2010-10
文:玉木英明
2010年10月号 すすきと、だんごと、お月様。
日本の秋の風情を味わうための必須アイテム。
中秋の名月。「すすき」と「だんご」
ススキ:♪おれは河原の枯れすすき 同じお前も枯れすすき
どうせ二人はこの世では 花の咲かない枯れすすき…はぁ~ぁ~
ダンゴ:ちょっと!何よ!このもの悲しい雰囲気は!今日はお月見でしょ!
元気よくいきましょ!♪ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、
ダンゴ三兄弟!
ススキ:貧しさに負けた~♪ いいえ、世間に負けた~♪
昭和~枯れすすき~
ダンゴ:やめて!何か明日から生きていく気力なくなるような歌、うたわな
いでよ!私の未来は、光が輝いてるのよ!すすけたあなたの未来と
いっしょにしないで!
ススキ:なんやら、気のつよいお姉ちゃんやなぁ。
ダンゴ:ほっといてよ!今回は、何だか私の顔が低燃費少女ハイジみたいだ
から、気にいらないのよ!
ススキ:おおお、月にかかった雲がとれた。ほんまやな。よう見ると、
丸まっちいけど、あんただれや?
ダンゴ:私は、スイート・ライスボールよ。みんな私をAKB-48の化身とか、
セーラームーンの親戚だって、言ってるわ。
ススキ:なんや、「だんご」のお姉ちゃんやないか。
ダンゴ:やめて!3文字のうち2文字も濁点がついてて、その真ん中が
「ん」なんてダサい名前は、私、大嫌いなのよ!
ススキ:嫌いもなにも、犬やらキジやらが、つられて、ついて行ったのが、
桃太郎の「キビだんご」やったし、お祝いのおめでたい時に使われ
る「モチ」とちがって、「ダンゴ」は葬式とか法要とか仏事に使わ
れることが多いから、ちょっと線香くさくて、地味で弾力のない、
栄養が少ない、不細工なあれやろ?家の裏側の暗いところで、はい
ずりまわってる丸い虫はダンゴムシやし、漢字で書いたら「団子」
やろ?
ダンゴ:いっぺんに、ようけしゃべってくれたなぁ。ほんで、ようヒトの
ことむちゃくちゃ言うてくれたなぁ。あんたかて、漢字で書いたら
「薄」、「芒」やないの。存在感の薄い、亡くなりかけの草やろ?
ススキ:だんごのお姉ちゃん、よう漢字知っとるなぁ。すごいなぁ。
ダンゴ:えへへ…てれますでぇ…。小学校の時、たまき塾で習ったんや。
十五夜とは?十三夜とは?
ダンゴ:十五夜お月さんいうのは9月15日のお月さんでしょ?もう9月の
末なのに、いつまでこんなとこにいなきゃいけないのよ!バイト料
あげてよ!
ススキ:あのなあ、十五夜いうのは、旧暦の8月15日のことなんや。
ダンゴ:8月?それじゃ、「中秋の名月」いうよりは、「真夏の満月」いう
ほうが正しいのじゃないの?
ススキ:旧暦の8月15日にあたるのは、今年は9月22日のことなんや。
ダンゴ:「今年は…」ということは、毎年変わるの?
ススキ:そうや。来年の十五夜は9月12日やし、再来年は9月30日になる。
ダンゴ:そういえば、先日、通りかかった酔っぱらいが「十三夜」に、また
酒飲むぞと叫んでたわ。いったい、十三夜というのは何なの?
ススキ:旧暦の9月13日のことや。今年は10月13日になる。
ダンゴ:十五夜と十三夜と、何で2回も月を見る行事を、しなきゃいけない
の?失礼しちゃうわ!
ススキ:中国では、お月見は、十五夜しかお祝いせえへんのや。十三夜は、
江戸時代に日本が作り出した風習で、お客さんが芸者さんのもとへ
回数を多く来てくれるように作り出した「月見の風習」なんや。
ダンゴ:怒りまっせぇ!「お月見」いうたら、秋の風流な行事でっしゃろ!
それが、江戸時代の芸者さんのとこへ通わせるために作り出した
風習なんて、なんと不謹慎な!
ススキ:あれ?だんごのお姉ちゃんも関西人、いや関西団子やったのやね?
ダンゴ:関西出身やったら、どうやと言うのや?なめてたらあかんでぇ!
ススキ:ガラの悪いお姉ちゃんやな。ほんで、怒って「つば」飛ばしないな。
ダンゴ:怒ってるんやから、つばかて飛ぶわさ。何で1年に2回も同じ行事
をせなあかんのや、と聞いとるのや!
ススキ:つば飛ばさんとってえな。あのな、十五夜と十三夜の片方しか月見
をせんような男は、片月見とか片見月とかよんで、無粋な男とされ
たんや。
ダンゴ:文化を、カルチャーを、何と心得とるんや!江戸時代の人らは、
酒飲んだり遊んだりするのに、月を利用したわけや!
