2018-08

文責:玉木教育企画

2018年 8月号 浴びる太陽光を測る。爪にはる極小紫外線センサー

かがみよかがみ…

お妃さま: かがみよかがみ。

      この世で、一番美しいのはだあれ?

魔法の鏡: おや、お妃さま。

今回は後ろ姿で登場ですね。

お妃さま: あのね、そんなことどうでもいいわ。

一番美しいのは、誰かと聞いているのよ。

魔法の鏡: はい、お妃さま、あなた様でございます。

あなた様に毒リンゴで殺された白雪姫に代わって、あなた様が一番になられた

ことは、今さら申し上げる必要もないほど世界中に知れわたっております。

お妃さま: かがみよかがみ、よけいなことを言わないでね。

魔法の鏡: いえいえ、お妃さまが毎日私をのぞきこんで、だれが美しいかと圧力をかけながら

たずねるお姿、にらみのきいた表情がパワハラであろうとも、私は決して不満など

申し上げません。

お妃さま: かがみよかがみ、おしゃべりはきらいよ。

魔法の鏡: いえいえ、魔法のかがみと呼ばれているにもかかわらず、毎日ここで超個人的な

質問に答え続けている自分に、ふがいなさを感じる今日この頃、歯をくいしばって

毎日がんばっております。

お妃さま: かがみよかがみ、質問に答えてくれるだけでいいのよ。

魔法の鏡: いえいえ、図書館が開設できるほどお妃さまが多量に収集された美容整形と

エステのカタログ、アンチエイジングに固執する怨念にも似た探究心、

購入と放置が繰り返される美容器具の数々、いずれも驚愕のビッグ・マウンテンで

ございます。

お妃さま: ええい、シャーラップ!ほんの最初の一言に、実にたくさんしゃべってくれたわね!

魔法の鏡: すみません。

日焼けの大敵、紫外線

お妃さま: かがみよかがみ、

ちょっとききたいことがあるのだけれど。

魔法の鏡: はい、お妃さま、何なりとどうぞ。私はカガミ、私は…

お妃さま: 知ってるわよ。あなたは道具のカガミ、各務ヶ原(かがみがはら)の出身の、

みらいを映す、ミラクルな能力をもっている、ミラーでしょ?

魔法の鏡: …自己紹介をまた変えました。かがみながら鏡をのぞき込む、柊(ひいらぎ)かがみが

大好きなアニメファンで~す。

お妃さま: だんだんマニアックな趣味になってきたわね。

魔法の鏡: ありがとうございます。

お妃さま: かがみよかがみ、ちょっと気になる記事をスマホで見たの。

魔法の鏡: お妃さま、むかしむかしのお話の人の割に、実に最新鋭の機器をお使いですね。

お妃さま: シミとソバカス日焼けの大敵、紫外線を感知する

「つめに貼るだけの極小紫外線センサー」って記事だったわ。

魔法の鏡: お妃さま、200歳をこえるご年齢で、まだ日焼けが気になられるとは、

茫然自失でございます。

お妃さま: かがみよかがみ、いつもほめてくれて、ありがとう。

魔法の鏡: 紫外線は美しい肌の「敵」でございます。お妃さまが毎朝、宗教儀式のように

日焼け止めを塗って、日陰から出ないように努め、長袖と日傘、帽子を駆使して

日差しを避けておられるのは、よく存じ上げております。

お妃さま: かがみよかがみ、だから、その紫外線センサーがほしいのよ。

魔法の鏡: 浴びた紫外線量を測定する機器は以前からありますよ。フランスのネタトモ社の

ブレスレッド型センサー「ジューン」などは有名ですよ。

お妃さま: かがみよかがみ、それは私も先日までつけてたわ。でも、テニスをする時に

じゃまなのよ。そのブレスレッドを腕につけてスマッシュすると、吹っ飛んじゃう

のよね。

魔法の鏡: お妃さま、そのご年齢で「テニス」の「スマッシュ」をなさるのですね。

お妃さま: かがみよかがみ、みんな私をテニス場の華麗なウィックト・クイーンと呼んでるわ。

魔法の鏡: …ウィックト、英語でwickedって「邪悪な」では…

お妃さま: かがみよかがみ、なんでもかんでも訳すのはやめて。

爪にはるウェアラブル・センサー

魔法の鏡: タトゥーシールのように肌に貼れる「マイUVパッチ」はいかがですか?

受けた紫外線量によって色の変わる、ハート形でかわいい紫外線感知シールです。

お妃さま: かがみよかがみ、それって渋谷駅前で大量に無料配布されてたやつでしょ?

そんな庶民の使う絆創膏(ばんそうこう)みたいなもの、私が使えるわけないじゃ

ないの?

魔法の鏡: …お妃さま、絆創膏は「バンドエイド」と言わないと年齢がバレてしまいます。

お妃さま: そんな安物でなくて、つめのセンサーのこと、はやく教えてよ!

