2015-10

文:玉木英明

     2015年10月号 通信の自由化で世界の景色が変わった。

電話の発明から140年

ベル :ワトソン君、ちょっと来てくれたまえ。

ゲーマー:…あの、僕はワトソンではありませんが…。

ベル :ゴチャゴチャ言わなくてよろしい、ワトソン君。ちょっと聞きたいことが

あるのだ。

ゲーマー:あの…僕はただのゲーマーです。

ベル :ゲイ・まぁ?…何だ、それは?

ゲーマー:誤解をされるくぎり方をしないでください。ゲームを一日中している人です。

あなたはどなたですか?

ベル :私の名前はベル。アレキサンダーグラハム・ベルだ。

ゲーマー:…グラハム・ベルって、あの、電話を発明した?

ベル :そうだ。エジソン君の家に遊びに行ったら、タイムマシーンの実験装置が

あったから、いたずらしてやったら、見たこともない時代に来てしまったのだ。

ゲーマー:うわぁ、エジソンはタイムマシーンも作っていたのですね?

ベル :しっ!…じつは、これは「ないしょ」だ。エジソン君に怒られる。

ゲーマー:わかりました。それで、ベルさん、何をお探しですか?

ベル :電話をさがしておるのだ。帰り方を、エジソン君に聞かねばならん。

ゲーマー:エジソンさんに、電話がつながるのですか?

ベル :「0120」から始まる無料通話が使える。

ゲーマー:それじゃ、よかったら僕の携帯をお使いください。

電話は一人一台の時代

ベル :うおっ!これが電話か!

ゲーマー:はい、そうです。今や日本では小学生や中学生でも持っています。

ベル :電話線はどこにあるのだ?

ゲーマー:ありません。電波でつながっています。

ベル :いつから、こんなものを人々が持つようになったのだ?

ゲーマー:1985年に通信の自由化が行われるまでは、基本的にベルさんが発明したものと

同じ電話のはたらきでした。しかし、大きく電話が変わり始めたのは、西暦

2000年頃からでした。

ベル :大きく変わった?

ゲーマー:ええ。電話が一家に一台でなく、一人1台の時代になり、その伝達方法が

電線から電波になったのです。

ベル :一人に一台?

ゲーマー:そうです。先進国では、一人1.2台を持っているのです。

ベル :ど、どういうことだ?

ゲーマー:ひとりの人間が、複数の携帯電話を持っていることがあるのです。

ベル :一度に二つの電話をかけるというのか?

ゲーマー:いいえ、電話をかける時は一つずつなのですが、職場用と家族用など、用途に

よって電話を入れ替えるのです。

ベル :日本はともかく、発展途上国ではまだまだ普及はしてないじゃろう…?

ゲーマー:いいえ。発展途上国でも8割以上、アフリカでも人口の7割以上の人が

携帯電話を使っています。

ベル :そ、そんなに「携帯電話」は、いきわたっているのか?

ゲーマー:はい、地球上の全人口70億人とほぼ同じ数の携帯電話が、いま世界中に

あります。

ベル :発展途上国に電話線を引くのは、苦労したじゃろう?山や大きな川は、

どうやって線を通したのじゃ?

ゲーマー:途上国で急速に電話が普及したのは、その「電話線」をひかずに「電波」で

通信ができるようになったからです。

ベル :電話料金はどうやってとるのじゃ?

ゲーマー:途上国では、プリペイド方式といって「シム」と呼ばれる電話番号を特定する

チップをあらかじめ購入するのです。こうすれば、電話会社も代金の

「取りっぱぐれ」がありません。

ベル :どこで、その「シム」は売られておるのじゃ?

ゲーマー:市場で、肉や野菜の横で売られています。

農民も遊牧民も

ベル :アフリカでも、電話は使われ始めたのじゃな?

ゲーマー:そうです。そのおかげで、社会の流れが大きく変化してきました。

ベル :例えば?

