2012-03
文:玉木英明
2012年3月号 パリ、エッフェル、ルーブル。
とても優雅でおしゃれな響きのフランス語。
じゅげむ、じゅげむ
落語家 :じゅげむ、じゅげむ、後光のすり切れ…
オスカル:オウ、ジュテーム!ジュテーム!
落語家 :ちがいますでぇ「じゅげむ」でっせぇ。
オスカル:ジュテーム!
Etudier des mots français du…
落語家 :しょうがないなぁ。いつもの自動翻訳機を使おかいなぁ。
オスカル:オウ、ボンジュール、コマンタレヴ?誰がフランス語を話して
まんのや?
落語家 :この翻訳機、フランス語も関西弁に翻訳するのかいな?
オスカル:まあ、よろしいがな。それより、誰かここでフランス語で
しやべってましたやろ?
落語家 :いや、しらんでぇ。
オスカル:そやかて「ジュテーム、ジュテーム」いうて聞こえてきましたで。
落語家 :もしかして、それは僕がさっき練習してた、
「寿下無」いう落語とちゃいますか?
オスカル:それは、何ですのや?
落語家 :八五郎いう男が、生まれたばかりの自分の子供に名前をつけようと
お寺の和尚にええ名前をたずねに行ったのや。そしたら、和尚が
縁起のええ名前をたくさん言うたものやから、それを全部子供に
名前としてつけたら、長すぎてえらいことになった、という
面白い話や。
オスカル:オウ、ジュゲムいうのはどういう意味なんでっか?
落語家 :限りなく長い寿命いう意味や。何でこれがフランス語なんでっか?
オスカル:「あなたを愛してます」をフランス語で言うと、「ジュテーム」
やがな。
落語家 :ごめんなぁ、フランス語知りまへんのや。日本の教育は第二次世界
大戦以後、英語一辺倒でフランス語を教えてくれる環境が、なかった
んや。
オスカル:そうやね。小学校でも中学校でも、外国語いうたら英語をさしてる
ことは、ちょっと残念やね。しかも、流行したものは歌でも車でも服
でも、アメリカのものばかりや。先日、オールディーズの曲ばかりを
演奏するパーティーがあるから、いうので参加したらアメリカのオー
ルディーズの曲ばっかり演奏してた。
ベートーベンもルパンもフランス人
落語家 :なあ、フランス人で有名な人て、誰がおりますのや?
オスカル:何をいうてますのや?ナポレオンがおるやないか。ベートーベンか
て、フランス人や。
落語家 :ああ、そうか。
オスカル:ルパン3世いうのは知ってまっしゃろ?
落語家 :そうか、ルパンいうたら、アルセーヌ・ルパンのことやな?
オスカル:そうや。しかもルパン3世の有名な映画「カリオストロの城」は、
モデルになったのはフランスのモンサンミッシェルやで。
落語家 :ぼんさん…道でシェー?
オスカル:どうして、坊さんが道でシェーしまんのや?それに、「シェー」
いうたら、40年も前に流行った「おそ松くん」の中に出てきた
「イヤミ」のびっくりした時の叫び声やね? →おそ松くん?昭和の部屋へ
落語家 :あのなぁ、何でフランス人のあんたが、「イヤミ」を知ってます
のや?
オスカル:まあ、よろしいがな。それより「モンサンミッシェル」は、
Monマウンテン:山)St(セント:聖なる)Michel(マイケル)
やから、「聖マイケル山」いうて日本語に直したらええわけや。
モンサンミッシェルは日本の厳島神社と姉妹関係を結んでるのや。
落語家 :それは知らなんだ。いろんなつながりがありますのやなぁ。
オスカル:そう。フランス語かて、日本でぎょうさん使われてまんのやで。
落語家 :たとえば?
オスカル:パンもマヨネーズもフランス語や。エステティックいうたら
「esthétique:美」いう意味やし、「授業をサボる」いうのかて
「sabotage:サボタージュ、破壊行為」いうフランス語なんや。
落語家 :破壊行為?サボるいうたら「怠ける」いう意味とちゃいまんのか?
