2017-05
文責:玉木英明
2017年 5月号 日本を超える?独自の進化を続ける中国の自販機
パンダの親子が…
子パンダ : とうちゃん、のど、かわいた。
父親パンダ: 水筒もってきたやろ?お水、飲んどきな。
子: もう、のんでしもた。
父親: あかんがな。ちゃんと加減しながら飲まな、あかんていうたやろ?
子: そやかて、のど、かわいたもん。
父親: ほな、川の水、飲もか。
子: いやや、いやや、川の水は、いやや。
父親: なんでや?
子: 川の水は、あまくない。
父親: あまい川の水かて、とうちゃんは知ってるで。
子: ほんま?なぁなぁ、どこの川の水?
父親: あまの川や。
子: …とうちゃん、チープなギャグや。
父親: よしわかった。何がのみたいのや?
子: コーラがのみたい。
父親: …あのな、ここは中国や。こうやって、シルク道路を歩いてるパンダの親子が、
コーラ飲んでたら、変やないか?
子: とうちゃん、シルクロードや。
父親: どうでもええ。とにかく、このあたりには、売店はあらへんよ。
子: あっ、あそこに自動販売機があるよ、とうちゃん。
高性能、日本の自販機
父親: あのな、ここは中国や。日本とちがって、中国の自動販売機はうまいこと
動かへんので有名や。
子: とうちゃん、なんで?
父親: あのな、中国の自販機は性能が悪いのや。日本のは、紙幣や硬貨をうまく認識
するから、たくさんの自販機が、故障もなしに上手に動くのや。
子: とうちゃん、あそこにある自販機は、中国製?
父親: あのな、中国では自販機にお金入れたのに、品物が出てこないことなんか、
しょっちゅうや。なんでかわかるか?それはな、中国のお金、とりわけ紙幣は、
使用年数が長いから「くしゃくしゃ」で「ふにゃふにゃ」で「しわしわ」や。
そやから、自販機にいれたら、すぐ詰まるのや。
子: とうちゃん、中国の自販機も使ってみようよ。
父親: あのな、中国では、これからも自販機は普及せえへんよ。だいたい自販機いうのは、
品物と金庫とを、誰もいない道端に、ぽつんと置いてあるのと同じや。ということは、
泥棒にとってみれば、こんなうれしいものはない。こじ開けて「お金も品物も
いっしょに持っていってください」というてるようなもんやないか。
子: それでもとうちゃん、中国の自販機、すごい勢いで増えてるらしいよ。
中国の自販機の数は
父親: そんなわけないよ。
子: そやかて、ぼくらの保育所の先生が、紙しばいで教えてくれたんや。
父親: …紙しばい?
子: そう、先週の「白雪姫と中国経済のゆくえ」いう題の紙芝居や。
父親: …おまえの保育所の紙しばい、えらい内容やなぁ。
子: 日本には今250万台の自販機があるのやて。
父親: えらい数や。日本はやっぱり自販機大国やなぁ。
子: それに比べて、中国にある自販機は2015年末に、たった18万台やそうや。
父親: ほれみてみい。中国の自販機は少ないやろ?
子: でもな、とうちゃん、中国の自販機の数は、増え方がすごくて、年ごとに倍々の
数が製造されて、2020年には年間34万台が新しく世に出るそうや。
父親: …日本の新規生産台数は…?
子: 30万台や。
父親: …ということは、もうすぐ中国の自販機が、日本の年間出荷台数を上回る、
いうことか?
子: そうや。
なぜ爆発的に増えているのか
父親: あのな、むすこ、何度もいうようやけど、日本の技術は高いのや。中国の自販機
メーカーは、そう簡単に日本と同じ自販機を作れるわけがないやろ。
子: とうちゃん、中国にある自販機の7割は、日本の富士電機の子会社「富士冰山」
いうところが製造してるから、技術的には、日本製の機械と何にも変わらへん
らしいよ。
父親: …あのな、さっきも言うたように、自販機自体より、中国の紙幣に問題がある
のや。
子: とうちゃん、中国で自販機の数が爆発的に増えてきた理由は「お金を入れなくても
いい」ことにあるのやそうやよ。
父親: …あのな、お金を入れないで買える自販機の飲み物なんて、あらへんよ。
子: 先日の紙芝居、「赤ずきんと中国の自販機革命」で先生が教えてくれたよ。
父親: …革命?とうちゃんの知ってる、文化大革命とは、ちがうのやな?
