2019-03
文責:玉木英明
2019年 3月号 遺伝子組み換え作物。加速する品種改良
息子と義母が…
義母: ちょっと、ここへ座ってください。
息子: お母様、いったい何ですか?
義母: 今まで私はがまんして言わないようにしてきました。でも、今回だけはあなたに言って
おかなければなりません。
息子: お母様、何のことですか?
義母: 私は武士の娘、あなたがすすめるこの遺伝子組み換え野菜とやら、こんなおかしなもの、
私は食べられません。
息子: おかしなことはありません。このとうもろこしは、遺伝子組み換えによって作られた、
ちゃんとした食べ物です。
義母: ほうら、やっぱりあぶないやないの。遺伝子の組み換えられた作物なんて、食べるのを
ご先祖様が許すわけがありません。
息子: 76億人の世界の人口が、2050年には97億人になります。あと30年の間に、農作物の生産量を
50%増やさないといけないのです。
義母: 農地を広げれば、こと足りるでしょ?
息子: お母様、森林や牧草地をなくして農地にすることは、大規模な自然破壊です。
義母: 農地を広げずに、食料を増やすなんてできるわけ、ないやないの。
息子: ですから、今ある農地を有効に使って、単位面積あたりの収量をふやすしかありません。
「品種改良」をスピーディーに
義母: 遺伝子の組み換えなんて、収量がちょっと増えるだけでしょ?食料問題を解決できる
わけは、ないやないの。
息子: お母様、遺伝子の組み換えによって増える作物の量は、ちょっとではありません。
1996年から導入した遺伝子組み換えで、収量が22%も増えたのです。
義母: …ごついやないの。
息子: そうです。それだけ作物の収量を増やしながら、日本の総農地面積の5倍、
1950万ヘクタールの森林を守ることができたのです。
義母: 農作物は「品種改良」で収量を増やすべきよ。遺伝子の情報を組み換えて、
作物に実を多くつけさせるなんて、神様がゆるすわけ、ないやないの。
気候変動に立ち向かう救世主
息子: お母様は、最近、夏が暑くなっているとおもいませんか?
義母: 気候変動っていうやつでしょ?不安定な天候や自然災害が増えてきたことは、
私も気づいてるわ。
息子: 困ったことは、それだけではありません。異常な高温で雪がなくなり水が枯れたり、
ミツバチがいなくなってしまった話も、ご存知でしょう。
義母: だからといって、作物の遺伝子を組み換えるのはどうかしら?
息子: 遺伝子を組み換えれば、除草剤で雑草だけ枯れるような作物とか、殺虫剤をかけなくても
害虫に対して抵抗力のある作物がつくれるのです。
義母: …それは、ほんまなの?
息子: それだけではありません。現在、すでに遺伝子を組み換えて「干ばつに極めて強い作物」や
逆に「水につかっても育つ作物」、さらには「少しの肥料でも高い効率で養分を取り入れて
いく作物」がつくりだされているのです。
義母: …ということは、このむちゃくちゃの気候の中で、遺伝子組み換え技術が私たちの救世主に
なるかも知れへんということ?
息子: そのとおりです。
隠れた飢餓(きが)
息子: お母様、「隠れた飢餓(きが)」という言葉をお聞きになったことがありますか?
義母: それは、なに?
息子: ごはんは食べることができてても、人間が微量必要な栄養素が欠乏して病気になったり
死んだりしてしまうことです。
義母: …そんなこと、ほんまにあるの?
息子: アフリカやアジアの貧困な25万~50万人の子供は、ビタミンAの欠乏で失明し、その半数は
半年以内になくなっているのです。
義母: 「ダネイホン」ではだめなの?
息子: 貧困な地域の人たちには、サプリメントを買う余裕はありません。
義母: …それを遺伝子組み換えなら、なんとかできるとでもいうの?
