2014-10
文責:玉木英明
2014年10月号 正座は礼儀正しく、あぐらは行儀がわるい?
正座とあぐら。
あぐら:なあ、あんた、何をそんなに、かしこまってますのや?
正座 :何か、用か?ここのか、とおか?
あぐら:…あんたのギャグ、歴史の香りがしますなぁ。それ、漫才師の
「暁伸・ミスハワイ」のネタと ちゃいますか?
正座 :アーイーヤー!
あぐら:そんな漫才、最近の若い人らは、知りまへんがな。
正座 :そうか?わしのギャグは、いつも新鮮じゃぞ。この「アーイーヤー」という
のは、ハワイの言葉で「さあ、行くぞ」という意味なのじゃぞ。
あぐら:ホンマでっか?いや、知りまへんでしたがな。
正座 :あの頃の漫才は、今のバラエティー番組とは違って、出演していた芸人が
与えられた何分かを、一つの個性豊かな「作品」に仕上げておったのじゃ。
だから、見ている観客も、次にどんなフレーズが出てくるかをよく知って
いて、それを待っているのも、1つの楽しみじゃった。
あぐら:分かる気がしますなぁ。今の吉本新喜劇でも、出てきた芸人がどんなギャグを
言うか観客はよく知ってて、それを見るために、大阪の千日前に行くのやもの
ね。
正座 :そのとおりじゃ。だから、タマキタイムズでは、いつも昭和30年代の味わい
深いフレーズが登場するのじゃ。
あぐら:フレーズ?古ーズ?
正座 :ううむ、おぬし、なかなかやるではないか。座布団を一枚しんぜよう。
あぐら:へへっ、おおきに、ありがと…。照れるなぁ。そやけど…、面白い話をしたら
座布団が一枚もらえる「笑点」いうテレビ番組かて、みんな知ってるかどうか
あやしいでっせ。
行儀わるい?あぐら。
正座 :ところでおぬし、行儀のわるいやつじゃのぅ。座り方を変えたほうがよいぞ。
あぐら:僕の座り方「あぐら」は、平安時代やら鎌倉時代には、宮中では女性でも
されてましたんやで。
正座 :本当か?しかし、現在では、礼儀正しい座り方は、なんといっても、
「正座」じゃろう。
あぐら:「あぐら」を正式な座り方にしている国かてありまっせ。
正座 :ふっふっふ…。知っておるぞ。インドのガンジス川流域最大の都市で、
タージマハルのある場所、「アグラ」じゃろう?どうじゃ、わしの知識も
大したもんじゃろ?
あぐら:残念、ちがいまっせ。
正座 :アーイーヤー!
あぐら:あぐらは漢字で「胡座」と書くから、「コザ」とも読みまんのや。
正座 :胡坐(ござ)?
あぐら:そうでっせ。中国の漢民族から見て遠方にいる人や国を「胡」いう漢字で
指しますのや。秦とか漢の時代には、匈奴のことを「胡」の国いうて呼んで
て、そこの国の人らの正しい座り方が胡坐、あぐらでしたんや。
正座 :ほう、そういえば、中国共産党書記長やった、胡錦涛(こきんとう)さんの
姓も「胡」じゃのう。
あぐら:ベトナムの首都ホーチミンも、漢字で書くと「胡志明」でっせ。
正座 :なるほど。それはわしも知らなかった。
あぐら:そう、胡麻(ごま)も胡瓜(きゅうり)も胡椒(こしょう)も、
胡座(あぐら)と同じように「胡」に関係したものなんでっせ。
礼儀正しい?正座。
正座 :ううむ、誰が何と言おうと、礼儀正しいのが「正座」で、行儀悪いのが
「あぐら」じゃ!
あぐら:突然、大きな声をだしないな。ほんで、つば、飛んでまっせ。
正座 :わしが中学生だったころ、悪いことをして職員室に座らされるときは、
必ず正座じゃったぞ!
