2020-10
文責:玉木英明
2020年 10月号 N-NOSE(エヌ・ノーズ)。尿一滴でできる「がん検査」
地獄の番人に閻魔(エンマ)さまが
エンマ様 : おい、番人!
地獄の番人: これはこれは、閻魔(エンマ)様、4年ぶりの登場でございますね!
エンマ: それはどうでもよい。ちょっと聞きたいことがあるのだ…。
番人 : 地獄の抜き打ち検査ですね。ご安心ください。
管理室の「ヘルズ・メーター」は全て正常値を示しております。
エンマ: カタカナで書くと、まるで体重計だな。
番人 : 三途の川も、船頭たちは新しく入れたハイブリッド船の整備に余念がありませんし、
なます地獄の鬼たちも、アイリス・オーヤマの自動包丁研ぎ器を導入してから
作業効率は上々です。そうそう、先日針の山の針も、CRC5-56で、すべて
磨きました。
エンマ: いや、そういうことではなくて…
番人 : わかっております、わかっております。地獄への入り口では検温を実施しておりますし、
マスクも必ず着用しております。万全の水際対策と自負しております。
エンマ: これから地獄にはいってくるやつに、検温が必要か?
番人 : 血の池地獄も釜ゆで地獄も、三密をさけるよう気をつけております。さらに、
罪人たちの誘導は大声を出さぬように、鬼たちにはすべて「拍手」で表現するように
指導しております。
エンマ: ちょっと、ちがうような気がするのじゃが…
番人 : それにGOTOトラベル にも登録しました。これで地獄への滞在も35%の補助が
出るようになりました。もう安心です。
エンマ: よくしゃべるやつだ。あのな、わしは、簡単にガンを発見できるという
N-NOSE(エヌノーズ)のことを聞きたいのだ!
番人 : エンマ様がそんな噂をご存知とは…。地獄耳ですね。
低い日本のがん検診の受診率
エンマ: ただでさえ世界一長寿の日本人が、さらに長生きすると、地獄がさびれてしまうぞ!
番人 : ご安心ください。がんは早期発見さえされなければ、死に直行でございます。
エンマ: できるだけ日本人に、がん検診を受けさせるな!
番人 : はい、地獄の募集担当者が、日本人を極めて忙しい状態においこんで、がん検診を
「わずらわしい」と避けるよう誘導しております。
エンマ: そうか。乳がんや子宮頸がんの検診を、欧米では8割以上が受診しておるのに、
日本では4割ほどしか受けておらんのは、そのおかげだな!
番人 : エンマ様、お声が高うございます。我々が安定して地獄への来場者数を保てているのは、
日本人のがん検診の受診率の低さのおかげです。
エンマ: 日本は医療保険がしっかりしておるのに、なぜ受診率が低いのじゃ?
番人 : 自覚症状のない「がん」を見つけるための検診に、仕事を止めたり、時間をさいたり
することを日本人はためらうのです。
エンマ: 日本では、仕事の休みがとりにくいのか?
番人 : はい、朝早くから夜遅くまで続く仕事に、休みをとってレジャーにあてることも
ままなりません。だから病院で検診のために一日つぶすのはもったいないと
考えるのです。
エンマ: 日本人の忙しさは、まさに地獄じゃのう。
日本人の死因の第一位、がん
エンマ: 日本人の死因は、がんが一番だときいたぞ。
番人 : さようでございます。全体の3割、一生のうちに二人に一人はがんにかかります。
エンマ: そうか。日本人に、がんについて、あれこれ教えなければよいのじゃな?
番人 : おおせのとおりでございます。
エンマ: ないしょで聞くが、がんを見つける精度の高い方法というのはあるのか?
番人 : PET(ペット)と呼ばれる検査は、放射性部位をふくんだブドウ糖を体内に注入して、
CT撮影を行います。かなり高い精度でがん細胞など異常のある箇所を検出できます。
エンマ: ペット検査…?なんだか、犬か猫の身体検査みたいだな。
番人 : 恐縮にございます。
エンマ: 日本人がみんな、そのPET検査とやらを行ったら…
番人 : エンマ様、ご安心ください。現在その検査は、1人1回10万円ほどかかります。
国民すべてが定期的に受けるには、高うございます。
エンマ: …それで安心したぞ。しかし日本には、集団検診という安価な検診もあるじゃろ?
