2017-08

2017年 8月号 ビッグ・データが世界をかえる。第4次産業革命

文責:玉木英明

厩戸皇子(うまやどのみこ)

皇子: おい、そこの町人。ちょっと話がある。

町人: うわっ、びっくりした。あんた、えらいかっこうですなぁ。

コスプレの大会でもありますのか?

皇子: 8人の話を同時に聞いていたら、目まいがしてきたので、ちょっとタイムマシンで

気晴らしに出たら、ここに来てしまったのだ。

町人: 教科書で、あんたを見たことありますけど、誰でしたっけ?

皇子: 私は、厩戸皇子(うまやどのみこ)じゃ。

町人: 「のみこ」さん?…知らんなぁ。

皇子: ちょっと、くぎり方が…。太子とも呼ばれておるぞよ。

町人: たいこ?明太子?

皇子: 読み方が…。では、法隆寺は知っておるか?

町人: どこありますのや?

皇子: 斑鳩じゃ。

町人: まだらバト?

皇子: 「いかるが」と読むぞ!…では、遣隋使(けんずいし)はどうじゃ?

町人: そんな石、見たことない。

皇子: 小野妹子(おののいもこ)も知らぬか?

町人: イモ子?えらい名前の女の子やな。

皇子: 男だ!…こりゃ、あかん。

経済大国?日本。

皇子: 実は、私は日本経済の将来を案じておるのだ。

町人: 日本経済?

皇子: …実は、先日もタイムマシンで気晴らしに出たら、行きすぎて22世紀まで行って

しまったのだ。そしたら日本は…

町人: はっはっは。日本は経済大国、心配いりませんで。社会学者のエズラ・ボーゲルの

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」いう70万部も売れた本、知ってまっしゃろ?

皇子: それは、1979年ころの本じゃろ?

町人: そうでっせ。日本の高い経済成長は、国民の高い学習意欲と読書習慣がもとで、

イスラエルに次いで世界2位の数学力は…。

皇子: それから何年たったと思っておるのじゃ?

町人: 今、2017年だから…

皇子: 40年もたっておるのじゃぞ。

町人: そやかて、GDP(国民総生産)は世界第3位でっしゃろ?

皇子: 一人当たりのGDPは22位、一人当たりの所得は25番目、先進国30か国の中で、

25番目といえば立派な下位グループじゃ。

ビッグ・データ

町人: 日本が、下位グループ?

皇子: 日本の企業がすごいともてはやされたのは、もう何年も前の話じゃ。

町人: 確かに、三洋電機やシャープ、東芝も、最近大変な状態です。何でこんなことに

なったのか、わかりませんのや。

皇子: そうじゃろ。日本人は、既成の上に緻密にものを組み上げて行くのは上手じゃが、

未経験の制度や社会システムを新たに構築するのは下手なのじゃ。

町人: あの、社会科の苦手な私にも、わかるように言うてくださいな。

皇子: 中国やインド、欧米では人工知能とか、インターネットを通じてどんどん「ビッグ・

データ」がつくりあげられておる。

町人: 何ですか、その「ビッグ・データ」いうのは?

銀行も造幣局も…。

皇子: おぬしが、100円のみかんを買ったとするぞ。

町人: はいな。1000円札で支払いまっせ。

皇子: お釣りをわたすぞ。

町人: はいな、900円のおつりね。

皇子: ほい、これが100円の領収証じゃ。

町人: ほら、上手に売り買いできましたでぇ。

皇子: 今のを「お金を動かした」記録だけ残したら、どうなる?

町人: ど、ど、どういうことでっか?

皇子: 私のスマホと、おぬしのスマホで数字のやりとりをするのじゃ。やりとりの形跡が

残り、双方の財布の中の残高が変わり、お金の動きに対して生じる消費税の支払い

まで税務署に対して完了してしまうとしたら…。

町人: …ごついやないですか。

皇子: そう。硬貨を製造する必要も両替する必要も、領収証を発行したり、それを張り付けて

税金を納める手間も必要ない。

町人: …ということは。

皇子: そう、造幣局も銀行も税務署もほとんど必要なくなる。0.1秒もあればすべて終わると

いうことじゃ。

合理的な「宿泊」

町人: のみこさん、もっと「ビッグ・データ」について教えてくださいな。

皇子: たとえば、海外旅行にいこうと決めた。おぬしなら、どうする?

