2011-02
文:玉木英明
2011年2月号 レア・メタルとレア・アース。どうして中国が強気なの?
レア・アース
伊達直人:♪白い~マットの~ジャングルに~♪ああ、いそがしい、いそが
しい。最近、ないしょで孤児院にランドセルを届けてるんや…。
月野ウサギ:だれかしら?人の家の前でうろうろして、妙な歌を 歌っている
のは?怪しい人ね。月にかわって、おしおきするわよ!
伊達直人:すんませーん。ぼくは「タイガーマスク」いいます!どうぞ、
よろしゅうに!
月野ウサギ:…何だか、むかし聞いたことある名前ね。だいたい、仮面をつけ
て道を歩いているなんて、ふつうの神経じゃないわ。それに、
タイガーマスクって関西人なの?
伊達直人:40年ほど前は、人気高かったんやけどなぁ…。あっ!あんさん、
「セーラームーン」さんとちゃいまっか?
月野ウサギ:あら…。ご存知なの?うれしいじゃないの!
伊達直人:あれれ?セーラームーンさんって、東京で活躍してるのとちがい
ましたかいな?
月野ウサギ:それは20年も前のことよ。東京の麻布十番街に住んでたんだけど
レア・アースを中国が輸出規制するものだから仕事がなくなって、
三重県に引っ越してきたのよ。
伊達直人:なんやら無理のある、つながり方ですなぁ。セーラームーンさん
は、中国関係のお仕事をしてはったんやね?レア・アースとかレア
・メタルとか、最近よう聞くけど、その難しい言葉、何ですのや?
月野ウサギ:「レア」いう言葉を知ってる?
伊達直人:こないだ、ブロンコ・ビリーでステーキ食べる時に、肉の焼き具
合を店員さんに「レアー」か「ウェルダン」かを聞かれましたで。
月野ウサギ:そう、もとの英語「rare」は「生の」という意味だから、肉をを
食べるときに「レアー」をたのめば、生肉に近いステーキが出てく
るわ。
伊達直人:ほな、「レア・アース」いうのは、「生の地球」…でっか?
月野ウサギ:いや、この場合は「レア」いうのは「まれな、希少な」いう意味
で、地球に少ししかない土という意味なのよ。
伊達直人:僕の友人に、人形集めてる男がおって、先日「レアものが手には
いった」いうてたけど…。
月野ウサギ:うふふ。その通りね。収集家やマニアの間で、めずらしいものと
か、希少価値のあるもののことを、「レアもの」なんて呼び方をす
るわね。
伊達直人:ほな、「レア・メタル」いうのは「地球に少ししかない金属」
いう意味やね?
月野ウサギ:そう、その通りよ。正確には、希少価値の高い「レア・メタル」
に含まれるのがレア・アースで「希土類」といって、第3族の
スカンジウムやイットリウム、さらにはランタノイドやアクチノイ
ドという系列の元素をすべてさす言葉なのよ。
伊達直人:むつかしいなぁ。そんな妙な金属を使わんでも、日本の産業は大
丈夫!タイガーマスクは、鉄とか銅とかがあれば大丈夫でっせぇ。
月野ウサギ:希土類、特にランタノイドは、鉄や銅のような普通の元素と電子
配置がちがうのよ。だから、物理的に特異な性質を持っててとても
役に立つのよ。
伊達直人:どんな特異な性質なんでっか?
月野ウサギ:例えば、水素を取り込む金属である「水素吸蔵合金」や、温度を
下げると電気抵抗がゼロに近づく「超伝導」の材料、レーザーや光
磁気ディスク、磁性体、そして…
伊達直人:わかった、わかった。なんやら難しい言葉がようけでてきました
なぁ。
月野ウサギ:最近の白色発光ダイオード、LEDいうの聞いたことあるでしょ?
伊達直人:電気屋さんにならんでる、あの省電力で長持ちするやつやね?