オスカル:もとはフランスの労働者たちが、労働争議の途中に製品や機械に
損害を加えたことをサボタージュと言うたんや。
落語家 :フランスの労働者がストライキするのは、日常茶飯事やものね。
オスカル:「トラバーユしようと思ったけど、かっこいいプレタポルテを着た
コンシェルジュが、素敵なオーデコロンの香りをただよわせて、
モンブランをすすめてくれたから、思わずデミタスを買っちゃった
よ。」を日本語になおすと、「転職をしようと思ったけど、かっこ
いい既製服をきた門番が素敵な香水の香りをただよわせて、白山ケ
ーキをすすめてくれたから、思わず半カップケーキを買っちゃった
よ」になる。
落語家 :フランス語の流れるような発音は、どんな単語を聞いても優雅に聞
こえますなぁ。
オスカル:そう。特に女性が話しているフランス語は魅力的や。
落語家 :フランスでは、英語を理解できるのに、絶対英語をしゃべらない
人も、多いそうやね。
オスカル:イタリア人は逆や。英語をよう知らんのに、英語で話しかけて
きまっせ。
パリ症候群
オスカル:イギリスのBBCが「日本人はフランスに行くとパリ症候群になる」
という番組をやってましたで。
落語家 :なんですのや、それは?
オスカル:「パリ」に日本人が、胸を期待にふくらませていったのに、実情が
現実と大きくちがうことにショックを受けて帰っていくという番組
やった。
落語家 :そんなに、パリの実情はひどいの?
オスカル:確かに、どろぼうやジプシー、物乞いなども日本より比較にならん
ほど多い。日本では監視もモニターもない店で、商品が手に届くと
ころに並べてあって、客がお行儀よくレジまで品物を持っていって
代金を払う。こんな国民性の日本人に、フランス人はみんな驚きま
っせ。
落語家 :日本にかて、万引きをする奴はおる。
オスカル:それはそうなんやけど、日本ほどモラルのしっかりしてる国は他に
あまりない。
落語家 :たとえば?
オスカル:パリの地下鉄の駅で酔っぱらって、ホームのベンチで寝たら、
確実に、ポケットの財布はない。日本なら、静かに寝かしておいて
くれる。
落語家 :それは、モラルがしっかりしてる…からかな?無関心を決め込んで
るからとちゃいまっか?
オスカル:確かに「無関心」は、日本、特に都会にあると思う。道を聞こうと
思って誰かに話しかけようとしても、誰も視線を合わせようとして
くれへん。特に西洋人が外国語を話しながら近寄っていったら、
日本人は、みんなが避けながら歩いていく。
落語家 :ごめんなぁ。日本人は恥ずかしがりで、気が弱いのや。
オスカル:そやから、パリのジプシーに狙われるのも日本人や。
落語家 :「ジプシー」て何ですのや?
オスカル:もとは遊牧民のことなんやけど、パリでは浮浪児をさす。毎日うろ
うろして、スリや置き引きしてる子らや。フランス人でないことが
多い。
落語家 :その「ジプシー」が日本人の何を狙いますのや?
オスカル:お金やがな!日本人は、近寄ってくる子供達に大声で「失せろ!」
と言えへん。そやから、4~5人でMONEYと書いた紙を日本人旅
行者に突きつけて、日本人がタジタジしてる間に、紙の下でカバン
の口を開けて財布とったり、ナイフでウエストバッグを切って
奪って逃げるのや。
落語家 :そりゃ、ひどい!警察は、ど、ど、どないなってますのや!
オスカル:つば、飛んでまっせぇ。あのな、パリでは、ジプシーに何か盗られ
る奴は、とられる方が悪いと思ってる。日本人はスキがありすぎる
のや。
落語家 :えげつないやないか!日本人をどう思ってまんのや!
オスカル:つば、飛ばさんとしゃべってぇな。カメラを三脚につけて、自動
撮影で写真を撮ろうとボタンをおしてカメラを背にしたとたんに、
そのカメラを持って逃げていく奴がおるというのは有名な話や。
落語家 :日本人は、自分は自分で守るという意識がうすいのやろなぁ。
「お人好し」という言葉がぴったりや。
トワ・エ・モア
オスカル:「カラよ」という日本の歌はええ歌や。フランスでも有名でっせ。
落語家 : …なんやて?
オスカル:「カラよ」という歌や。
落語家 : …何も入ってない、という意味やけど…。
オスカル:トワ・エ・モア、日本語で「あなたと私」いう名前の歌手が
歌ってた。
落語家 :あのなぁ、それは「カラよ」とちがって、「空よ(そらよ)」
やがな。 →トワ・エ・モア?昭和の部屋へ