2018-03
文責:玉木英明
2018年 3月号 天気予報の革命がすぐそこに。速く、細かく、正確に
下駄占い(げたうらない)
ちびっこ: あした天気になぁ~れ~、それっ!
「ガランカラン!」
下駄 : いたいやないか!
ちびっこ: うわっ、びっくり、ゲタが、しゃべった!
下駄 : しゃべったら、あかんのか?
ちびっこ: い、いや、ゲタは「カラン・コロン」くらいしか言えんはずや。
下駄 : 失礼なちびっこや。わしら「下駄」は、日本文化を代表する伝統的な履物、
ほんまは、しゃべれるのや。
ちびっこ: あのな、下駄(げた)も履物(はきもの)も、ふりがななしでは小学生が読めへん
くらい、古いでぇ。
下駄 : ますます生意気なちびっこや。学校でくつを入れておくところを「ゲタ箱」いうて
呼ぶやないか。あれは日本の教育現場が、きちんと文化踏襲(ぶんかとうしゅう)を
してる顕著(けんちょ)な証(あかし)や。
ちびっこ: ぶんぶん蚊が飛んでケチの頭を刺した?
下駄 : どう聞いたら、そう聞こえるのや?
ちびっこ: 難しい言葉は、わからへんがな。
下駄 : わしら「ゲタ」のつく言葉は、素敵な言葉ばかりや。もち上げた、さし上げた、
心をささげた、美しさにたまげた…。
ちびっこ: あかん意味のかて、いっぱいあるで。逃げた、そげた、ぬげた、なげた、はげた、
めげた、もげた、しょげた…
下駄 : …あのな、ちびっこ、よくもそれほど、たくさん並べたな。
ちびっこ: ほめられると…照れるで…
下駄 : ほめてへん。あのな、大事な自分のはきものを、脱ぎ飛ばしたらあかん!
ちびっこ: 明日の天気を占った(うらなった)だけや。
下駄 : 天気を占って下駄を飛ばす子なんて、最近見たことないで。
気象観測衛星「ひまわり」「千里眼」「風雲」
ちびっこ: これは、「明日の遠足、晴れてね」のまじないや。
下駄 : …まじない?
ちびっこ: そうや。ほんとに天気予報を調べるつもりなら、このスマホを使うわ。
下駄 : 電話番号177で天気予報きいたらどうや?一日に、11回も更新されるで。
ちびっこ: …古いなぁ。あれを聞く人、今、いてるのか?
下駄 : 「晴れ、時々くもり、ところによって雨」なんて天気予報を本気でやってる
ところが情緒があるで。
ちびっこ: 最近の天気予報は、コンピューターと膨大なデータで驚異的な精度に上がって
きてるの知ってるか?
下駄 : ゴム気球で、上空30kmから気象データーを送る「ラジオゾンデ」が有効やと
聞いたで。
ちびっこ: …古いなぁ、それは数十年も前の話や。あのな、今は静止気象衛星がいっぱい
飛んでるのや。高度36000kmの赤道上空を地球の自転と同じ速度で周ってるから、
いつも地球の同じところを観測してるのや。アメリカ、日本、ヨーロッパ、中国、
インド、ロシアなど、合わせたら10以上が飛んでるで。
下駄 : いっぺんにようけしゃべったな。
ちびっこ: 日本の静止衛星は、東経145度のひまわり8号、韓国のは千里眼(せんりがん)、
中国のは風雲(ふううん)いう名前や。
下駄 : みんな、ええ名前やないか。
ちびっこ: さらに、日本は持ってないけど、極軌道周回型いう衛星もある。
下駄 : な、なんや?それは?
ちびっこ: 北極と南極の両方を通過するように南北方向に周回する衛星や。
下駄 : …何がちがうのや?
ちびっこ: 縦方向に衛星がまわるやろ?ほんで地球が自転するやろ?そしたら、地球の全ての
場所の上を観測できるのや。
下駄 : なるほど…。
ちびっこ: さらにアメリカは、軍事用に極秘に軍事用気象衛星システムを持ってるし、
低軌道を回って短時間毎に変化する気象観測をしてる衛星もあるし、TRMMいう
熱帯降雨の観測衛星かてある。
下駄 : 気象衛星が役に立つのはわかったで。そしたらな、うちの庭で今週末に
バーベキューをする時に雨が降るかどうかが知りたいけど、できるか?
ちびっこ: 「ウェザーカンパニー」いうところが、世界中に25万か所の小さな観測所を
もってるのや。
下駄 : そんな観測所、見たことないで。
ちびっこ: 街灯とか、海に浮かぶ「ブイ」にセンサーがあるのや。インターネットを通じて
あらゆる場所からデータを集めてる。しかも、リアルタイムにや。スターバックス
が世界で2万5000店やから、25万か所の観測所いうのが、いかにすごい数かが
わかるやろ?
