2011-07
文:玉木英明
2011年7月 「どよう」の「うし」の日の「うなぎ」の「かば」焼き。
いったい何を食べるの?
土曜?土用?牛?丑?
カバ :プンプン!憤慨だわ!まったく!プンプン!
うなぎ:何やら変な奴が泳いで きたでぇ。
カバ :あ!あなた、ウナギね!あなたのおかげで私はすごく迷惑を
こうむっているのよ!いったい、どうしてくれるのよ!
うなぎ:今日は、登場と共におこられましたなぁ。何をそんなに怒って
まんのや?
カバ :この時期になると、いつもそうよ。町中が「かば焼き、かば焼き」
って、まるで私たちカバのあみ焼きを売ってるかのような、デリカ
シーにかけた表現でいっぱいになるのよ。だいたいねぇ「土曜」の
「うしの日」にうなぎの「かば焼き」を食べるなんて、外国の人に
どうやって説明するつもりなのよ!私たちの人権、いや、カバ権は
どうなるのよ!
うなぎ:いっぺんに、ようけしゃべりましたなぁ。ほんで、漢字が違うて
まっせ。「どよう」の漢字は「土曜」でなくて、「土用」でっせ。
カバ :Saturday(サタデー)とちゃいますのか?
うなぎ:「土用」いうたら、立春、立夏、立秋、立冬それぞれの前18日間の
期間のことなんや。そやから、本来は1年に4回あるものなんやけど
最近では立秋の前だけをさすようになってきたんや。
カバ :うっ…知らなんだわ。ほな、ウシとウナギとカバのつながりは、
どないなってまんのや?
うなぎ:おっ、あんたも関西人、いや、関西カバやったんやね。
カバ :ヒポヒポヒポ!ばれたらしゃあないな。
うなぎ:その、「ヒポヒポ」いうのは何ですのや?
カバ :私の笑い声やんか。英語でカバは hippopotamus、天王寺動物園の
「ヒポ」ちゃんいうたら、私のことや。
うなぎ:自己紹介するのに、ようけ行を使いましたなぁ。
カバ :ヒポヒポヒポ!ほんで、土用のうしの…何やったかいな?
うなぎ:土用の期間にあたる7月末から8月初めの18日間に、十二支の
「丑」のあてはまる日があるんや。今年は7月21日と8月2日の2回
あるんや。
カバ :何で2回もありますのや?
うなぎ:土用が18日間あるから、十二支やと余るのわかるやろ?
カバ :なるほど!ほな、土用の丑の日は1回の年と2回ある年がありまん
のやな?
うなぎ:そのとおりや。去年は1回しかなかった。十二支に関しては、
2010年の1月号のザ・タマキ・タイムズ「えと」を読むとよう
わかるで。
カバ :ほんで、何で「かば焼き」なんでっか?私らカバをバカにしてるの
かば?
うなぎ:あんたのギャグ、素直に笑えへんのは、どうしてやろなぁ。あのな
「かば焼き」いうのは、別にあんたら「カバ」が関係しとるのとちゃ
うのや。漢字で書くと「蒲焼き」で、「蒲」いうのは池やら沼やらの
水辺に生えとる「がま」いう植物のことなんや。ほら、写真見てみい
な。ウナギを串にさしたのとよう形も色も似てるやろ?
カバ :ほな、「がま焼き」にしたらよろしやないか!
うなぎ:そやなぁ。まあ、あんたらカバを焼こういうのとちがうわけやから
そんな怒らんといてえな。
うなぎの完全養殖に成功!
カバ :あんたらウナギは、卵から養殖できへんと聞きましたで。台湾とか
フィリピンの深海で産卵するんでっしゃろ?それが日本の沿岸でシラ
スの稚魚として捕まえられて、ようやくその稚魚から養殖するのやと
聞きましたで。
うなぎ:そう。ほんの最近まではそうやった。
カバ :え?ウナギの卵からのふ化、成功しましたんか?