息子: 2000年、スイスのインゴ・ポトリクスと、ドイツのピーター・ベイヤーという科学者らが、
遺伝子組み換えでビタミンAを作りだすイネ「ゴールデンライス」を開発したのです。
義母: どうせ、その人たちが大金持ちになっただけでしょ?
息子: いや、2004年に、その特許権を持つシンジェンタ社は、発展途上国を救うために
「ゴールデンライス人道委員会」というのを設立して、権利を譲り渡したのです。
義母: …ええこと…するやないの。
息子: ただ残念ながら、まだゴールデンライスは実用化されていません。
義母: なんで?なんでやの?
息子: 開発を進めてきたポトリクス博士は、遺伝子組み換えに反対する人たちに
「遺伝子汚染の生みの親」と非難されてます。2013年にもフィリピンの国際稲研究所で、
反対派の人達にフェンスを破壊・進入されて、研究中の苗が根こそぎ引き抜かれました。
義母: ひどい、あんまりやないの。
遺伝子組み換え作物がハワイを救った
息子: お母様は、レインボーパパイヤをご存じですか?
義母: パパイヤ鈴木なら知ってるわよ。
息子: 1990年代はじめにハワイのパパイヤに「輪紋ウイルス」が急速に広がりました。
義母: …それって、病気?
息子: そうです。このウイルスに感染すると、パパイアの木の成長がとまり、実がまずくなって、
最終的に木ごと枯れてしまうのです。
義母: それで、ハワイは、パパイヤは、ど、ど、どうなりましたんや?
息子: お母様も、ドモることがあるのですね?
義母: 動揺すると、ドモるのよ。
息子: 5年の間にハワイのパパイヤの4割以上がこの病気に感染して、壊滅的な状況になりました。
義母: …解決できたの?
息子: ハワイ大学とコーネル大学の研究者たちが、遺伝子組み換えによって輪紋ウイルス抵抗性
パパイヤの開発に2年で成功、すぐに商業栽培が認可され、農家に無償で提供されました。
義母: ものすごいスピードやないの。
息子: そうです。2002年には、ハワイのパパイヤの生産量は元の水準まで回復して、2011年には
日本でも輸入されるようになりました。
遺伝子の組み替えと温暖化
息子: 傷がついても色が変わらないリンゴやジャガイモ、耕さない畑で栽培できる作物など、
遺伝子組み換え作物は、なおも開発が進んでいます。ザ・タマキタイムズ2009年11月号も
見てくださいね。
義母: え?傷がついても色の変わらないリンゴ?ジャガイモ?耕さない畑の作物?
息子: そうです。傷がつかなければ、廃棄されません。廃棄されなければ温室効果ガスも
出しません。また、土を耕さない作物栽培は「不耕起栽培」といって、土壌を耕す時に
空気中に放出されてしまう二酸化炭素がありません。さらに耕作をしないので、
トラクターのエンジンから出される二酸化炭素も減らせます。
義母: これは「品種改良」ではとうてい追いつけないスピードね…。ねえ、遺伝子組み換えの
作物や食品に対して、何を、どう気をつけてたらええの?
息子: 遺伝子を組み換えることは、確かに人間の都合のよいように作物を作りかえていくことに
ちがいありません。だから研究には細心の注意をはらっていくことが必要です。倫理的にも
許されることなのかどうか、確かめながらすすめる必要があります。それに、地球規模の
食糧難を打開するためには、日本人も研究を進めて世界の中で研究の先駆者になれるよう
努力しなければなりません。
義母: わかりました。この遺伝子組み換えのお野菜、私も食べることにしましょう。
息子: お母様に認めていただけて幸いです。
義母: 認めたわけやありません。私も何かお手伝いしようと思ってるだけです。
息子: ありがとうございます。では、この野菜をそえて、最高の味で召し上がってください。
義母: え?何にそえろというの?
息子: きまってるでしょ?ラーメンです。
「ダネイホン」って何だ?