2012-06

  文:玉木英明

2012年6月号 夏が来る。電力不足と原発再稼働は?

電力不足の夏が来る。

電気屋:えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!

雷 神:どうしたのじゃ、大声を出して?

電気屋:なくなりまっせ~、あらへんようになりまっせ~!

雷 神:だから、どうしたのじゃと聞いておるのだ。

電気屋:もう…あかん…。おしまいや…。うっううう…。

雷 神:泣いておるのか?理由を申せ。

電気屋:日本の原子力発電所が全部止まってしまいますのや!電気が

足らなく なってしまいますのや!日本は、もうおしまいや…。

雷 神:おぬし、男じゃろ?泣くな!

電気屋:よう見たら、あんた太鼓を背負って、おまけに上半身、裸やない

ですか?いったい、あんた誰や?

雷 神:わしか?わしは、雷神じゃ。雲の上で雷を落とす準備しとったら、

下界で騒いだり泣いたりしておる妙な奴がおるから見に来たのじゃ。

電気屋:雷神て…。あんた、神さまですのか?

雷 神:そうやがな。特に放電に関しては、プロや。

電気屋:電気に関して、何でも知ってますのやな?

雷 神:一応、フレミング左手の法則でも、塩化銅の電気分解でもわかるぞ。

電気屋:…中学生レベルやな…。

雷 神:何か、言ったか?

安全と電力。

電気屋:い、いや、別に…。ちょっと、その電気のプロに聞きまっせ。

野田総理大臣が、福井県の大飯原子力発電所の安全性を確認して、

再稼動をしようと言うたのに、みんな反対しますのや。

雷 神:まあ、福島第一原子力発電所が津波でああなったからのう。原子力

以外の方法で発電をできたらと、国民が思うのは当然じゃろなぁ。

電気屋:日本は、エネルギーの全くない国でっしゃろ?5月に北海道の

泊原発が停止したら、日本の原子力発電所は一基も動いてない

ことになる、いうて新聞にかいてありましたで!原子力発電を

しないと、この夏は16.3%も電力が不足して、日本中の産業が

マヒしてしまういうて関西電力が言うてましたで!

雷 神:大きな声をだしないな。ほんで、つば、飛んでまっせ。

電気屋:もう、おしまいや!エネルギーも電気も、何もない小さな4つの島で、

僕らはローソクの明かりで、衰退を待つのみや!

雷 神:あのな、耳元で大声で叫ばんといてえな。ほんで、つば、飛ばすな。

おぬしは、国民の安全と、原発の再稼動とどっちを優先したらええと

思うのじゃ?

電気屋:…ほら…安全…やろなぁ…。

雷 神:そうじゃ。経済的繁栄は大事じゃ。だが、安全に生活できることは、

さらに大事じゃ。先日、朝日新聞のアンケートでも、近畿地方の52%

の人たちが、原発の再稼動に反対しておった。賛成は29%しか、

いなかったのじゃよ。

電気屋:雷神さんも、朝日新聞読みますのやな?

雷 神:最近はi-Pad で読んでおるぞよ。

電気屋:うわ、最新鋭やなぁ。そやけど、ストレス・テストいうのをしたら、

原発が安全なことが実証できたいうて、政府の閣僚が言うてまし

たで。

雷 神:それは、原子力保安院が3日間でまとめた暫定基準での話やろ?

実際には、大飯原発に「免震重要棟」も「フィルター」もないことが

わかっておる。

電気屋:何ですのや?その「めし・重要だぞ~」というのは?

雷 神:なんぎな奴じゃのう。あのな、地震がきてもゆれにくい、ゆれても

機械がこわれない、要するにいかなる危機的状況でも、原子炉に

指令を出せる場所が、大飯原発にはないのじゃ。

まず再稼働ありき? 

電気屋:何で、政府は原発の再稼動をあせってますのや?

雷 神:夏のピーク時に、電力が16%以上足らなくなると試算してるからじゃ。

電気屋:ほら、やっぱり足らへんやないか。

雷 神:ただ、この政府や電力会社の発表した数値を6割の人が信用してない。

電気屋:そやけど、ほんまに不足し始めたら、どうしますのや?