月野ウサギ:そう、あれよ。あれの蛍光体には、イットリウムが使われてるの
よ。
伊達直人:そうか。日本が最先端技術を活かしていろんなものを世界に先が
けて作り上げていこうとすると、自動車であろうと、コンピュータ
ーであろうと、レア・アースが必要になってくるわけやね。
月野ウサギ:その通りよ。レア・アース無しでは、現代の産業は成り立たない
といっても過言じゃないのよ。
強気の中国
伊達直人:なんで、そんな大事なものが中国だけにしかないんでっか?
月野ウサギ:いや、他の国にもあるのやけれど、中国が1980年代から外貨を獲
得しようとして、レア・アースをたくさん掘って供給しすぎて、
価格が低下してしまったのよ。
伊達直人:なるほど、レア・アースの価格が下がりすぎて、中国以外の国が
掘り出さんようになってしもたわけやね。
月野ウサギ:その通りよ。中国以外の鉱山は次々と閉山してしまったの。
伊達直人:なんで、去年、中国は突然レア・アースを輸出しなくなったの?
月野ウサギ:いや、突然でもないのよ。中国は2006年に「資源保護計画」いう
のを発表して、輸出枠を削減し始めてたのよ。ジスプロシウムとい
う重希土類なんか、2005年から去年までの5年間に8倍以上に値上
がりしてるわ。
伊達直人: レア・アースの値段を、最初下げて他の国に完全に手をひかせ
て、敵がいなくなったところで徐々に供給量を減らして値段をあげ
ていく…。なかなか中国は「したたか」やなぁ。
月野ウサギ:そうね。国家単位で、しかも何十年も先を見越して計画してるな
んて、中国のスケールの大きなところね。尖閣諸島沖で中国漁船の
船長を拿捕した時に、日本向けのレア・アースの輸出を完全にスト
ップさせて、日本に対して対抗措置をおこなったことは、中国がこ
の分野で完全に主導権をにぎってることを示したわけね。
伊達直人:あかん…あかんがな…。日本は…もう…あかん。
月野ウサギ:泣いてもしょうがないわよ、弱気なタイガーマスクね。あなたも
「虎の穴」の悪いレスラーたち相手に、頑張ってきたんでしょ?
伊達直人:そやかて…船ぶつかってきたくせに…怒って…レア・アース日本
に売ってくれへんから…菅総理…蓮舫さん…がんばって…
月野ウサギ:情けない声だしないな。みんなで日本の将来、はよ考えよやな
いか!
伊達直人:セーラームーンさんも、関西人やったんやね?
月野ウサギ:どうでも、ええがな。あのな、漁船がぶつかったことで、いっぱ
いわかってきたことがあるんや。
伊達直人:なんや?何がわかったんや?
月野ウサギ:まずは、中国以外の国のレア・アースの鉱山を開発せなあかん。
伊達直人:そんなん、できますのか?
月野ウサギ:アメリカのカリフォルニアや、カナダでも準備しとる。さらに、
今実際に携帯電話なんかからレア・アースを高い効率で回収する
技術も、日本人は考えだしとる。
伊達直人:ほんまか!ほんまでっか!
月野ウサギ:ほんまやがな。さらに、レア・アースを使わへん、もしくは、
ほとんど使わないような技術かて、日本人は研究しとる。
伊達直人:うれしいで…。うれしやないか…。
月野ウサギ:こんどは、うれし泣きかいな?あんたかて、がんばりなはれ!
伊達直人:わかった、わかりました。もう泣きまへん。なあ、セーラーちゃ
ん、なんか僕にもできることはありまへんか?
月野ウサギ:あるでぇ。ぜひ、やってもらいたいことがあるでぇ。
伊達直人:な、な、なんでっか?それはなんでっか?
月野ウサギ:虎児院にランドセルくばってほしいんや。
伊達直人:あの…漢字がちがう…「孤児院」やがな。