ゲーマー:アフリカの農業指導員は毎日80~90kmも離れたところに移動して、作物の

指導をしていました。ところが、電話のショートメッセージサービスという

方法で、種まきの時期や、肥料をどうすればいいのか、気温が急に変わりそう

なので対策をしたほうがいいとか、一度に多くのお百姓さんに向けて情報を

発信できるようになりました。

ベル :おお、素晴らしい。

ゲーマー:アフリカの農家の側もかわりました。

ベル :電話を手にいれてからか?

ゲーマー:そうです。今までアフリカのお百姓さんは、自分の収穫した作物がいくらで

売られているかをよく知りませんでした。それで、収穫した作物を、仲買人の

言い値で安く買いたたかれることが、少なくありませんでした。

ベル :そうか。お百姓さんが、商売人に「うまい汁」を吸われていたわけじゃな。

ゲーマー:そうです。ところが、携帯電話のおかげで先進国の先物市場にまで精通して

いるお百姓さんがでてきて、適正な作物価格を知った上で売買に応じるように

なりました。

ベル :ということは、農家が所得を大幅にふやせるようになったのじゃな?

ゲーマー:その通りです。ITが発展途上国にもたらした最大の恩恵は、

「人々による価格の発見」だと言われています。

ベル :アフリカには、定住してない遊牧民もたくさんいるじゃろう?

ゲーマー:はい、ケニアで遊牧生活をしているマサイ族の人たちも、携帯電話で自分の

牛が市場でいくらで売れるかを確認するようになりました。それから売るため

の旅に出て、売ったあとの現金も、持ち歩くと危険なので電話で「エムペサ」

と呼ばれる郵便為替のようなサービスでお金を入金して管理しているのです。

ベル :農家も遊牧民も、変わったのじゃなぁ。

ゲーマー:教育も変わってきました。世界には、まだ識字率の低い地域たがくさんあり

ます。本がないので、日々の会話だけが使う言葉の全てだという地域が多く

あります。そんな場所でも携帯電話に送られたメッセージで読み聞かせが

可能になりました。携帯が、途上国の教育水準をひきあげているとユニセフも

認めています。

道具を使うのは「人間」

ベル :私の発明した「電話」は、役にたっておるのじゃな?

ゲーマー:もちろんです。ベルさんの発明がなければ、今の世界はありません。

ベル :電話は、さらにこれからどう変わっていくのじゃろう?

ゲーマー:途上国では少し古い技術で電話が普及していますが、今後はスマートフォン

とかタブレットが広がっていくでしょう。新しい技術が急激に普及すれば、

今までの生活が大きく変わります。すると、その生活に追従できる人と、

できない人との間に格差が生じます。

ベル :なるほど。知ってうまくやって繁栄するひとと、知らずに貧困に落ち込んで

いく人ができるというわけじゃな。

ゲーマー:そうです。さらに情報を手に入れるだけでなく、発信もしやすくなります。

誤った情報、悪意のある情報が一気に広がる可能性もあります。ひと呼吸

おいて、深く考える力があればいいのですが、そうでないと、人々が短絡的な

行動をとる恐れもあります。

ベル :ということは、やっぱり、最新鋭の道具も、使う人間のうけた教育水準、頭の

良し悪しで価値が決まってしまうということじゃな。

ゲーマー:その通りだと思います。

正しい電話の使い方

ベル :ところで、君はさっきからずっとその「ケイタイ」電話を覗き込んで、何を

していたのだ?

ゲーマー:はい、ゲームをしていました。

ベル :1日に何時間ゲームをするのだ?

ゲーマー:夜も昼も、何時間でもやっています。

ベル :ちょっとでも時間があれば、ゲームをするのか?

ゲーマー:はい、10分間を惜しんでゲームをしています。

ベル :大切な若い時間を、無駄に消耗しているとは思わないか?

ゲーマー:特に、思ったことはありません。

ベル :最新鋭の道具も、使う人間のうけた教育水準、頭の善し悪しで、その価値が

決まってしまうものだ。

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