2018-06

文責:玉木英明

      2018年 6月号 世界をリードせよ、日本の量子コンピューター

ロケット人間が…

マグマ: ちょっと、きみ!そこの少年!

少年 : うわっ、びっくり!おじさん、「つの」が生えてるの?

マグマ: 驚かせてすまない。私はロケット人間なのだ。

少年 : ロケット人間?まさか、いつもタマキタイムズに出てくる、古い時代の

ヒーローですか?

マグマ: いや、私は比較的新しいぞ。1966年だ。

少年 : …どこが新しいのですか?

マグマ: まあいい。このあたりで、悪者「ゴア」を見かけなかったかい?

少年 : ゴア?…ああ、先月来ましたよ。ヒグマ退治のアル中を知らないかと聞かれて…

マグマ: 「マグマ大使」ではなかったか?

少年 : 地球を征服するために、日本を征服するのだとよく分からないことをいってたので

「中国へ行ったほうがいい」と、お勧めしておきましたが。

マグマ: そうか…。やっぱり…。

少年 : おじさん、誰ですか?

マグマ: 「ゴア」が、探していた「マグマ大使」だ。

量子コンピューター

少年 : あなたがマグマ大使ですか…。そのマグマさんが、どうしてここでウロウロ

してるのですか?

マグマ: ゴアが言ってなかったか?あいつは日本の優れた技術を奪い去るつもりだ。

少年 : 最近では、中国の方が、研究の質・量共に充実してきたと聞いていますが?

マグマ: 日本の方が優れていることが、まだ多くあるのだ。ゴアに聞こえるといけないから

小声で言うが、日本の「量子コンピューター」はすごいのだ。

少年 : 量子…コンピューター?何ですか、それは?

マグマ: 物質をかたち作る陽子や電子、素粒子などを量子と呼ぶのだが、この量子の

「波動」を使って動くのが量子コンピューターだ。この分野で、日本は、

今、世界最先端の理論をもっているのだ。

少年 : …何がすごいのですか?

マグマ: とにかく速いのだ。通常のコンピューターの1億倍の速度が出るのだ。

少年 : ちょ、ちょっと、ヒグマ退治さん。分かりやすく説明してくれますか?

マグマ:  あのな、ちゃんと覚えてくれ。マグマ大使だ!普通のコンピューターで、

3年2か月かかる計算が、量子コンピューターなら1秒で終わるのだ。

少年 : …ごつい…やないですか。

マグマ: 電気の消費もわずかだし、機械自体も安価なのだ。

少年 : 安価?…いくらくらいなのですか?

マグマ: 最新のもので、17億円だ。

少年 : 高いじゃないですか!

マグマ: 日本のスーパーコンピューター「京(ケイ)」が、1120億円だから、

量子コンピューターは、驚くほど安い。

組み合わせ最適化問題

少年 : そのコンピューター、何に使うのですか?

マグマ: 実は、この量子コンピューターは、ある分野に特化して能力を発揮するのだ。

少年 : ある分野?

マグマ: 「組み合わせ最適化問題」だ。

少年 : …かみ合わせ、イカはさいてから、かむんだい?

マグマ: どう聞いたらそうきこえるのだ。

少年 : すんません、むつかしくて…

マグマ: 「巡回セールスマン問題」を考えよう。一人のセールスマンが、5つの会社を

まわるのに、いくつのルートがあるか考えてみなさい。

少年 : 5社まわるだけでしょ?60通りのまわり方を考えればいいですね。

マグマ: それが10社をまわるとなると、180万通りのルートができるのだ。

少年 : ぇぇえ?じゃ、20社まわると…

マグマ: 1の後ろにゼロが18個ならぶだけのルートがあることになる。この中からいちばん

いいルートを探すとなると…

少年 : 探すのは、あきらめましょか。

新薬の開発を加速させる切り札

少年 : 実際に「量子コンピューター」は、あるのですか?

マグマ: ある。昨年5月、中国のフォルクスワーゲン社が、GPSで北京市内の1万台の

タクシーのうち、400台を空港に集めたい時、どの車をどのルートで集めれば

最適かを量子コンピューターに算出させたんだ。

少年 : 混んだ道もあるでしょ?

マグマ: そういう道をGPSで調べさせて、避けて通らせるシュミレーションを、行わせたのだ。

少年 : …調べるのに、どれくらいの時間が、かかりました?

マグマ: ほんの数秒だ。

少年 : 普通のコンピューターならどれくらいかかるのですか?

マグマ: 30分はかかる。

少年 : …量子コンピューター、すごく役に立ちそうですね。

マグマ: そう、例えば新薬の開発だ。条件を入力しておいて、どの物質をどう組み合わせれば

最適か、考えさせるんだ。

少年 : できあがる薬の、シュミレーションですね?

マグマ: そうだ。ガンの特効薬などでは、1000万種類の物質の組み合わせを考えなくては

ならない。それを、人がいちいちビーカーに入れて実験しなくても、結果を

予想できるのだ。

日本のスパコン「京(けい)」は

少年 : 量子コンピューターは、日本にあるのですか?

マグマ: いや残念ながら、まだない。

少年 : 日本のスーパーコンピューター「京(けい)」は、今、世界で何番目に速いのですか?

マグマ: 去年2017年のコンピューターランキングでは7位と8位だ。君が言った通り

1位と2位は中国製だった。

少年 : …あかんやないですか。

マグマ: そう、あきまへん。

少年 : マグマさんまで、まねせんとって。

マグマ: すんまへん。

日本人の業績、外国に先をこされないためには

少年 : 量子コンピューターの理論を考えた人は、日本人なのですね?

マグマ: そう、東京工業大学の西森教授たちだ。ただ、発表からすでに10年以上がたっている。

少年 : ということは、世界中がすでにその理論を使って…

マグマ: そうだ。ただ、東京大学の古沢教授たちが最近、さらに能力の高い

量子コンピューターを発表したんだ。昨年のノーベル物理学賞の候補にもあがった。

少年 : よかった…うれしいやないですか…。

マグマ: 泣くな。ここからが勝負だ。日本人が理論で先に行ったのに、うろうろしてるうちに、

特許を先にとられてしまったものが、今までにいくつもあった。

少年 : ほんまですか?

マグマ: ほんまだ。光ファイバーは、東北大学の西澤先生が理論を発表したのだけれど、

日本の役所が審査に時間をかけているうちに、アメリカに特許をとられてしまった。

少年 : あかんやないですか。

マグマ: 遺伝子のゲノム解析も、東京大学の和田さんという人が一気に解析を行う方法を

発表したのだけれど、日本の役所が予算をつけるかどうかを長い時間検討してる

うちに、アメリカが開発してしまった。

少年 : 何が問題なのですか?

マグマ: 素晴らしい理論や研究成果を前に、価値が高いということを、見抜けない日本の

体制が問題なんだ。通産省でも文科省でもいい。省庁を越えた動きの早いところが、

研究のための人材とお金を大量につぎ込む体制が必要だ!

少年 : 先月の「ゴア」さんも「マグマ大使」さんも日本が大好きなんですね。

マグマ: 日本が大好きなのは、ゴアと私だけではないぞ。ウルトラマン君や

ジャイアントロボ君、ビッグエックス君、スペクトルマン君やミラーマン君なども、

日本が大好きだ。どの番組でも、当時のデカい怪獣と正義の味方は、なぜかみんな

日本ばかりに現れて、日本語を使っていたのだ。

少年 : これは、タマキのホームページ「昭和の部屋」で確かめねばなりませんね。

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