2018-09

文責:玉木英明

      2018年 9月号 温暖化でとける北極の氷。危機とする人々、喜々とする人々

動物園で…

飼育員:白クマくん、今日もエサをもってきたよ。

白クマ:うおぅおーおおおおー!

飼育員:あっはっは、そうかいそうかい、そんなにうれしいかい?

白クマ:うおおぅおおぅおおー!

飼育員:え?きょうのごちそう?何だと思う?

白クマ:うおう、うおおう、うおおう、うおぉぉ!

飼育員:だめだめ、君の好物のアザラシなんて、そんなに簡単に、手に入らないよ。

白クマ:うおおぅうぅおぅお!

飼育員:あのね、読者がわからないよ。いつものタマキの自動翻訳装置を使おうか。

白クマ:うおおおうおぉぉうお…おじゃましまんにゃーわ。

飼育員:このタマキの翻訳機、やっぱり関西弁、しかも吉本新喜劇のギャグに翻訳するのだね?

白クマ:ごめんやしておくれやしてごめんやっしゃー!

飼育員:わかった、わかった。翻訳前は何ていっているのか興味深いね。

白クマ:ぼくは白クマ。本当の名前はホッキョクグマなんやけど、この名称で自己紹介すると、

「オスが子を食べる」とか「ロシア観測隊をおそう」とかロクなこと言われないから、

亀山のラーメン屋と間違えられることを承知で「白クマ」と名乗るのでっせ。それでも

「白クマ」といえば、鹿児島の人たちが、美味しいアイスクリームやというて喜んで

くれるから、まあ良しとせなあかん…

飼育員:わかった、わかった、白クマくん。君はおしゃべりなんだね。それに、亀山の

ラーメン屋まで登場するところをみると、今日も絶好調だね。

地球温暖化。北極の氷がとけて

飼育員:ところで白クマくん、うかない顔をしてるね?

白クマ:よう聞いてくれました。ご存知の通り、地球温暖化が進んでて、北極海の氷が

ごついペースでとけてるのや。

飼育員:そうだね。世界中の人たちが、危機感を持ってるよね。でも、君たち白クマにとっては、

氷に閉ざされてるより、エサがたくさんとれて、いいんじゃないの?

白クマ:いや、海しかない北極では、氷が陸地のかわりになるのや。アザラシが巣穴をつくるのも

氷の中や。その呼吸用の穴から出る匂いをもとに、ぼくら白クマは獲物をつかまえて

食べるのや。そやから北極海の氷がとけて「海水」ばかりになったら、アザラシを

捕まえる「陸地」がなくなることになりますのや。

飼育員:泳いで捕まえたらいいじゃないか?

白クマ:海水の中では、アザラシの方が圧倒的に泳ぐのがはやい。ぼくら白クマは、氷の上の

レスリングに持ち込まないと不利や。

飼育員:君ら白クマを襲う天敵は、いないでしょ?楽な生活環境じゃないの。

白クマ:いや、氷が少なくなったせいで、獲物をとるためにぼくらは泳ぎ続けないとあかん。

その結果、疲れて弱って、本来襲われるはずのなかった「シャチ」に、ぼくら

白クマが襲われるようになりはじめましたんや。くやしい…うっうっ…

飼育員:泣くなよ…そうか、北極の氷がなくなることは、君ら白クマにとって死活問題なんだね。

白クマ:そう、クマったことになってきた。

飼育員:泣いてるくせに、余裕あるなぁ。

真冬の北極を、船が航行可能に

白クマ:北極海の氷がなくなって、喜ぶヤツはおらんよ。

飼育員:いや、それがそうでもないんだ。

白クマ:なんやて?

飼育員:氷が少なくなったら、北極海を船が通れるようになる。

白クマ:北極海を通らないで、赤道のあたりを通ればええやないか?

飼育員:いや、ロシアの北を通る方が、ずっと近いのや。スエズ運河とインド洋をぬけるのと

比べて、日本とヨーロッパの距離が3割も短くなる。

白クマ:あのな、タイタニックを知ってるやろ?あの船は、海に浮かんでた氷にぶつかって穴が

あいて沈んだのや!いくら少なくなったかて、氷山だらけの北極海を、船が進める

わけがないやないか!

飼育員:大きな声を出しなさんな。それに、つばが飛んでるよ。今年の冬、フランスとロシアの

砕氷(さいひょう)タンカーが北極海を単独で航行するのに成功した。

白クマ:ぇええ?冬の北極海やでぇ?ちょっと前まで、絶対不可能やったはずや!