あぐら:何をしましたんや?
正座 :体育館の壁に落書きした…おほん、おほん、話にのせるな。今、わしは
職員室での正座の話をしておるのじゃ。罰を与えられた生徒が職員室で
あぐらをかいて座っているなどということは絶対になかった。なぜなら、
あぐらは行儀の悪い座り方だったからだ。
あぐら:いや、あんたが職員室に正座させられたのは、「罰」やったのや。正座して
足がしびれてきて、足が痛くなってきてもガマンをして座らされることが、
「罰」として最適やったんでっしゃろ?
正座 :ううむ、確かに、正座は足がしびれる。
あぐら:関節が悪い人は、正座をすることがきびしい。特に現代の日本人は、椅子で
生活しているから、正座に慣れてまへん。
正座 :お葬式をお寺でするときは、必ず正座をするじゃろう!
あぐら:最近は、お寺でも畳の上に椅子をおきますでぇ。葬儀会館ではもちろん
椅子(いす)や。椅子から立ち上がって歩いて焼香するから、立ちあがるのに
時間もかからへんし、足がしびれて焼香でコケる人かておらん。
正座 :わしの話をことごとく否定する奴じゃのう。料亭で芸者さんと酒を飲む時に、
芸者たちは、必ず座布団の上で正座して、三味線を弾くではないか!
あぐら:今、芸者さんを探してくる方が難しいでっせ。もし、どこかにいたとしても、
その芸者さん、人間国宝級の年齢の場合が多い。
正座 :琴を弾く女性は、どうじゃ。絶対に正座をするじゃろう?
あぐら:正座する人かて、足に負担がかからんように色んなグッズが登場してますの
や。お尻の下に置くパッドも、かなりいい形のものが作られてまっせ。
そろそろ、あんたも感覚を変えたほうがええのとちゃいまっか?
正座 :…うっうっ…。わしはもう、時代遅れなのか?
あぐら:泣かんでもええがな。時代遅れというのとちがって、作法も時代の流れに
したがって、正式なものがどんどん変化していく、いうことでっせ。
正座 :女の人が、人前で「あぐらをかく」ことなんか、最近までは考えられ
なかった。ましてや電車の床や、道端で地面に座り込んで、短いスカートの
制服を着た女子高校生が、ベチャッとあぐらをかいて座っている姿なんか、
想像すらできなかった時代じゃった。
あぐら:でも、逆に電車の中で座席の上で、正座している人かて、おりまへんで。
「きもの」を着なくなったから
正座 :ちょっと、教えてくれぬか。どうして日本で、あぐらが行儀悪いということに
なったのじゃ?
あぐら:男であろうと女であろうと、日本の「きもの」を着てあぐらをかくと、股の
あいだが丸見えになって、みっともない。だから、行儀の悪いことの例えに
用いられるようになったのでっしゃろな。
正座 :ひと昔まえに、外国の人たちが日本にくるときには、正座を練習してきた
なんて話もきいたことがあるぞ。
あぐら:理解できまっせ。欧米から来た人たちにとって、靴をぬいで家にあがることも
経験したことがなかったやろうし、和室に通されて、イスのない畳の上に
「お行儀よく」座らなあかんわけや。彼らにとっては、驚きであり、緊張の
作法やったろね。
正座 :欧米の人達は、正座が苦手だというのも聞いたことがあるんじゃが。
あぐら:胴長で足の短い日本人の方が、確かに正座に向いてる体型やろね。
正座 :外国人を自分の家に招く側の日本人かて、「どうか、足をくずしてください」
と英語で何と言えばいいのか、真剣に考えたらしいぞ。
あぐら:そうやね。「緊張せずにくつろいでください」という意味やものね。
正座 :タマキタイムズの話題は、身近でおもしろいと声をかけてくれる人が増えて
きたそうじゃ。
あぐら:評判の上に、あぐらをかいてはあきませんで。