったい食べられへんで!
サギ: あ…ぼくの気にしてること、大声で言うたな!
ヘビ: やーい、トング、火ばさみ、ごみつかみ!清掃用具!
サギ: 食うか食われるかの非常時に、よくそんな言葉思いつくなぁ。
死んだクジラ、海鳥、ウミガメ。おなかから…
ヘビ: ちょっと聞くで。なんで、食べる前にぼくを長い時間じーっと見てたのや?。
サギ: いや、じつは最近、食べるものはよく見るように気をつけてるのや。
ヘビ: だから、どうして?
サギ: ぼくの友達が「ミミズ」だと思ってプラスチックのロープを飲み込んで、
死んでしまったのや。
ヘビ: そんなもので、死ぬの?
サギ: 何年たっても胃や腸で消化できないものが、口から入っていくわけでしょ。
長いこと苦しんで苦しんで、おなかの中に異物を残したまま死んで行くのや。
ヘビ: 消化できないものが胃の中にあったら、いつも満腹感があっていいじゃない。
サギ: いや逆に、空腹を感じなくなるから、餓死してしまう場合もあるで。
ヘビ: どうしてプラスチックを食べものと間違うのやろか?
サギ: 海に浮遊してるビニール袋は、クラゲに見えるのや。プラスチックの匂いも、
魚類の食欲を誘発するらしい。
ヘビ: おもしろいこと研究してる人がおるのやなぁ。
サギ: そうや。アメリカの科学アカデミーの紀要に発表された報告によると、1962年~2012年の
間に、海鳥153種のうち約60%にプラスチックごみを食べた形跡があって、その29%では
胃の中から実際にプラスチックが見つかったらしい。
プラスチックは土にかえらない?
ヘビ: プラスチックは、土にかえらないの?
サギ: プラスチックを腐らせたり分解する微生物が、地球上にいないのや。
ヘビ: でも、プラスチック製のロープとかポリ容器とか、長い間には劣化してボロボロに
なっていくやないか。ということは、ほおっておいたら、細かくなって吹けば飛ぶよな
粉末ゴミになってしまうやろ?
サギ: 細かくなるだけで、分解されたり腐ったりしてるのとちがう。いつまでも朽ちない
細かなプラスチック片(マイクロプラスチック)は、魚網やプラスチック容器のような
大きなものよりもっと深刻なんや。
ヘビ: ほんまか?
サギ: そうや。プランクトンを含む小さな海洋生物まで、0.5mmにも満たないマイクロプラス
チックを食べてるそうや。
ヘビ: …ということは、そのプランクトンを食べる貝、さらにその貝を食べる魚、大きなクジラに
まで、そのプラスチックが蓄積するわけやな。
サギ: そうや。
ゴミ、輸出する国と輸入する国
ヘビ: 悪いのは、何や?海辺でモーターボートに乗ったり、セーリングをしてる人らが捨てて
いったゴミか?
サギ: まあ、それもあるやろな。
ヘビ: 漁業や養殖で使う釣り糸や魚網か?
サギ: それもあるやろな。ただ、そんな水辺だけの話とちがう。
ヘビ: …もっと大量のプラスチックゴミが、どこかにあるというのか?
サギ: 日本を含めた先進国が、プラスチックゴミを大量に「輸出」してるのを知ってるか?
ヘビ: …そんなん知らん。ほんまか?
サギ: ほんまや。ただ、去年までゴミを受け入れてた中国が、突然プラスチックごみの輸入を
禁止して、世界中てんやわんやや。
ヘビ: …困るやないか?どこかゴミを「輸入」してくれる国はあるのか?
サギ: マレーシアやインドネシア、台湾、タイ、ベトナム…
ヘビ: 東南アジアばかりやないか?
サギ: そうや。
ヘビ: ちゃんと、その国は、ゴミを処理してくれるのやろね?
サギ: あやしい。焼かれるか埋め立てられるのがほとんどで、自然放置も多い。あふれかえって
川や海に捨てられてるのも多いらしい。
ヘビ: 東南アジアの人ら、大丈夫なんか?
サギ: タイ中部チャチューンサオ県のコックフアカオいう村では、「ゴミ処理」施設が
稼働し始めて以来、地下水が汚染されて飲めなくなった。
ヘビ: 国連が先頭に立って、廃棄物を規制する法律をつくらなあかんのとちゃうか?
サギ: ヨーロッパのEUは「バーゼル条約」で有害廃棄物を国外に運び出すことを規制してる。
ヘビ: アメリカはどうしてるのや?
サギ: EUに属してないから、バーゼル条約と関係ない。
ヘビ: 豊かな国が、「リサイクル」いうて、貧しい国にゴミを押し付けてるような気が
するのやけれど。
サギ: そのとおりや。
二酸化炭素を発生する、プラスチック
ヘビ: プラスチックを作りだしてる人たちにとっては、プラスチックが「悪だ」なんて
いわれたら、心外やろね。
サギ: 高齢者や寝たきり老人にプラスチックのストローは必要やし、スーパーの生鮮食料品の
ラップが使用禁止になったら、肉や野菜を売ることすらできないよ。
ヘビ: プラスチックは、石油から作るわけやろ?
サギ: 炭素の結合から作り出すわけやから、ほとんどの原料は石油と天然ガスやというても
ええやろな。
ヘビ: ということは、それを掘り出してプラスチックを製造すれば二酸化炭素を出すことに
なるのか?
サギ: そのとおり、2050年までの目標とする二酸化炭素排出量の10%~13%は、
プラスチック製造によるものや。
ヘビ: 鳥のくせに、よう知ってるやないか。
環境を守るために
ヘビ: プラスチックごみ、リサイクルしたらええやないか。きちんと分別して再利用したら…
サギ: 実際には、汚れだけ洗って途上国へ送り出してることが多い。安上がりやからや。
ヘビ: プラスチックは、どのくらいをリサイクルできてるのや?
サギ: 1950年~2015年まででリサイクルできたプラスチックは、9%だけや。
ヘビ: 日本は、環境を守るために、何ができるのやろか?
サギ: 原子力発電がダメだからといって、足りないエネルギーを「石炭」で補おうとしてる。
小泉進次郎さんも、具体的な政策を提示してるとは言い難い。
ヘビ: 環境を保護することと、経済成長は、相反するのとちがうか?
サギ: 逆に、環境を保護しながら経済発展を続けられる技術は、世界中から投資を呼び込む
ことになる。
ヘビ: 日本は環境問題に弱腰なの?
サギ: いや、日本はアジア開発銀行(ADB)への最大の出資国で、ADBは気候変動対策に巨額な
お金を出してる。国際協力銀行(JBIC)も国際協力機構(JICA)も資金や技術ともに
環境保全と再生可能エネルギー、治水、防災を支えてる。
ヘビ: 国際協力銀行とか国際協力機構というのは、日本が運営してるの?
サギ: そうや。両方とも「J」ではじまってるやろ?ただぼくは、心配なことがひとつある。
ヘビ: どうしたの?
サギ: 先日からおなかが痛むのや。
ヘビ: …変なもの食べたのとちがう?
サギ: いや、よく覚えてないんや。
ヘビ: どうする?
サギ: 変なものがはいってないか、ぼくの胃袋の中を見てきてくれない?
ヘビ: しょうがないな。みてきてやるよ。
サギ: ありがとう、はい、あ~ん…はいっていいよ…しめしめ…。
文責:玉木英明