ススキ:まあ、ええやんか。つば、飛ばさんとしゃべってえな。お月さんの
美しさを愛でることを口実に、町が潤って人通りをにぎやかにしよ
うと考えたのやから、ええことやないか。
十五夜お月さんは満月?
ダンゴ:…そうやな。…まあ…わかりましたでぇ。よし、十五夜も十三夜も
とにかく満月で、お月さんがまん丸の日なんやね?
ススキ:いや、実は、十五夜も十三夜も満月とは限らへんのや。
ダンゴ:ええかげんにしてや!。十五夜も十三夜も毎年日が決まってなくて
その日は満月かどうか、わからんなんて…。わたしら、どないした
ら…よろしのや?私らが、大切にされてない証拠やないですか。
うっうっうっ…。
ススキ:泣かんでもええがな。怒ったり、泣いたり、忙しいだんごやなぁ。
確かにこの時期は北半球で月が明るく見える、月見には最適の頃で
あることに違いないのやけれど、「十五夜」いうのは、月の公転周
期と地球の自転周期を計算して算出した日付とちがうのや。
外国の「月見」
ダンゴ:外国ではどうやって「月見」をしてますのや?
ススキ:中国本土や台湾などの中華文化圏では「中秋節」いう名前で、祝日
にしてお祝いするのや。
ダンゴ:ほんで、だんご食べますのやな?
ススキ:いや、中国では月餅(げっぺい)いうのを食べながら月を見るんや。
ダンゴ:ゲッペー?コーラ飲んだあとにするやつでっか?
ススキ:それは、「ゲップ」やがな。こまった人、いや、だんごやなぁ。
ダンゴ:わかってますて…冗談やがな…。怒らんといてぇな…。なぁ、
ごめんて。
ススキ:月餅いうのは、月に見立てた丸くて平たいお菓子で、中国語では、
ユエピンyuebingいうて発音するんや。
ダンゴ:ほな、中国の人かて「だんご」食べますのやね?
ススキ:そうやがな。どうや?ちょっとは気がおさまりましたかいな?
ダンゴ:ちょっと聞きますでぇ。「月見そば」とか「月見うどん」いうたら
日本では「卵をのせた」いう意味でしょ?外国ではどんな意味に
なりますのや?
ススキ:台湾の台北の石碑市場にある「水龜伯古早味」いう台湾デザートの
お店がある。
ダンゴ:あんた、すすきのくせに色んなこと知ってるんやなぁ。
ススキ:そこでは「月見冰」や「黒糖冰」いう台湾の古くからあるかき氷が
売られてる。
ダンゴ:まさか、かき氷にたまごが…?
ススキ:そうや。「月見冰」には卵がのせてあるんや。
ダンゴ:おいしい…の…ですやろな?なんやら、生臭そうやけど。
ススキ:それが、うまいのや。「半舊回味氷(50元)」いう氷なんか、牛乳
で作った氷を使った「かき氷」に、緑豆、チョコスプレー、レーズン
金時豆がのっており、中央には、つややかに輝く卵の黄身がとろー
りや。
ダンゴ:そやけど、生たまごですやろ?
ススキ:ちょうどミルクと卵で、昔のミルクセーキのような味になるんや。
ダンゴ:今の人ら、ミルクセーキって知らんのとちゃうかいな?
お月見どろぼう
ダンゴ:もう一つ聞かしてえな。
ススキ:何でも聞いてや!
ダンゴ:月を見ながら秋を楽しむ行事は、もっと他にはありませんのか?
ススキ:「月見の夜に、相撲大会をする」いう鹿児島県の喜界島もおもしろ
い。沖縄県平良市(宮古島)では「シーシャガウガウ」いうのをする
らしい。
ダンゴ:なんでっか?その「シーシャガウガウ」いいますのは?
ススキ:獅子舞のことや。子供らがグループをつくって、近所を獅子舞をし
ながら回るんや。お駄賃がもらえるから、子供らも一所懸命やで。
ダンゴ:「お月見どろぼう」いうのも聞いたことあるんやけど…。
ススキ:よう知ってるやんか。縁側に供えてあるだんごを、子供らが、盗み
食いをして歩く風習や。たくさん子供にだんごを持って行かれた方
が、縁起がええとされてるんや。
ダンゴ:何やら、日本版のハロウィンみたいやねぇ。
ススキ:はっはっは。うまいこというなあ。
ダンゴ:月見に供えるのは、絶対「だんご」でないとあかんのですか?
ススキ:いや、そんなことはない。サトイモを供える地域かてある。
ダンゴ:すすきさん、えらいもの知りやね。なんや、今まで意識したことな
かったけど、胸がドキドキして、あんたのこと好きになってきまし
たでぇ。
ススキ:あのなぁ、だんごに惚れられても、うれしないがな。
ダンゴ:いや、そんなことありまへん。こんなとこでお月さんばっかり眺め
とらんと、ふたりでどこかにデートにいこうやありませんか。
ススキ:あかん、あかん。僕らはここで、じぃーとお月さんに姿をさらしと
かなあかんのや。
ダンゴ:何でですの?
ススキ:ツキに見はなされてしまうからや。