魔法の鏡: お妃さまのおっしゃっているのは、ノース・ウェスタン大学とロレアルが共同開発した、

爪にはる世界最小ウェアラブルセンサー「UVセンス」のことですね。

お妃さま: かがみよかがみ、それ、どうやって使うの?

魔法の鏡: クレジットカードほどの厚さのシールを、爪に貼りつけるのです。

お妃さま: かがみよかがみ、それはただのシールなの?

魔法の鏡: いいえ、その厚みの中に紫外線センサーとアンテナを内蔵しています。

スマホを近づけると浴びた紫外線量を画面でチェックできます。

お妃さま: かがみよかがみ、それ、どのくらいの耐久性があるの?

魔法の鏡: 数週間貼りっぱなしでもOKです。

お妃さま: …たった、数週間?

魔法の鏡: 実は、人間のつめの方が2週間ほどしか持たないのです。

お妃さま: どういうこと?

魔法の鏡: 爪は生きた体、皮膚の一部です。古くなれば「アカ」としてはがれ落ちていくのです。

ですから、ネイルアートなども、ふつう2週間くらいしか持たないのです。

お妃さま: かがみよかがみ、それを爪ではなくて、サングラスや腕時計に貼っておいても

いいってこと?

魔法の鏡: そのとおりです。さらにそのセンサーのデータを示すスマホのアプリは、

使用者の生活パターンやライフスタイルについての情報や注意点を示すばかりでなく、

気温や花粉の飛散予報なども通知するのです。

お妃さま: ごついわ!ええやないの!

魔法の鏡: …お妃さまは、関西のご出身だったのですね?

お妃さま: おほん、エキサイトするとなまるのよ。…かがみよかがみ、通販で買うわ。

おいくら?

魔法の鏡: 50ドルほどです。

お妃さま: ということは5,000円?たこ焼きなら、たった10皿分ね?

魔法の鏡: …お妃さまは、たこ焼きに換算するのですね。

白い雪のような…

お妃さま: かがみよかがみ、どうしてだか分からないのだけれど、私は「白」や「雪」に

すごくコンプレックスがあるの。

魔法の鏡: 白…雪…、わかるような気がします。

お妃さま: だから、私のすべてを雪のように白くしたいと思うのよ。

魔法の鏡: …わかりました。私も「魔法の」かがみ、長年お妃さまにお仕えしてきた恩義が

あります。あらゆる手をつくしてお手伝いしましょう。

お妃さま: かがみよかがみ、まず何から「白く」してくれるかしら?

魔法の鏡: まずは、顔色を青白くしましょう。

お妃さま: うれしいわ。これで私は…

魔法の鏡: そうです、「うらなり」と呼ばれるようになるでしょう。

お妃さま: かがみよかがみ、綺麗というより「ひ弱な」感じがするけれど…。その次は?

魔法の鏡: 次は、唇を雪のように白くしてはいかがですか?

お妃さま: うれしいわ!唇が雪のように白い女性なんてエキゾチックな感じね。これで何と

よばれるかしら?

魔法の鏡: 「雪女(ゆきおんな)」と呼ばれるにちがいありません。

お妃さま: かがみよかがみ、「雪」と「白」へのジェラシーを克服できそうね。でも何だか、

うれしいような、うれしくないような…。

魔法の鏡: その次は眉(まゆ)を白くしましょう。

お妃さま: 眉を白く?

魔法の鏡: そうです。白い眉は「白眉(はくび)」といって、中国では優れた知識のあるひとを

指します。

お妃さま: かがみよかがみ、知的な容姿を手にいれるということね。わかったわ。私の眉を

白くしてちょうだい。その次は?

魔法の鏡: はい、お妃さま、その次に白くするのは「髪の毛」でございます。

お妃さま: 髪の毛を白くすると素敵なの?

魔法の鏡: そうですお妃さま。どこの国でも一番経験の深い人の髪の毛は、およそ白いものです。

お妃さま: わかったわ。かがみよかがみ、私の髪の毛も白くしてちょうだい。その次は?

魔法の鏡: 頭の中を白くしてはいかがでしょう?

お妃さま: 頭の中を白く?かがみよかがみ、頭の中が白くなるとどうなるの?

魔法の鏡: おだやかになり、怒りや嫉妬(しっと)、懐疑心(かいぎしん)が消えていきます。

お妃さま: わかったわ。かがみよかがみ、頭の中が白くなるとおだやかになるのね。でも何だか

もの忘れもひどくなりそうな感じね。その次は?

魔法の鏡: 目が白くなるのはいかがでしょう?人間は年輪を重ねて神様に近づくと、最終的に

目が白くなると医学書に書いてありました。

お妃さま: わかったわ。かがみよかがみ、私の目が白くなるようにしてちょうだい。でも、目が

白くなって、似合う服があるかどうか心配だわ。

魔法の鏡: 目がしろくなったら、白い装束を身にまといます。

お妃さま: 真っ白な装束!何だか、わくわくしてきたわ!これで私も、あこがれの…

魔法の鏡: そうです。200歳をこえて、お妃さまも、ようやく…。

ザ・タマキタイムズ トップへ