雷 神:電力不足が生じたら、計画停電を受け入れてもよい、いうて8割の

人たちが調査に答えてるのや。

電気屋:ど…どういうことですのや?

雷 神:この夏を、原発ぬきで乗り切ろうやないかという、国民の覚悟が

できてるいうことじゃ。

電気屋:政府はどないしたら、よろしいのや?

雷 神:原発「再稼動」ばかりに力いれとらんと、原発ぬきで、夏を乗り

切る準備を真剣に始めたほうがええのとちがうかと、わしも最近

思うようになった。

原発なしで乗り切れるのか?

電気屋:ちょっと、聞きまっせ。原子力発電ぬきで、今年の夏はほんまに

乗り切れますのか?ほんとのとこ、教えてんか、なあ、ゴロゴロ

ちゃん。

雷 神:雷神つかまえて「ゴロゴロちゃん」はやめてぇな。ポイントは、

3つあるぞよ。節電、揚水発電、電力融通じゃ。

電気屋:節電はわかりまっせ。電気をなるべく使わないようにしましょ、

いうことでっしゃろ?

雷 神:そうや。去年の夏以上にがんばらなあかん。

電気屋:揚水発電いうのは、何ですのや?

雷 神:夜など電力の余ってる間に、水をダムの下から上にくみあげて

おいて、昼間のピークの時にそれを流し落として、水力発電を

しようというのじゃ。

電気屋:…あたま、よろしぃなぁ。そんなことできますのか?

雷 神:効率はよくないけれど、自然を使った「電池」じゃな。

電気屋:電力融通いうのは何ですのや?

雷 神:日本国中で電力の余ってる場所から足らない場所へ電力を融通

しよういうのじゃ。

電気屋:そんなん…簡単とちがいますのか?

雷 神:それが、だめなんじゃ。電力会社はそれぞれの管轄区域をもってて、

自分とこの地区は自分とこで電力供給をするという「自前主義」で

住み分けを行って、今まで収益を確保してきたのや。ところが、

電力の融通が行われると、電力の流通革命が始まってしまう。

電気屋:簡単に説明してくださいな。

雷 神:たとえば三重県で、ガソリンを売ってるお店が1軒だけやとするで。

そのお店は、お客さんにガソリンを買ってもらおうと、努力して

サービスの向上に努めると思うか?

電気屋:いや、逆やろなぁ。ほっといてもみんなガソリンを買いに来て

くれる。

雷 神:そうや。それや。今まで電力会社は、地域で1社だけしかなかった。

独占企業やったのや。

電気屋:そうか。そうすると、発電から送電までみんな一社でやってた

ことが、競争せなあかんようになるわけやね。

雷 神:その通りや。電力会社が入り乱れれば、安定して収益をあげられ

なくなるのじゃ。

電気屋:なるほど。地域の独占体制を守るために、日本国中で電力を融通

しあうことを止めてるのか…。これは、あかんなぁ。

雷 神:おぬしも知っておるとおり、この前の東北大震災では、東北へ

西日本から電力の供給ができなかった。技術的なことよりも、

政治的な理由のほうが大きかったといわれておる。大阪の橋下市長

が再稼動反対の立場でがんばっておる理由の1つには、そこにも

あるとわしは思っておるぞよ。

電気屋:雷神さんのそのスパッと切れ味のええ、しびれるようなカミナリを、

足の引っぱりあいをしてる日本の政府の大臣たちに、国会で落と

してやってもらえませんか?

雷 神:あかん、日本の大臣たちにカミナリを落とそうとしても、上手に

逃げられてしまうのじゃ。

電気屋:ええ?大臣たちが雷神さまのカミナリから、逃げる?

雷 神:そう。残念じゃが、わしのカミナリはすべて大臣の周囲におる

「秘書」におちてしまう。

電気屋:うーん、大臣の不祥事はすべて「秘書」が「かってに」したことに

なるわけですね?

雷 神:そのとおりじゃ。だから、わしらは大臣の 「秘書」たちを特殊な

呼び方でよんでおるぞよ。

電気屋:何て…呼んでますのや?

雷 神:聞きたいか?

電気屋:すごく聞きたい。

雷 神:「避雷針」や。