町人: ぼくですか…?JTBか近畿日本ツーリストのお店で、パックツアーに申し込んで…。

皇子: 自分で航空券とホテルの予約をとれば、手数料がほとんどかからんぞ。

町人: そうですね。よし、インターネットの「ブッキング・コム」で予約しましょか。

…でも、これってビッグ・データですのか?

皇子: まだちがう。さあ通常の日本人が想像しにくいところへ足をふみいれるぞ。

町人: う、う、何かこわい。

皇子: レンタカーやタクシー、電車で移動しないで、ホテルに泊まらないで海外旅行にいく

方法がある。

町人: な、なんていいました?

皇子: 「シェアリング・エコノミー」という考え方じゃ。

町人: 酒をシェーしながら一気飲み?

皇子: どうきけば、そう聞こえるのじゃ?みんなでシェア(共有)して、みんなが利益を

得ようという考え方じゃ。

町人: は、はよ教えて、ホテルに泊まらない旅行の方法!

皇子: つばが飛んでおるぞ。たとえば、東京で「私の使ってないマンションを、あなたの

ホテル代わりに安価に使ってください」という情報がスマホで調べられるとしたら、

どうする?

町人: うれしいけど、そんな場所、あぶないのとちがいますか?

皇子: 何十人もが「大丈夫」といってて「安全が確実」な場所で格安ならどうじゃ?

町人: 無登録で消防法の基準に適合していない、お役所の認めていない場所は…

皇子: おぬしは、ヤフー・オークションで物を探すことはないか?

町人: ありまっせ。レビューを読んで、新品にせよ中古品にせよ、どんな品物で出品者かを

納得して買います。

皇子: そう、ビッグデータを使う寝場所は、「宿泊」のオークションといえる。

町人: 「民泊」と呼ばれてますね!

皇子: そうじゃ。ただ、悲しいことに日本では「ビッグ・データ」の構築方法ではなく、

宿泊施設として規制するかどうかの問題ばかりに目がいく。

合理的な「タクシー」

皇子: 電車もなくて、タクシーもいなくて困っている時、「誰か車に乗せてくれたら」と

思ったことはないか?

町人: あります、あります!

皇子: 自分の行きたい所をスマホで発信したら、「乗せてあげてもいいよ」という誰かの

空いた車がいると、瞬時にわかったらどうだ?

町人: うれしいけど、そんな車、あぶないのではありませんか?

皇子: さっきの民泊と同じじゃ。ビッグデータで安全を確かめればよいのじゃ。

町人: なるほど、ビッグデータを使う移動は「相乗り」のオークションですね。

皇子: 乗せる側も、人を乗せればガソリン代くらいすぐに得られる。

町人: まさに両方に徳がありますね。

皇子: そう、これがビッグデータの一部じゃ。アメリカでは、ウーバーという

「相乗りシェア」の企業が急成長して、企業価値7兆円の大企業になった。

今ある職業の半数が消える?

町人: ホテルやタクシーが「ビッグデータ」に飲み込まれていくとなると…。

皇子: そう、旅行代理店は不要、一般の車に「安価に」乗せてもらえば、タクシーも

いらなくなる。さらに現金を使わなければ、両替も銀行も必要ない。硬貨の流通量が

減れば、硬貨の原料の金属や紙幣の紙も印刷も不要になる。

町人: 人が…いらなくなりますね。

皇子: そう、オックスフォード大学の研究で、日本の一般の仕事は、人工知能やロボットに

代わられて、15年間で47%が消えると試算されておる。

第4次産業革命

皇子: 「ビッグ・データ」による大変革を、第4次産業革命とよんでおる。

町人: ビッグデータって、どこにあるのですか?

皇子: アメリカは、グーグルやアマゾンなど企業にあるし、エストニアのように政府が

整備しておるところもある。

町人: 日本は…

皇子: まず「ビッグデータ」の司令塔組織をつくるとこから始めねばならん。

町人: 何から手をつけたらいいのか…。

皇子: とにかくやってみなきゃいかん。日本は人材も大幅に不足しておる。

町人: のみこさん、言葉に熱がこもってますね。日本の国に対する、並々ならぬ情熱が

感じられます。

皇子: …さて、私は、飛鳥時代に帰るとするぞよ。

町人: とぶとり時代?

皇子: 「あすか」じゃ!