自販機の革命?
子: まず、ほしいジュースのボタンを押すのや。
父親: お金は、入れへんのか?
子: 入れへん。自販機の液晶画面に示される二次元コードをスマホのアプリで
読むのや。
父親: スマホ?
子: そう。自分のスマホに商品の画像が出たら、「暗証番号」を入れるのや。
父親: ほう、スマホ決済やな!
子: その通りや。お金の支払いが済んだら、スマホに「決済完了」と字が出て商品が
出てくるのや。
父親: なるほど、自販機が紙幣や硬貨を本物かどうかを見分ける必要がないのか!
子: とうちゃん、それだけやない。泥棒かて、こわくない。
父親: なんでや?
子: そやかて、自販機をこじ開けたって、中にはお金はほとんど入ってない。
父親: 日本では、Suica(スイカ)みたいに電車に乗る時の電子マネーは、みんな
使うのやけれど、それがwaon(ワオン)みたいにチャージするものになると、
めんどうで、使える店がきまってるから、普及が遅いと聞くで。
子: 逆に、中国の「微信支付」(ウィーチャット・ペイメント)いう電子マネーやら、
阿里巴巴(アリババ)の運営する「支付宝」(アリペイ)いう電子マネーは、
中国紙幣よりも信用度が高くて大人気やて。
父親: なるほど。国土が広くて、様々な民族が混ざり合ってるところでは、
「定まった価値」のものに魅力があるのやろね。
子: とうちゃん、もう一つ、中国の自販機が爆発的に増えてる理由があるのや。
父親: な、な、なんや、まだあるのか?
中国・自販機普及の最大のけん引役
子: 実は、自販機1台1台が商品の販売を正確に行ってくれることも大事なんや
けれど、それよりも、国中の自販機を統括してリアルタイムで販売を把握して
いる「オペレーター」を作ったことが、中国の強みらしいよ。
父親: オペレーター?
子: 北京友宝在線科技(Ubox)いう中国最大手の会社は、6万台の自販機を一手に
管理してて、コンピューター画面上の大きな中国の地図に、各地区で売れてる
商品の画像がリアルタイムで映るのや。
父親: 6万台が一度に?
子: そうや。画面上でジュースの販売本数がカウントマシンみたいにに増えて、
自販機ごとの売り上げと在庫を、瞬時に、全て把握することはもちろんのこと、
ビッグデータを蓄積して、天候や曜日と商品の売り上げの関係とか、自販機ごとの
補充商品とそのルートまで自動的に決めるようにプログラムが組まれてるのやよ。
父親: それも、保育所の紙しばいで見たんか?
子: そうや。自販機の世界は、大きく変わるで。
父親: 優秀な日本の自販機は…
子: さっきのUboxは、シンガポールで飲み物やサンドイッチを自販機で販売する
無人コンビニをオープンさせたし、クレジットカード使用可能な自販機も開発
した。管理システム「込み」で中国が世界に進出し始めたのや。
日本の自販機。世界に広げるには
父親: おまえの保育園、いろんなこと教えてくれるなぁ。
子: いや実は、ぼくのは知識だけで、実際に中国の自販機が、日本製を追い抜く
ような性能で動くのかどうか、残念ながら体験したことがない。要は、ぼくには、
体験教育が一部欠落しているということや。
父親: と…とうちゃんは、お…おまえに、何をしてやったらええのや?
子: まず、そのスマホをぼくにかして。
父親: よっしゃ、お安いごようや。それから?
子: 中国の自販機の電子決済が有効かどうか、2~3回ためしてみるで。これは、
中国経済のゆくえを知り、ぼく自身の経験を積むためにも、どうしても必要な
ことなんや。
父親: …わかった。たのむから、おまえのコーラばっかりで試さんと、とうちゃんの
ウーロン茶でもためしてや。