うなぎ:そうやがな。農林水産省がものすごい研究をして、サメ卵低温乾燥
粉末いうのを海水に溶かして与えたんや。そうしたら大成功や!卵か
ら、レプトケファルスいうウナギの幼生まで育てることに成功したん
や。ここ2年の間の話や。
カバ :ほんまか…ほんまか…うっううう…うれしいやないか…。日本の研
究機関の大きな成果や…なぁ、ウナちゃん。
うなぎ:泣きないな。怒ったり泣いたり、いそがしいカバやなぁ。それから
「ウナちゃん」いう呼び方は、やめてんか。
カバ :いや、今、日本が震災で元気ありまへんやろ?そやから、こんな、
ええ話は、うれしてうれして。
うなぎ:そやなぁ。これでシラスウナギまで生育させられたら、うなぎの
完全養殖が実現するんや。
カバ :あんたらうなぎの業界も、これから大きく変わっていくのやろね。
うなぎ:その通りや。うなぎもマグロも、日本人の知恵と研究によって、
どんどん養殖ができるようになる。海に囲まれた日本は、環境に
優しい豊かな水産資源を生み出すことができる国になる。
どうして「うなぎ」?
カバ :ところで、あんたらの名前、何で「うなぎ」いいますのや?
うなぎ:僕らの胸は黄色いやろ?そやから「胸黄」て書いてムナギ いうて
呼ばれてた。それが転じて「うなぎ」になったいう説が有力や。
カバ :いつごろから「かば焼き」にして食べるようになったんでっか?
うなぎ:室町時代の『大草家料理書』という書に「宇治丸かばやきの事、
丸にあぶりて後に切るなり」とあり、うなぎを丸ごと焼いたものをぶつ
切りにして、醤油、酒を混ぜたものをつけたり、山椒味噌をつけて食
べる、という記載があるんや。
カバ :室町時代いうたら、足利尊氏がおったころやな。14世紀やね。
うなぎ:そうや。そのころにはもう「かば焼き」があったことになる。
カバ :ヒポヒポヒポ。室町時代の「かば焼き」何やら食べてみたいわぁ。
本当に「うなぎ」は精がつく?
カバ :ところで、ほんまにあんたらウナギは精がつくんでっか?
うなぎ:そりゃ、ほんまやで。ウナギには豊富な栄養が含まれてる。皮膚や
粘膜に潤いを与えるビタミンA、消化を促進して食欲を増進させる
ビタミンBやろ、ホルモンバランスを整えるビタミンE、亜鉛やら
DHAやら、生殖機能を活性化させるものがいっぱいや。
カバ :それで、土用の丑の日に「うなぎ」を食べるわけやね。
うなぎ:夏のこの時期を、精力をもって乗りきらなあかんやろ?そやから、
土用餅(どようもち)やら土用蜆(どようしじみ)、土用卵(どよう
らん)いうような精がつくものを食べるのが習慣になってきたんや。
丑の日(うしのひ)やから「う」のつく食べ物、例えばうどんとか、
瓜(うり)、梅干しなんてのも体にええといわれてる。
カバ :あ~!うなぎと梅干しは、いっしょに食べたらあかんのやでぇ!
うなぎ:何で?
カバ :そやかて…お腹…こわすから…。
うなぎ:あっはっは。よう言われてることみたいやけれど、それは迷信や。
実際には、梅干しの酸味が僕らウナギの脂の消化を助けるんや。
カバ :ほんまか?ほんまに大丈夫なんか?
うなぎ:ほんまや。けど、昔の人は食べ過ぎをいましめて、そうやって注意
してくれたんや。だれがその食べ合わせを教えてくれたんや?
カバ :私のおばあちゃんや。
うなぎ:ええおばあちゃんやないか。カバさんのおばあちゃんて…
カバ :そうや。私らみんな「カバいばあちゃん」いうて呼んでた。
うなぎ:それ、「がばい」とちがうのかいなぁ…。