番人 : はいエンマ様。ただ、集団検診で発見されるようながんは、もう手遅れの状態です。
いっひっひっひ。
エンマ: 突然、えぐい笑い方をするな。地獄の関係者であることが、バレるぞ。
N-NOSE(エヌノーズ)
エンマ: それでは聞くが、このN-NOSE (エヌノーズ)というがん検査は、何がすごいのだ?
番人 : まず、その検査の方法です。尿一滴を提出すれば、検査終了なのです。
エンマ: にょう?
番人 : そうです、「にょう」です。
エンマ: もしかして、それは…おしっこのことか?
番人 : さようでございます。
エンマ: 大腸がんの検査のように、大便の表面をこする必要もないのか?
番人 : ありません。
エンマ: …しかし、尿で調べられるものなんて…。ちんちんの近辺だけじゃろ?
番人 : エンマさま、タマキタイムズはよい子の読み物、あまりダイレクトな言葉を
おっしゃらないでください。
エンマ: なんと言えばいいのだ?
番人 : 実はエヌノーズは、尿一滴で、すい臓がん、肺がん、前立腺がん、大腸がん、
甲状腺がんなど、多くのがんを検出できるのです。
エンマ: すい臓がん?見つかったら100%手遅れという、あれか?
番人 : その通りです。
エンマ: その検査、どうせ何十万円もかかるのじゃろ?
番人 : 一回の検査は9,800円です。
エンマ: ほ、ほんとうか?おぬし、うそをいうと地獄におくるぞ!
がん患者の特有な「におい」
エンマ: いったいどうして、そんな一滴のおしっこでがんが見つけられるのだ?
番人 : 実は、がん患者には健康な人にない特有のにおいがあることが分かってきたのです。
エンマ: におい?
番人 : そうです。外科医が手術でがんを取り除くとき、特有のにおいがするといいます。
がん細胞は代謝の回路が通常の人間の細胞とはちがうので、代謝で排出される老廃物も
人間の細胞のものとは違うのであろうと言われています。
エンマ: なるほど。その「におい」をどうやって検出するのだ?犬にでもかがせるのか?
番人 : いいえ、C.elegans(シー・エレガンス)という線虫にかがせるのです。
エンマ: 線虫だと?エレガンスだと?こういう気色悪い生物、わしは子どものころから嫌いだ。
番人 : 地獄のエンマさまが、ひ弱なことをおっしゃらないでください。
エンマ: そんな線虫になにができるというのだ?
番人 : この線虫は、がん患者の尿を好んで集まり、健康者の尿から逃げるのです。
エンマ: こんな線虫の動き、どうせ精度は低いのじゃろ?
番人 : いいえ、感度は86.3%です。
エンマ: ごついやないか!
番人 : エンマ様は関西のご出身だったのですね?
エンマ: 興奮すると、なまるのだ。
みんなでN-NOSE検査を受ければ
エンマ: おい、番人!
番人 : はい、エンマ様、なんでございましょう?
エンマ: ここ地獄の鬼たちは、検診を受けておるのか?
番人 : 実は最近、鬼への就職希望は激減しており、彼らは三交代で働いております。
いそがしくて検診を受けられるほど時間的余裕がありません。
エンマ: だめだ、だめだ!労働環境を整えないと、鬼のなり手がいなくなってしまう。
鬼たちにも、エヌノーズ検査を受けさせろ!
番人 : わかりました。
エンマ: それと、罪人たちの健康状態はどうだ?
番人 : …苦しそうにあえいでいる彼らの健康状態は、「よい」とはいえません。
エンマ: そうか。釜ゆでブースの石川五右衛門、蜘蛛の糸が切れて落ちてきたカンダタあたり、
有名な連中からエヌノーズ検査を受けさせてみろ。きっと話題になるぞ。
番人 : わかりました。
エンマ: ようし、これで地獄も良好な健康維持体制がととのってきたぞ。
番人 : はい、きっと地獄をきらう人たちは、ヘルでしょうね。