下駄 : そんなぎょうさんのデータを、一度に処理できるわけがないやないか。
ちびっこ: それが、アメリカの海洋大気局(NOAA)の2台のスーパーコンピューターは、ごつい
速度で処理できるのや。
ビッグデータで、より正確に、詳細に、ピンポイントで
下駄 : 計算ができたかて、予測はムリや。うちの庭の天気が何時にどうなるか、完全には
わからへん。
ちびっこ: 地球上のさまざまな地点、時間尺度、そこでの気象モデルをAI(人工知能)に
学習させるのや。「この地点で、こういう気圧で、こういう湿度のときに天気が
こうなった」というデータを何年分も積み重ねて、機械に学習させるのや。30年も
データーを蓄積したら、ものすごく正確に、詳細に、ピンポイントで天気を
予報できることになる。
下駄 : 晴れか雨かに、そんなにお金をかけんでも…。
ちびっこ: 台風や嵐の来る時間とコースが分かれば、飛行機をどう飛ばすか、建築現場の
スケジュールも農作物の収穫も、すべての産業で重要な決断ができる。
下駄 : 台風はたまにしか来ないよ。旅行に出かけたり日曜大工したりするのも、雨なら
仕方ないやないか。
ちびっこ: いや、逆や。正確な天気予報を見て、次の休日に日曜大工をするかどうかを決める
時代がくるというてるのや。天気で旅行に行くかどうかを決めるようになると
いうてるのや。
下駄 : 下駄をあいてに、そんなにムキになりないな。それに、つばが飛んでるで。
ちびっこ: 朝日の美しい海沿いのホテルは、あらかじめ天気がわかってたら、宿泊料を
上げたり下げたりできるようになるし、建設会社が工期を計算したり、従業員の
休日を決めたりもできるのや。
下駄 : …ということは、天気をすべての産業活動の条件にできるというのやな?
ちびっこ: そのとおりや。
100%に近づく精度の天気予報
下駄 : なあ、ちびっこ、そんなに天気が正確に予報できるようになったら、
どうなるのやろ?
ちびっこ: そやな、雨がふることはもちろん、その時間も、雨量も分かってるわけやから、
傘がなくてぬれて歩いてる人は、用意の悪い、おバカさんということになるで。
下駄 : あめあめ・ふれふれ母さんが、じゃのめでお迎え…してくれへんのか?
ちびっこ: 学校帰りに雨が降る日なんか、半月も前からわかってるはずや。
下駄 : 突然の雨が、男女の偶然の出会いを演出することは…
ちびっこ: そんな「さだまさし」の歌に出てくるような世界は、ない。
下駄 : …ちびっこのくせに、玉木の昭和の部屋で聞けるような古い歌知ってるな。
ちびっこ: ほっといてんか。
下駄 : 各地で行われる、お祭りやら自動車レース、イベントなんかは…
ちびっこ: あらかじめわかってる雨の日をさけて、実施日が決められるかもね。
下駄 : 雨の日は、「ダメな日」になってしまうのか…
ちびっこ: いや、逆もある。風情のある「雨の清水寺」とか「雪の兼六園」なんて
旅行会社が売り出せば、必ずヒットや。農作物の生育のために、ダムに水を
どれくらい溜めておいたらええのか、しっかりと計算できる。
下駄 : 電話の「177」は…。
ちびっこ: やがて、伝説になるやろな。
下駄 : わしの好きな朝のニュースの、お天気おねえさんは…
ちびっこ: どの日に、どこに旅行に行けば最高かを伝える、トリップ・アドバイザーになる。
下駄 : 雨の降ることがわかってる休日は…。
ちびっこ: 水族館に映画館、ボーリング場、さらにはパチンコ店は、特別態勢で客を
待ちかまえたらええやないか。
下駄 : 建設作業員たちは…。
ちびっこ: 雨で仕事がない日が決まっているのやから、余暇を十分に楽しめる。
下駄 : そうか…ということは、天気の予報確率がほとんど100%になったら…。
ちびっこ: そう、めちゃ経済効果が大きい。みんなが天気予報なしでは成り立たなくなる。
そして、天気予報会社は莫大な利益を得ることになる。ただし…。
下駄 : …ただし?
ちびっこ: 予報がはずれたら…
下駄 : どうなるの?
ちびっこ: 予報を出した会社が、莫大な損害賠償を請求され、たたかれることになる。
下駄 : まさに、雨とムチやな。