飼育員:その通りだ。温暖化の影響で、北極海が重要な航路に変わりつつある。

白クマ:そうか。それで、ロシアのプーチン大統領が3月の演説で笑みを浮かべながら

「北極海は重要や」と何べんも言うてたわけやな。

飼育員:君は、プーチンさんの演説もきいてるの?

白クマ:動物園の従業員食堂のテレビで、ニュース見てるがな。朝の「半分青い」かて、

すずめちゃんがどうなるか、毎朝楽しみにしてるでぇ。

航路よりも、北極のエネルギー資源

白クマ:何度もいうけど、温暖化というても、冬に北極海の氷がゼロになるわけと

ちがいまっしゃろ?いくら砕氷船でも、速度を落として進まなあかんでしょう?

飼育員:そうだね。フルスピードでぶっ飛ばすわけにはいかないね。

白クマ:それに、砕氷船いうたら、普通の船より作るのに金がかかりまっしゃろ?距離が

3割短くなるだけなら、インド洋を通った方が、安いのとちがいまっか?

飼育員:実は氷のとけた北極海の魅力は、「通れるから」だけじゃないんだ。

白クマ:…それ以外に、何かありますのか?

飼育員:実は、北極近辺の海には、石油とか天然ガスがたくさん眠ってるんだ。

白クマ:なるほど、わかってきたぞ。北極の氷がとけたら、その石油や天然ガスを簡単に

「掘り出し」て、さらに「運び出せる」ようになるわけやな。

飼育員:その通り。ロシアの「ノバテク」という企業が、砕氷LNG輸送船を15隻も建造した。

韓国からフランスまで「冬の北極海」の航海に成功したのは、このうちの一隻さ。

白クマ:そうか…北極海は、ロシアが虎視眈々(こしたんたん)と狙ってるわけやな。

飼育員:いや、目をつけてるのは、ロシアだけとちがうのだ。

白クマ:ロシアだけとちがう?まさか…いつもの、あの、人口の多い国…?

飼育員:そや。その国やがな。

白クマ:まねせんとって。

飼育員:すんまへん。

中国が関わり、勢力図が変わる

飼育員:中国は、北極海に突き出てるロシアのヤマル半島のLNGプロジェクトに、120億ドルも

お金を出してる。

白クマ:なるほど、そこで産出する天然ガスを優先的に手にいれようというのやな?

飼育員:そうやがな、そうやがな、そうやがな。

白クマ:おっ、あんたの関西系ギャグも、メチャ古いなぁ。

飼育員:ほっといてんか。

白クマ:習近平さんの「一帯一路」いう経済圏構想に、北極は入ってますのか?

飼育員:そう、中国は北極海の航路を「北極シルクロード」と呼んでるくらいだよ。

白クマ:ロシアと中国が協力して…。アメリカは、…何にも言わんと黙ってまんのか?

飼育員:アラスカの北側でのエネルギー開発は考えてるけど、正直なところ、北極海まで

開発予算がない状態だ。

白クマ:ということは、温暖化が進むほど、中国&ロシアの「社会主義コンビ」の思うつぼと

いうことやね?

飼育員:そう、30年前は、誰も見向きもしなかった北極だけど、これから「優先的」に「自由に」

利用する権利の争奪戦が始まってる、ということだね。

温暖化が進むほど…

白クマ:なあ飼育員さん、ぼくら白クマは北極の王者やろ?

飼育員:その通りだよ。

白クマ:「ライオンキング」みたいに、「シロクマキング」っていう映画作ってよ。

飼育員:くまの名前は「プーさん」が有名だけど…。

白クマ:…なんか、ぬけた感じやなぁ。…よし、「シロクマモン」ならどうやろ?

飼育員:熊本出身と思われるよ。

白クマ:「シラックマ」ならどうや?

飼育員:なんだか、そっけない、よそよそしい感じだなぁ。

白クマ:よし、ちょっと作風をかえて「北極戦隊シロクマジャー」とか「砕氷忍者シロクマン」

なんてどうや?

飼育員:何ていう怪獣を相手に戦うの?

白クマ:地球滅亡をたくらみ、二酸化炭素ビームで温暖化攻撃をしかけ、とけた北極の氷の

すきまからエネルギーをゲットする(手に入れる)体長が9mもある大型怪獣

E-Gets Niner(日本名:エゲツナイナー)さ。

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